第3話(4)待ち伏せ

「下校の時間じゃあ!」


「テ、テンション高いね……」


 声を上げる竜子に太郎が苦笑する。


「それはテンションも高くなるじゃろう」


「いきなり声を上げないでよ……」


「なにか問題があるか?」


「不審者として通報されちゃうよ?」


「ワ、ワシが⁉」


「うん」


 太郎が頷く。


「そ、それは妙な大人とかじゃろう?」


「いやいや、校門で奇声を上げるのもなかなか……」


「き、奇声ではない!」


「じゃあなに?」


「雄叫びじゃ!」


「雄叫びね……」


「そうじゃ」


 竜子が頷く。


「どちらにしろ……」


「どちらにしろ?」


「ご近所迷惑だからやめようね?」


 太郎が笑顔を竜子に向ける。


「!」


 竜子がビクッとなる。


「ね?」


「あ、ああ……」


 竜子が首を縦に振る。


「良かった」


 太郎も首を縦に振る。


「た、太郎のやつ、だんだんとママさんに似てきよったのう……」


 竜子が小声で呟く。


「なんか言った?」


「な、なんでもない!」


 竜子が首を左右にぶんぶんと振る。


「そう」


「そ、そうじゃ……」


「まあいいや」


「う、うむ、さあ、帰ろうではないか!」


「こんにちは……将野竜子さん、将野太郎くん……」


 校門で制服を着た女の子が挨拶をしてくる。


「あっ……」


「むっ……」


 竜子はその脇を黙って通り抜ける。


「ちょ、ちょっと、まさかのスルー⁉」


「い、いや、子どもに声をかけてくるなんて不審人物じゃと思ってな……」


「子ども同士でしょうが!」


「知らない人とはお話をするなとママさんから言われておるからな……」


「し、知らないって、まさか忘れたの、この顔を⁉」


 女の子が自らの顔をビシっと指差す。竜子がそれをじっと見つめる。


「……」


「………」


「…………」


「……………」


「………………」


「ず、随分と長考するわね……」


「……ああ!」


「や、やっと思い出したようね……」


「シエラレオネ!」


「伊吹玲央奈よ! なによ、シエラレオネって!」


「西アフリカの国じゃ」


「ア、アフリカ⁉」


「分かりやすく言うと、ギニアとリベリアの間じゃな」


「ピ、ピンと来ないわよ! 悪いけど! ていうか、国名の時点で違うでしょ!」


「まあな……この間、道場で会ったの」


「そうよ、対局したでしょう」


「どうしてここが分かったんじゃ?」


「道場の受付で住所を記入していたでしょう。本当はいけないことだけど、特別にそれを見させてもらってね……この住所だったらこの小学校に通っているはずだと思って……読みが当たったわね……」


「……家に直接来れば良かったのではないか?」


「いきなり訪ねるのは失礼でしょう」


「いや、いきなり学校に来とるじゃないか……大体じゃな……」


「大体?」


「ワシがお主のように私立の小学校に通っていたら、どうするつもりだったんじゃ?」


「はっ⁉」


 玲央奈がハッとなる。竜子が呆れる。


「気が付かなかったのか……」


「け、結果オーライよ! それよりも貴女!」


 玲央奈が竜子に向かって右手の手のひらを広げる。


「な、なんじゃ?」


「道場になかなかやって来ないと思ったら、最近は将棋バトルを荒らし回っているみたいね……アカウント名、DKDって、貴女のことでしょう?」


「‼」


 竜子が驚く。玲央奈がフッと笑う。


「やっぱりね……」


「な、何故に分かったんじゃ?」


「いくつか対局を見させてもらったわ――将棋バトルには観戦機能もあるからね――短期間でメジャーな定跡や戦法をほとんどマスターしたみたいだけど……どこか独特な雰囲気の指しまわしでピンときたのよ」


「ほ、ほう、なかなかやるのう……」


「当たり前でしょう? 私を誰だと思っているの? 未来の名人よ」


「未来の名人か……ならばワシは竜王じゃ!」


「! 竜王とは、お、大きく出たわね……まあいいわ。そろそろまたリアルで対局したくなったんじゃない? これをどうぞ……」


「うん? チラシ?」


「将棋の大会よ。関東地方で一番強い女子小学生を決めるの……優勝は私がもらうつもりだけど、貴女が出ない大会で勝っても意味がないわ……当然参加するわよね?」


「ほう、面白い……やってやろうではないか!」


 竜子がチラシを力強く握りしめて笑みを浮かべる。

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