㉕粉末昆布-3-
翌日
リベラの工房から返って来た紗雪は厨房へと向かい、ミキサーに似た魔道具を使って小さくカットした昆布を粉砕、その後は何やら料理を作っていた。
「この粉がスープになったり、料理の隠し味になるとはな~」
何か信じられねぇよ
昆布と言えば灰にして生活用品を作る材料という認識があるアルバートは、自分の義娘の行動を不思議そうに思うしか出来ないでいる。
「出来ました!粉末昆布で作ったスープと料理です」
紗雪が食堂のテーブルの上に置いたのはシーフードパスタ、野菜のミルクスープ、ロールキャベツの三品。
今回は試食用という事でそれぞれ一皿しか作っていないが、それでもシュルツベルク家の者達は興味深そうに粉末昆布を使って作った目の前の料理を眺めていた。
五人は早速、ベーコンと野菜のスープに口を付ける。
「このスープ、牛乳が入っているから円やかでクリーミーな口当たりなのね。それに何と言えばいいのか分からないのだけど・・・普段口にしているスープとどこかが違うような気がするわ」
「味に深みがあるスープと言えばいいのでしょうか・・・?」
「これが昆布の風味・・・って奴なのか?」
レイモンドは昆布の出汁を上品で繊細な味と表現していたが、正にその通りだとアルバート達は思う。
次に彼等はシーフードパスタを口に運ぶ。
「海老や烏賊を具材にしているパスタも、私達が普段食べているパスタと風味が違うのね」
「香辛料のように主張しない味と言えばいいのか?・・・いや、海老や烏賊はそのままだと淡泊な味なのに昆布が旨味を与えているんだ」
「パスタは長く茹でるというのが常識ですが、異世界ではパスタを茹でる時間が短いのでしょうか?適度な歯応えがあるように感じます」
「長時間茹でて蜂蜜や砂糖を塗したパスタを、俺達は美味いと言って食べていたんだな・・・」
伸びきったパスタの食感を思い出してしまったのか、何とも言えないような顔つきになってそう言ったアルバートは、最後の一皿であるロールキャベツを口に付けていく。
んっ?
「これは・・・鶏肉?」
「鶏のささみという部分か」
「キャベツで鶏肉を包み、更にその鶏肉で人参といんげんを包む。これが異世界のロールキャベツなのね」
人参のオレンジ色、いんげんの濃い緑色、鶏肉の白色、キャベツの緑色
キルシュブリューテ王国でロールキャベツと言えば挽き肉をキャベツで包んだ食べ物なのだが、どうやら異世界では違うらしい。
色鮮やかで見た目も綺麗な異世界のロールキャベツにレイモンドを除く四人が思わず感嘆の色を含んだ声と溜め息を漏らす。
「シュルツベルク伯爵夫人、異世界のロールキャベツは基本キルシュブリューテ王国のものと同じですよ」
今回の紗雪殿はロールキャベツをアレンジして出したのでしょう
異世界のロールキャベツも、キャベツで挽き肉を包んだ料理である事をレイモンドがロスワイゼに教える。
レイモンドの言葉に興味を持った四人は、ナイフで一口サイズにカットしたロールキャベツを口に運ぶ。
「このロールキャベツは昆布の味?風味?が染み込んでいているし・・・何より、さっぱりとしているから食べ易いな」
こういう形でロールキャベツを食べるのは初めてだったからなのか、シュルツベルク親子だけではなくランスロット親子も手を止める事なく、だが貴族らしく洗練された食事作法で平らげていく。
「ガラスや石鹸の材料となる昆布が調味料として使えるとは思わなかった・・・」
新たな発見だったと言わんばかりにアルバートが呟く。
「お養父様、粉末昆布はシュルツベルクにとって新たな事業になるでしょうか?」
「それよりもサユキちゃん、聞いてもいいかしら?昆布は美容と健康にいいと言っていたけど、それってどんな効果があるの?」
美容と健康という言葉が気になっていたロスワイゼが、粉末昆布がシュルツベルクの新たな名物になるのかどうかを気にしている紗雪に昆布の効果を尋ねる。
「お通じに肥満防止、それから美肌と美白と美髪でしょうか?一日に一回だけスープ一杯分を飲めばいいですよ。その時に入れる粉末昆布は・・・一人分でこれくらいでしょうか?」
紗雪が粉末昆布を小さじスプーンに半分くらいの量を掬ってロスワイゼに見せる。
「但し、こういうのは毎日続けないと効果が出てきませんし、摂り過ぎるとお肌が荒れます。何より腎機能障害がある人は口にしてはいけないという注意がありますけどね」
「分かったわ!一日に一回だけスープ一杯分を飲めばいいのね!?あなた、美容と健康の為に粉末昆布をシュルツベルクの新たな名物として売り出して見せますわよ!!」
それにはまず、私達のみならず使用人達にも粉末昆布を使った料理を食べて効果を確かめないとね!!
「お、おぅ・・・」
「母上、何時になく気合入っていますね・・・」
「あいつ、便秘に悩んでいたからな~」
ロスワイゼが頑固な便秘に悩んでいる事を知っているアルバートとアルベリッヒが思わずたじろいでしまう姿があった。
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