㊽米粉のクッキーとラングドシャ-2-







 ロードクロイツ邸へと戻るなり、二人はクリストフから依頼されていた米を使った菓子作りに取り掛かっていた。


 パンは作った事がないので一先ず保留。菓子で成功したら作る予定だ。


 ちなみに・・・今回はロードクロイツの名物や店の商品として売り出す為ではなく、純粋にクリストフの為である。


「まずは米粉でクッキーを作ってみるか」


 レイモンドの一言で米粉を使ったクッキー作りが始まる。






 冷蔵ボックスから取り出したバターを戻している間、紗雪はクッキーを作る為に必要な調理器具と食材───ボウルに麺棒、木ヘラと泡立て器、清潔な布巾、クリストフが持ってきた米粉と砂糖、人々を魅了せずにはいられない甘い香りのバニラエッセンス、卵を卵黄と卵白に分けたりと準備を始める。


 ロードクロイツ家には高位貴族の人達が訪れる事があるので、料理人達は彼等に出すケーキやクッキー、タルトといったスイーツを作れる。


 但し、それ等の菓子は小麦粉で作ったものだ。


 米粉という異世界では当たり前に存在している粉で作るスイーツに興味を持った料理人達は、紗雪とレイモンドがどうやって作るのかを学ぶ意味で見る事にした。


 暫くすると冷蔵ボックスから取り出したバターが柔らかくなっていた。


 レイモンドが柔らかくなったバターと砂糖をボウルに入れると、それ等を泡立て器で混ぜた後、紗雪が分けておいた卵黄とバニラエッセンスを加えて更に混ぜ合わせていく。


 そんな時、レイモンドはある事を思い付いた。


「紗雪、俺の代わりに生地を作ってくれないか?」


「え、ええ・・・?」


 レイモンドからバターと卵黄を混ぜたものが入っているボウルを受け取った紗雪は、そこに米粉を加えて木へらで混ぜた後、生地を棒状に伸ばす。


 その間、レイモンドは残っている卵白を泡立て器で泡立て、新たにクッキー生地を作っていく。


 レイモンドが思いついたのは、卵白を使った米粉のクッキーを作る事だった。


(卵白でクッキー・・・?確かラングドシャというクッキーが作れたような・・・?もしかして、ラングドシャを作ろうとしているの!?)


 自分が教えていないスイーツを作ろうとしているレイモンドに感心しながら、紗雪は清潔な布巾で包んだクッキー生地を冷蔵ボックスに入れて寝かせる。


 レイモンドが卵白を使ったクッキー・・・ラングドシャの生地を作っている間に紗雪はクッキーを焼く為にオーブンを温めていた。


(んっ?何か思っていたものと違うような?)


 米粉と卵黄で作った生地はちゃんと固まっているのに、米粉と卵白で作った生地は固まっていない感じと言えばいいのか、柔らかいクリーム状みたいなのだ。


「紗雪・・・済まない」


「レイモンド、どうしたの?」


「・・・・・・卵白を使ったクッキーだが、どうやら失敗したみたいだ」


 初めて作る料理だから失敗して当然なのだが、食材を無駄にしてしまったという事実にレイモンドの顔は青くなっていた。


「だ、大丈夫よ、レイモンド!これでラングドシャというクッキーが作れるの!」


 自分自身がラングドシャを作った事がなかったし、作り方を教えなかった自分が悪いのだと紗雪がレイモンドに謝る。


「ラングドシャ?」


 製菓用の小麦粉、バター、砂糖、卵白で作った生地を薄く伸ばして焼いたクッキーで、表面がざらついており軽い口当たりをしているのだと教える。


「レイモンドのおかげで二種類のクッキーを作る事が出来るわ」


「・・・生地が薄いクッキーがどのようなものなのか想像出来ないが、楽しみだな」


 そう言ったレイモンドは卵白で作った生地を休ませる。その間に紗雪はラングドシャを作る為のオーブンを温める事にした。


 三十分後


「ねぇ、レイモンド。ラングドシャを幾つか大きめに作って欲しいの」


「大きめに?」


「ええ。その生地を巻くの」


「?」


 生地を巻く理由が分からないのだが、そういうラングドシャもあるのだろうと自分を納得させたレイモンドは、それぞれの天板に生地を乗せると薄く伸ばしていく。


 紗雪は紗雪で冷蔵ボックスから取り出した卵黄で作った生地を食べやすい大きさに切っていき、それ等を乗せた天板をオーブンに入れて焼いていく。


 十五分後


 生地の外側には焼き色が付いていた。


「米を粉にすればクッキーが作れるのか・・・」


「今回はプレーンタイプにしたけど、ドライフルーツや木の実、野菜のペーストを生地に入れたら違った風味が味わえるわ」


「レイモンド坊ちゃんが作った・・・何て言いましたっけ?・・・そうだ!ラングドシャだ。ラングドシャって白いですね」


「卵白を使っているから白いの。では、大きめに焼いたラングドシャを巻いていきましょうか」


 紗雪をはじめとする厨房にいる者達が天板にある焼き立てのラングドシャの生地を手にして巻いてくのだが──・・・。


「む、難しい・・・」


「あ、熱っ!」


「細い棒と手袋を用意してくれ!」


「何とか巻けたけど、割れてしまった!」


 ロール状にしたラングドシャことシガレット作りは見事に失敗してしまった。


「ご、ご免なさいね・・・」


「サユキさん、謝らないで下さいよ!」


 ラングドシャは初めて作ったお菓子だから失敗してもおかしくないし、失敗から学べる事もある。


 何と言っても米粉でもお菓子を作れるという事実を知っただけでも、レイモンドと自分達は料理人として一歩成長したのだと静かに落ち込んでしまった紗雪を慰める。


「粉々になったラングドシャは今日の夕食後にデザートであるアイスクリームに乗せて父上達に出す・・・いや、料理人達の賄いのデザートとして出すというのはどうだ?」


「それ、いいですね」


 形は崩れていても味は同じなのだ。レイモンドの提案に料理人達から賛成の声が上がる。


「父上達には形が崩れていないラングドシャを添えたアイスクリームを出せばいいだろうな」


 卵黄で作った米粉のクッキーは午後のティータイムのおやつとして、卵白で作った米粉のラングドシャは夕食後のデザートとして出す事にした。





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