第4話(1)大会開幕!
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「へえ~ここにいるのが全員参加者なの?」
太郎がホールを見回す。大きめのホールには、女子小学生とその付き添いの大人たちがひしめいていた。ママが頷く。
「どうやら、そうみたい。すごい規模ね……」
「そりゃあなんて言ったって関東大会だからね!」
パパがえへんとする。
「……なんでパパが胸を張っているの?」
「い、いや、なんとなく……場の雰囲気に乗せられて……」
ママから冷ややかな目を向けられて、パパはすぐさま恐縮する。
「しかし……」
「うん?」
「大会には初出場なのに、よくこんな規模の大会に出られたわね、竜子ちゃん……」
ママが周囲を見回しながら呟く。
「それは“これ”がモノを言ったね」
パパがカバンから紙を取り出す。
「賞状?」
「いや、免状だよ」
「めんじょう?」
ママが首を傾げる。
「これはその人の棋力――将棋の強さ――を表す証明書なんだ。日本将棋連盟が発行している正式なものだよ」
「これをどうしたの?」
「コピーしたものを送ったら、大会への参加がすんなりと承諾されたんだよ」
「へえ……」
ママが自らの顎に手を添える。
「でも、大会とかには出たことないのに、そんなのよくもらえたね?」
「将棋バトルのゲーム上と同じ段位を申請・取得することが出来るんだ」
太郎の問いにパパが答える。
「そういうものがあるんだね……」
太郎が感心する。ママが口を開く。
「……ということは?」
「そう、ここにいるのは女子小学生の中でもかなりの実力者揃いだよ」
パパが周囲を見回しながら呟く。
「た、大変そうだね……」
「かなり大変だと思うよ」
「だ、大丈夫かな?」
太郎が心配そうに首を傾げる。
「う~ん……」
「え?」
「大丈夫……じゃないんじゃないかな」
「ええ⁉」
パパの言葉に太郎が驚く。
「実際初参加だしね。今日は大会の雰囲気に慣れるのが一番だよ」
「そ、そうか……」
「まあ、終わったら皆で美味しいランチでも食べに行こう」
パパが太郎の頭を優しく撫でてやる。
「ランチのう……」
「あっ、竜子!」
「お手洗い迷わなかった?」
「ママさん、その心配は無用じゃ……」
竜子は会場を真剣な目つきで見据える。ママが笑う。
「ふふっ、気合は十分ってところね」
「ああ……」
「……それでは、ご案内します。自分の名前を呼ばれた子は、手を挙げている係員さんの近くに行ってください……」
案内のアナウンスが流れる。パパが反応する。
「おっ、そろそろ始まるようだね……」
「……将野竜子さん、Hブロックへどうぞ……」
「おう!」
竜子が勇ましく返事する。
「お、おうって……」
「それではママさん、パパさん、太郎、行ってくるのじゃ」
「あ、ああ……」
「ええ」
「りゅ、竜子、頑張って!」
「任せておけ! ……ああ、パパさんよ」
呼ばれた場所へ向かおうとした竜子が振り返る。
「ど、どうしたの?」
「さっき、ランチと言っておったが……」
「あ、ああ、竜子の好きなものを食べよう!」
「あいにくじゃが……それはキャンセルじゃ」
「えっ⁉」
「ディナーの予約をしておいて欲しいのじゃ。よろしく頼む……」
そう言って竜子が颯爽と歩き出す。
「ディ、ディナーって……」
「どういう意味?」
太郎が面食らっているパパに尋ねる。
「ランチ、お昼ご飯と思ったんだけど、ディナー、晩御飯と言った……」
「! そ、それって……」
「ああ、竜子はこの大会、午前中の予選ブロックで終わるつもりはない。午後の決勝トーナメントも勝ち進むつもりだ……!」
「ふっ、大した自信ね……」
ママが笑みを浮かべる。
「ぼ、僕らも近くに移動するとしよう。太郎、対局中は静かにね」
パパたちが竜子の席が見える位置まで移動する。係員が説明している。
「一対局20分制です。5分ごとにお知らせします。15分を過ぎても、どちらも投了していない場合はチェスクロックを使用してもらいます。持ち時間は各3分……」
「チェスクロック?」
「対局時計さ。この場合、3分間先に経過した方が時間切れで負けとなる。時間を使い切るまでに勝たないといけない……使い方は動画を見たから、竜子も分かっている」
ママにパパが小声で説明する。
「……それでは『振り駒』で先手と後手を決めます……学年が上の子が振り駒をしてください。同級生の場合はじゃんけんで決めてください……」
「振り駒?」
「歩を五枚振って、盤上に落とす。表の歩が多かったら、振った人が先手、裏のと金が多かったら振った人が後手……竜子が後手だね……まもなく始まる。相手が指した……!」
「ふふん、竜王への第一歩じゃ!」
竜子が駒を持って大きな声を上げる。
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