第5話 休憩室で防犯カメラ視聴

「──一体、どうしたのです。急に休憩室に舞い戻ってきて。しかも防犯カメラの映像がもう一度観たいとは?」

「いえ、最後にどうしても確かめたいことがありまして」


 篤郎あつろうさんが休憩室でノートPCで書類を作成してるのを傍目に俺と愛理あいりは防犯カメラ視聴の了承をとる。

 普段は篤郎さんが録画した防犯カメラの映像にはプロテクトでロックしていて、彼しか分からない十二桁のパスワードや指紋認証がないと観れないのだ。

 前回もこういう具合で丁寧にお辞儀をして確認ができたが、これが二度目となると骨が折れる。


 警察が検証中でも裏方の仕事は差し支えないが、警察官から防犯カメラ視聴以外は備え付けの物やPCには一切触らないでという理由でブルーシートが敷かれた折り畳みテーブルの上にて、私物のノートPCで作業をしているとか。


「最後ということは万引きした犯人が分かったということですか?」

「はい、大体は。後はどうやってあの捕まらない万引きを実行したかと。売り上げ金にも全然変化は見当たらなくて……」


 もし未会計の本を持ち出したら、レジの会計を調べれば一発で判明するだろうと店長の澄香すみかさんに頼んでコンピューターのデータを見ても全くの赤字なし。

 これは早くも詰んだかと思い、だったらと防犯カメラに未知の可能性を賭けてみたのだ。


「──というわけでして、この防犯カメラの映像を確認したく。カメラの映像はあの事件の時のままですよね?」

「ええ、事件が事件ですし、下手にいじくるなと警察に釘を刺されていますので」


 篤郎さんは自身のノートPCをダウンロードしていた録画の映像に切り替え、静かに席を立つ。

 まるで俺たちがここに来るのを初めから分かっていたように爪を噛みながら……。


「では篤郎さんはちょっとだけ退室してくれませんか」

「かしこまりました」


 篤郎さんが部屋を出るのを確認し、俺は愛理が画面上のモニターで映し出す防犯カメラの上下左右、四つの映像を隅々までチェックする。


 ──事件があった土曜日の午後1時過ぎに訪れたここの書店にて、五人ともアリバイの通りに行動をしてるのに納得しながら見入る俺。


 そうだよな、カメラが回ってるのに下手な嘘なんてつかないよな。

 どうぞ頭に赤いマーカーを付けた犯人の私を見つけて下さいなと言ってるようなもんだ。


 いや、待てよ、回せるなら防犯カメラに拘らなくても他にどうとでもなるよな……。


 その間、篤郎さんが年季が入ったハタキと底が深いちりとりを持って、本棚を掃除する場面に何かしらの違和感を感じ、彼が誤って、二〜三冊の本を落とす行為に愛理は呆れていた。


 そこへ例の本棚で万引き犯が出てくる部分である、別の画面の異変にも僅かながら気付いた。

 さらに万引き犯が動いた画面の映像の他に少しだけ荒いアングルの景色があり、撮影時刻の表示にも既視感を覚える。


「ねえ、この人って本を乱暴に扱ったり、手抜きをするような人柄には見えないよね?」

「なるほどね。やっぱり俺の思っていた通りか。人間、どんなに丁寧に対応しても必ずボロは出るもんさ」


 どうやら愛理も同じことを思っていたようだ。

 こういう推理が重なるという部分に対し、血は繋がってなくても兄妹の間柄なんだなと……。


「……ということは龍之助りゅうのすけ?」

「ああ。全ての謎だったジグソーのパズルが、たった今綺麗に完成したよ」


 浮気調査、迷子のペット捜し、探偵とは無縁な草刈りとは別な、犯人がしでかしたトリックをパズルのように純粋に解くという神津かみつ家の血が騒ぐ。

 やっぱり探偵事務所なら、こういう事件を解決しないとな。


愛理あいり、この前、集めたメンバーを今から書店のフロアに再び集めてくれ。俺がそこで万引きした犯人を暴くから」

「うん、でもこんな夕暮れに?」

「ああ、時は一刻を争うんだ。警察の検証が終わったら、俺にはどうにもならないし、このまま犯人を野放しにするわけにもいかないだろ」

「分かった」


 愛理が白いスリッパでパタパタと足音を立てながら、廊下を過ぎ去るのを尻目に、俺は棚にある、在庫を抱えた未開封の単行本を見やる。

 俺は周りを見渡し、深呼吸してからその一冊を手に取り、何気ない手つきで本を裏返してみると、急に脳内にひらめきの電流が走った。


 やっぱり、ここにも立派な証拠があったな。    

 こんな身近な所でも真実が隠れていたか。


「犯人よ、見てろよ。これ以上、お前さんの好きにはさせないからな」


 犯人はアリバイを見事に欺き、それを利用し、自由に行動して動いたあの人に間違いない。

 だがどうしてこのようなことをしたのか、動機だけは謎のままだったが……。


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