第3話 シルルさんといっしょ
「情けないよなぁ……」
ハツカはいつも通り中規模街リールカームと隣村との間にある森で薬草を採取していた。
[髪の毛探査]の触覚がウニョウニョ動き、[髪の毛操作]で髪の毛がせわしなく薬草を集める。
薬草採取の調子は悪くないが、ため息が漏れた。
落ち込んでいる原因はもちろん昨日の冒険者ギルドでの一件だ。
ハツカは、自分を庇ってくれた女の子一人守ることもできず、ゴルデオの一発で気絶してしまったことを気にしていた。
あの後他のギルド職員が出てきて事を収めてくれたので、シルルは無事だったらしいが、冒険者としても男としても自分の情けなさに涙が出そうだった。
「しかも、もっと情けないのは……」
「凄いっ! 凄いです、ハツカさんっ! いつもこんな風にして薬草採取してたんですね」
ハツカが後ろを振り返ると、シルルがキラキラした目でこちらを見ていた。
「い、いやぁ……それほどでも」
薬草採取依頼に、まさかのギルド受付嬢シルルさん同行。
どうしてこうなった。
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少し時間を戻して、今日の朝のこと。
「ハツカさんっ、ごめんなさい!」
起きてすぐ、ハツカの目の前には頭を下げるシルルがいた。
「なぜ?」と問う間もなく、ぐいぐいとシルルが迫る。
「私が余計なことをしたからご迷惑をおかけしてしまって……怪我は痛みませんか? 気分はどうです? 何か違和感のある部分は……ああっ、それよりまだ起きちゃダメですっ!」
寝起きで何が何だか分からない内に、シルルに寝かしつけられる。
そもそもここはどこで、何で目の前にシルルがいるのかが分からない。
(え、もしかしてここって天国?)
目に涙を溜めてウルウルしてるシルルが可愛い過ぎて浮かれそうになるが、横になった反動で頭に痛みが走る。
「……いったあ!」
痛みで、ゴルデオに殴られて気絶したところまですっかり思い出す。
その後のことはシルルが説明してくれた。
他のギルド職員が仲裁に入ってシルルが無事だったこと。
ゴルデオはギルド内で揉め事を起こしたので、罰金と三日間の謹慎を受けたこと。
ハツカは目を覚さなかったので、ギルドの医務室に運ばれたこと。
見ると、横には緊急時に怪我などした冒険者を寝かせるためのベッドがいくつか並んでいた。
ただ、窓の外が明るい気がする。
「僕、何分くらい気絶してた?」
「え、時間ですか。もう朝なので半日くらいですかね」
「半日!?」
どうやらハツカは一晩丸々気絶していたようだ。
しかももう朝とか、ゆっくり寝ている場合じゃない。
「薬草とりにいかないと!」
「ええっ、何言ってるんですか! 今日は起きちゃダメです。気絶するくらい頭を強く打ってるんですよ!」
「そうは言っても、僕にも生活があるし……」
一般的に危険な仕事の冒険者は収入が良いが、比較的安全な薬草採取は他の仕事と大差ない。
一日休むだけで家計に大打撃だったりするのだ。
「それに今日の薬草が納品されないとギルド的にもマズくないかなーって」
「う……確かにそうではあるんですけど……」
薬草採取は手間の割に報酬安いが、需要は高い。
しかし、冒険者にとって薬草を原料にした回復ポーションは必須なので、流通量を下げて価格が上がると冒険者の生存率に大きく関わってくる。
そういった回復ポーションのような必需品の価格コントロールも、冒険者ギルドの仕事なので、いつも通りの薬草の供給が無いのはとても困るのだ。
この中規模街リールカームの薬草の仕入れ総数に対して、ハツカが納品する薬草の割合は決して少なくはない。
一日休んだからといって、急に薬草不足になるというほどではないだろうが、困る程度の量であることは確かだ。
しかも、昨日のシルルの話では、もう一つの重要な薬草の仕入れ先である隣村からの行商の到着が今月は遅れている。
ギルド職員としては、できる限り薬草を確保しておきたいはずだ。
「うーん……確かに薬草は必要ですけど、ハツカさんに万一のことがあったら……」
「そいつが心配ならシルルが薬草採取に付いていけばいいじゃん」
「きゃっ!」
「えっ!?」
突然割り込んできた声にシルルとハツカが驚き、声のした方へ振り向く。
「よ、邪魔するよ」
そこには、入り口にもたれかかるようにシルルとは別の女性ギルド職員が一人立っていた。
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● 絶エズ研鑽ヲ重ネシモノ
◯ 研鑽ノ全テヲ失イシモノ
◯ ソレデモ誰ガタメニ抗イシモノ
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