㊽米粉のクッキーとラングドシャ-3-







「本日はクリストフ陛下が持参したプルメリア島の米粉で作ったクッキーでございます」


 そう言った給仕達は食堂のテーブルの席に着いているランスロット達の前にコーヒーとクッキーが盛り付けている皿を置いていく。


 神よ、あなたの慈しみに感謝してこの糧をいただきます


 食事前の祈りを捧げた後、彼等はレイモンドと紗雪が米粉というもので作ったクッキーを手に取ると何の躊躇いもなく口にした。


「このクッキー、サクサクでホロッとしていて・・・軽い食感をしていますわ」


「クッキーは製菓用の小麦粉でなければ作れないと思っていたのだが、米粉でも作る事が出来るのだな」


「私が日本に居た頃と比べると、紗雪さんが居た時代の日本は食文化が進んでいるのね」


 クリストフとロードクロイツ家の者達は、製菓用の小麦粉で作ったクッキーとは異なる食感と風味のクッキーを楽しむ。


「やはり、あの二人に頼んで正解だった・・・」


 プルメリア島には米を使った揚げ菓子、蒸し菓子、団子、餅菓子はあっても甘い焼き菓子はない。


 これだと米粉で作るパンも期待出来そうだと呟きながら、クリストフは午後のティータイムを楽しむ。






 ランスロット達が食堂でお茶会という名の雑談交じりの会話をしている頃


 レイモンドと紗雪は魔物の肉───バジリスクの、鶏肉で言うと胸肉に当たる部分でチキンカツならぬバジリスクカツを作ろうとしていた。


 但し、今回は製菓用の小麦粉ではなく米粉を使うし、肉も薄く叩いて伸ばすので【バジリスクのカツレツ】か【なんちゃってカツレツ】と言った方が正しいのかも知れない。


「ソースは何がいいかしら?」


「昨日はホワイトソースでシチューを作ったから、ジャムかマーマレードでソースを作るのはどうだ?」


「ジャムかマーマレード?でも、ジャムって甘いような・・・」


 海外では肉料理のソースとして使うと聞いた事があるが、紗雪はジャムとマーマレードをソースとして使っている肉を食べた事がないし作った事もない。


 ジャムとマーマレードはパン類かケーキに塗って食べる、ヨーグルトにかける、パフェのソースとして使うというイメージがあるからだ。紗雪は肉を食べる為にジャムで作ったソースがどのようなものなのかを思い浮かべる。


(・・・・・・何かイメージが出来ないわね)


「難しく考えなくてもいいんだ」


 パン粉とソースとサイドディッシュは自分が作るから、紗雪にはバジリスクの肉を揚げ焼きして欲しいとレイモンドが頼む。


「レイモンド、お願いがあるのだけど・・・」


「何だ?」


「バジリスクカツ?バジリスクのカツレツ?なんちゃってカツレツ?に合わせるスープにこれを使って欲しいの」


 そう言った紗雪がレイモンドに見せたのは、ブイヨンに似た顆粒が入っている瓶だった。


「これは・・・顆粒ブイヨン?いや、顆粒コンソメ?」


「ええ。レイモンドの言う通り、これは顆粒コンソメ。シュルツベルクで作ってみたの」


 養父達には好評だったけどクリストフやランスロット達の意見も聞きたいので、顆粒コンソメを使ったスープを作って欲しいと紗雪がレイモンドに頼む。


「・・・・・・今日のメインはカツレツだから野菜を食べるスープにした方がいいだろうな」


 レイモンドはコンソメを使ったスープを作り始める。








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