㉖酵母-5-
「お、俺が今からカスタードクリームを作る・・・」
先程の事を思い出してしまったのか、顔を真っ赤にしながら咳払いをしたレイモンドがシュルツベルク家の料理人達に指示を出す。
異世界の料理は紗雪から教えて貰っているが、カスタードクリームは初めて作る料理という事もあるのか、料理人達はレイモンドの言葉に耳を傾けている。
「カスタードクリームを作る為に必要な材料は卵黄、砂糖、牛乳、製菓用の小麦粉だ」
バニラビーンズがあれば風味が豊かになるのだが、カスタードプリンと同じ理由で今回も使わずに作る事にした。
「レイモンド様。製菓用の小麦粉を使うという事は、カスタードクリームはケーキか焼き菓子のようなものなのでしょうか?」
製菓用の小麦粉を使う菓子といえばクッキーのような焼き菓子かケーキというのがキルシュブリューテ王国の常識だったので、料理人の一人がレイモンドに尋ねる。
「いや。パンプディングを作る時に使う卵液をペースト状にしたデザートの一種で、タルトの土台にしたり、ジャムのようにパンに塗って食べる事も出来るんだ」
簡単に言えば、蒸していないカスタードプリンのようなものかな?
レイモンドの言葉でカスタードプリンを食べた事があるからなのか、カスタードクリームがどのようなものなのかが何となく想像出来た料理人達は納得したような表情を浮かべる。
「・・・まぁ、説明するよりも実際に作ってみた方が早いだろうな」
そう呟いたレイモンドは料理人達にカスタードクリームを作る為の材料を用意するようにと指示を出す。
「まずは牛乳を温めるんだ」
牛乳を温めるのに時間がかかる事を知っている料理人達はコンロの上に置いた鍋に牛乳を注いで温め始める。
「牛乳を温めている間に卵黄と砂糖をボウルに入れて泡立て器で白っぽくなるまで混ぜるんだ」
料理人の一人が牛乳を温めている間、レイモンドが泡立て器で卵黄と砂糖を混ぜる。
泡立て器で混ぜていると卵黄が白っぽくなってきたので、製菓用の小麦粉を加えて軽く混ぜる。
「レイモンド様、牛乳が温まりました」
「では、ここに牛乳を少しずつ入れてくれ」
温まった牛乳を料理人の一人が少しずつボウルに注ぐと、レイモンドは白っぽくなったペーストを泡立て器で混ぜていく。
「残っている牛乳を入れて混ぜた後、ボウルに入っている液体を濾したらコンロの火を点けてくれ」
鍋に入っていた残りの牛乳をボウルに注ぐと黄色味を帯びていたペーストが白くなった。牛乳を温めていた鍋にザルを置いてボウルに入っていた液体を濾した後、コンロの火を点ける。
「実はここからがカスタードクリーム作りの最大の山場なんだ。中火で加熱していくうちにクリームが、さらりからとろり、とろりからもったりという風に状態が変化していくんだ」
さらりとした状態の時はゆっくり混ぜればいいのだが、固まり始めたら手早く混ぜないといけなくなるのだと、レイモンドが料理人達に話す。
「分かりました」
レイモンドが鍋に入っている、さらっとした状態のカスタードクリームをゆっくりと木ヘラでかき混ぜる。
暫くすると中火で温めているクリームの表面に小さな気泡が出てきた。カスタードクリームが固くなり始めてきた証拠だ。レイモンドは手の動きを早くして混ぜていく。
「レイモンド様?白かった液体が固くなってきただけではなく、カスタードプリンのように黄色くなっています!」
鍋に入っている液体がカスタードプリンに似たクリームになった事に、レイモンドの手元を見ていた料理人達が声を上げる。
「カスタードクリームが出来上がっていっている証拠だ」
そう言ったレイモンドは表面に大きな気泡が出てきたカスタードクリームを混ぜ続けていく。
「で、出来た・・・」
本を見ながらとはいえ、当初は焦がしたり、ダマになったりして失敗の連続だった。
それが、今ではこうして他家の料理人に教える事が出来るレベルできちんとしたものが作れるようになったのだから感慨深いものがある。
本当はラップで包みたいのだがフリューリングにはない。
大きめの器に入れたカスタードクリームに清潔な布巾を被せると、粗熱を取る為に別の器に入れていた氷水でカスタードクリームを冷やす。
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