第3話(3)DKD

「……はあ~」


「どうしたの、ため息なんかついて?」


 一緒に登校しながら、太郎が竜子に尋ねる。


「……」


 竜子が太郎の顔を見つめる。


「うん?」


 太郎が首を捻る。


「……なんでもない」


「いやいや、なんでもないっていうことはないでしょ」


「……したい」


「え?」


 太郎が耳をすます。


「将棋バトルをしたい!」


「うわっ、び、びっくりした……」


 竜子が上げたいきなりの大声に太郎が戸惑う。


「何故にこのスマホでは出来んのじゃ!」


 竜子が自らのスマホを握りしめて振り回す。


「まあ、それはキッズ用のスマホだからね。通話とかしか出来ないし……」


「む~!」


「将棋バトルは課金要素もあるから……」


「課金とは?」


「お金がかかるってこと」


「むう……」


「パパやママに相談してからじゃないと……」


「いちいち相談なんてまだるっこしいのう……!」


「勝手に変なことしたら怒られるよ」


「む……」


「ママが怒ったら怖いのは分かっているでしょ?」


「!」


 竜子が目を見開く。


「ね?」


「……地震や火事や雷よりも恐ろしい……!」


「ぼ、僕はそこまで怒らせた記憶はないけど……」


 震える竜子を見て、太郎は苦笑する。


「はあ~」


「ははっ、またため息ついた」


「ふん……」


「まあ、絶好調だからね。パパが言うにはSNSでも話題になっているみたいだよ。突然現れたアカウント名、『DKD』の快進撃……」


「……時に太郎よ」


「なに?」


「『DKD』とはどういう意味じゃ?」


「あれ? 知らなかったの?」


「ああ」


 竜子が頷く。


「Dragon King‘s Daughterの略だよ」


「……なんじゃそれは?」


「英語で『竜王の娘』って意味だよ」


「ほう……」


「竜子のことを表しているんだよ」


「……そもそもとして」


「うん」


「世間一般の者は『竜王』のことなんて知らんのじゃから、英語で、しかも略してもなんのこっちゃ分からんと思うのじゃが……」


「まあ、それはパパのセンスだから」


「……早くしたいの~」


「帰ったらいくらでも出来るでしょ」


「……もう帰るか」


「いやいや、ダメだよ」


「何故?」


「何故って……学校に行くのは義務だからね」


「義務のう……」


「そうだよ」


「学校より大事なこともあると思うんじゃが……うん、きっとある!」


「いや、自分で決めないでよ!」


 太郎が困惑する。


「……であるからして……」


「zzz……」


 先生が授業中に居眠りをする竜子に気が付く。


「竜子さん……!」


「ふあっ⁉」


 先生に声をかけられ、竜子が起きる。


「……今の続きを読んでください」


「えっと……『孫子曰はく……』」


「だ、だれもそんな授業はしていません!」


「ああ、『源氏物語』じゃったか?」


「い、今は国語のお時間です!」


「漢文も古文も国語じゃろ?」


 竜子が首を傾げる。


「ま、まあ、いいです……とにかく起きていてください……」


「はあ……」


 体育の時間。ドッジボールを行っていた。


「へっ、弱いやつから狙ってやるぜ……それっ!」


 ある男子がか弱い女子に向かってボールを思い切り投げる。


「きゃあ!」


「……!」


 竜子が女子に当たりそうになったボールを片手で受け止めてみせる。


「りゅ、竜子ちゃん……」


「女を狙うとは……気に入らんのう……そらっ!」


「ぐあっ⁉」


 竜子が投げたボールを受けて、男子が思い切り吹き飛ばされる。


「……おかわりじゃ」


「い、いや、もうカレーはないですよ⁉」


「む……それならば隣のクラスからもらってくる」


 竜子が廊下に出る。


「りゅ、竜子さん、待ちなさい! 給食の意味が……!」


 先生が慌てて追いかける。


「ま、まあ、色んな意味で小学校は竜子にとって規格外かもしれないけど……」


 竜子の様子を見て、太郎が苦笑交じりに呟く。

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