第10話 何ものをも貫く槍

「思いのまま……か」


 ハツカは自分の中に新たに芽生えた【髪の毛を統べるモノ】の力を確かめるように、グール達を見回した。

 大柄のグールをはじめ、十数体のグール達が歯を剥き、ハツカを取り囲んでいる。

 さっきまでそれは絶望の光景だったが、今はもう違う。


 グール達の髪の毛の全てを掌握しているという事実が、ここまで自分を安心させるものなのかと、冷静な自分にハツカ自身驚いていた。

 ハツカは、グール達の動きを封じる方法を考えながら恐る恐る【髪の毛を統べるモノ】の力を使ってみる。

 [髪の毛操作]の要領で力を込めると、十数体のグールの髪の毛が一斉にゾワゾワと動き始める。


『ナニ、ナニ、ドウシタ』


『髪、変、動ク』


『勝手ニ、髪ガ、ナンデ』


 違和感に気付いてグール達が、髪の毛を抑える。

 しかし、そんなことではハツカーー【髪の毛を統べるモノ】に操られた髪の毛は止まらない。


 グール達の髪の毛が、噴き上がるように一気に伸びたかと思うと、そのまま彼らの全身に絡まりつき、グールの体を縛りあげた。

 体の自由が効かなくなったグール達は、次々と地面に転がる。


『動ケ、ナイ!』


『解ケ! 解ケ!』


『グガァ! 人間ノ、クセニ!』


 グール達は怒り暴れるが、髪の毛に縛られたその姿は、黒いミノムシのようで、文字通り手も足も出ない。


「できた……」


「ほれほれ、息つく暇なぞないぞ。これで済むとは思っとらんじゃろ」


 謎の美少女の言葉にハッとして、ハツカは自分の腕を握り潰した大柄なグールの方を見る。

 他のグールが成す術なくジタバタしてるなか、大柄なグールだけが髪の毛を食い破り、拘束から逃れようとしていた。

 その目はまだ死んでいない。


『グラァ! グラァ! ニンゲン、コロスー!」


 大柄なグールは獲物に反撃された怒りを真っ直ぐハツカにぶつけるように睨みつけてきていた。


(やっぱり、知能もパワーもこいつだけは頭一つ抜けている)


 髪の毛の拘束を解かれる前にトドメをささなくては。

 しかし、


「ど、どうしよう」


 分からない。

 縛るだけなら[髪の毛操作]と同じ感覚で行えたが、それ以上の事は分からない。


 【髪の毛使い】の時は攻撃スキルを持っていなかったから、いきなり【髪の毛を統べるモノ】になったと言われたところで、どうすれば攻撃できるのか見当もつかなかった。

 武器も持っていないからといって、素手で殴りかかるわけにもいかない。


 圧倒的優位にも関わらずオロオロし始めたハツカに、少女がため息をつく。


「主殿は、思ったよりアホのようじゃ。思うままにできるのじゃからイメージすればよい」


「イメージって言ったって……」


「仕方ないのう。ほれ、特別サービスじゃ。手伝ってやる」


 そう言って少女はハツカの手を握ってくる。


「ちょ、手!」


「うるさい、黙っておれ」


(なんだ、この威圧感……!)


 少女の何とも言えない不思議な雰囲気に気圧され、ハツカは言われるままになる。


「イメージするのじゃ。主殿の武器はグールの髪の毛。その全てが必殺の槍であり、その全ては何物をも貫く」


(必殺の槍……何物をも貫く)


 少女の言葉を反芻しながら頭の中で想像する。

 それを補填するように手を介して少女からイメージの片鱗が流れてくる。

 大柄なグールの髪の毛が荒れ狂う槍となって、仲間のグール諸共すべて貫く様を。


「今じゃ! 力を込めろ」


 イメージが形になった瞬間、少女の掛け声と同時に大柄なグールの髪の毛に意識を集中する。

 次の瞬間--


 ズドドドドドドドド!


 大柄なグールの髪の毛の一本一本が、強靭な槍となって伸び、その頭を、体を、手も足も、全身の至るところをズタズタに突き刺した。

 髪の毛の槍は容赦なく周りのグール達も全て突き刺し、息の根を止めていく。

 グール達が声をあげる間もなく、一瞬のことだ。


 そこには、幾万もの髪の毛に貫かれたグール達の遺体が、墓標のように立っていた。

 特に髪の槍の発生元になった大柄なグールの遺体は、髪の毛の生えていた頭の方から、貫かれるというよりはすり潰されており、原型をとどめていない。


「倒した……の?」


 さっきまで自分を圧倒していた相手を、瞬殺してしまったことが信じられない。

 力が抜け、パタンと倒れ込む。


「お疲れ様じゃ、主殿。スキルの使い方はまだまだじゃが、初めてじゃしの。褒めてつかわす」


 腕の中の少女が、いい子いい子とハツカの頭を撫でてくる。


(……なんで僕は年下の女の子に、頭を撫でられてるんだ? ん? 頭?)


 恥ずかし過ぎるから「やめて」と言いかけたところで気付いた。

 ハツカの頭は毛根が全て焼き尽くされるほどの大火傷を負っているのだということを。


「ふんぎゃああああああああああ!」


 ついでに、緊張が解けたからか、潰れた右手の激痛も戻ってきた。


「ぬおおぉぉぉぉおおおおおおお!」


「カッカッカ、そこまでの怪我を負うことも、今後はそう無くなるじゃろう。どうせ明日には治っておるわ。【髪の毛を統べるモノ】の力には追々慣れていくがよいぞ」


 少女が何か言って笑っているが、痛みで悶えるハツカの耳には届いていなかった。




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 あとがき


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