㉕粉末昆布-2-
「・・・そ、そうですね。昆布はどうでしょうか?乾燥させて粉にした昆布を使えば昆布出汁・・・スープが作れますし、美容と健康にもいいですよ」
昆布を使った料理が受け入れられるかどうか分からないので、紗雪はアルバートに粉末昆布を提案してみた。
「昆布?昆布って・・・あの昆布だよな?生活用品を作る為に使う原料になる・・・」
「生活用品?」
「ああ。サユキちゃんの世界では昆布は食材なのかも知れないが、キルシュブリューテ王国では、石鹸やガラスを製造するのに昆布の灰が必要なんだ」
驚きの色を含んだ声を上げる紗雪にアルベリッヒが、昆布の使い道を教える。
(そういえば、近代ヨーロッパでは昆布をそのように使っていたと聞いた事があるわ)
考えてみれば、キルシュブリューテ王国の文明は地球で言えば中世から近代ヨーロッパ辺り。
日本と違い、生活用品を作る為の材料として昆布を使っていても不思議ではないと思い直す。
「アルベリッヒ殿達は知らないだろうが昆布の出汁・・・スープは俺達が知っているスープとは風味が異なるんだ」
上品で優しく繊細なクセのない澄んだ旨味のあるスープになるのだが、昆布だけでは物足りないと感じるかも知れない。
しかし、料理の隠し味として使えるだけではなく、エルフ相手であれば煮込み料理の出汁として売れる可能性がある事をレイモンドがアルベリッヒ達に話す。
「エルフ!?エルフって美しい外見と長い耳を持つ、長寿で魔法に長けた菜食主義と言われているあの?」
「ああ、そのエルフだ。紗雪殿の世界にエルフはいないのか?」
「竜やフェニックスのように、神話や伝説に出てくる架空の存在でしかないわ」
天女や妖怪は存在するのにエルフが居ないという事実に異世界って変だと思いつつ、基本エルフは森の奥に引き籠っている種族なのだが、森で採れる山菜や果物だけでは限界なのか食材の買い出しや商売の為に町へ下りてきたり、変わらぬ己の世界に変化を求めて住処から出てきたエルフを目にする事があると紗雪に教える。
「しかし肉や魚を好まないエルフが買うのは、森では採れない野菜と果物だけと決まっているけどな」
「徹底した菜食主義なのね、エルフって。でも、エルフって何を売っているの?」
「自分達が狩った魔物の肉、それから森の奥でしか採れないハーブにキノコ、果物の類だ」
それ等を売って得た金で、市場で売っている野菜や果物を買うという訳だ
エルフに対して良く言えば高潔な世捨て人、悪く言えば他種族を見下す傲慢な引き籠りニート生活を送っているというイメージを抱いていた紗雪は意外と俗物であるという事実に驚くしかなかった。
そんな紗雪を尻目に肉や魚を厭うエルフ、そして、上品で優しく繊細なスープが作れる事と料理の隠し味に使える事を前面に出せば昆布が売れるかも知れないとアルバートが算段を立てる。
「皆、昆布のスープがどのようなものなのか分かっていないのに売れるか売れないの話をする以前に、それを作って試食するのが先ではないのか?」
それまで黙って話を聞いていたランスロットが口を挟んできた事で、そういえばそうだと思い出した紗雪はアルバートに乾燥している昆布を分けて欲しいと告げる。
あ~っ・・・
「サユキちゃん、乾燥している昆布は工房にあるんだ。しかも、工房はもう閉まっているから貰いに行くのは明日でいいか?」
「はい。それでお願いします」
昆布について話が決まった後、紗雪は葡萄と水が入っている瓶を鞄から取り出す。
「紗雪殿、昨日よりも更に水の色が濃くなっているような・・・?」
「順調に発酵が進んでいる証拠よ。明日か明後日になれば白い泡が出てくるわ」
興味津々に眺めているレイモンドにそう答えた紗雪は、空気を入れ替えて蓋をしてから瓶を振っていく。
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