⑳冷製パスタ-4-
紗雪とレイモンドが厨房でコーンスープと冷製パスタを作っていた頃
「今だから分かるけど、ランスロットは昼食時と夕食時になれば家を出ていたのよね」
急に金遣いが荒くなった
家に居ても落ち着きがなくなった
何日も家を空けるようになった
覚えのない香水の匂いを漂わせるようになった
服の趣味が変わった
例を挙げればキリがないが、ランスロットには外に情婦や愛妾を囲っている男の言動が何一つ当て嵌まっていなかったのだ。
「言われてみれば、確かにそうですよね」
食堂では、端正な顔立ちをしている淡い金髪の青年が穏やかな笑みを浮かべながら話すエレオノーラの言葉に同意を示していた。
青年の名前は、グスタフ=ロードクロイツ。
ランスロットとエレオノーラの第一子にしてレイモンドの兄、そして次期侯爵という立場にある男だ。
「レイモンドが拠点にしている家に行くと言えば、私だけではなく母上も父上が浮気をしているのではないか?と、気に病まずに済んだのですよ!?」
『グスタフ、ベルンハルト、レイモンド。心に決めた者が居るにも関わらず情婦や情夫を作るという事は、お前達の男としてだけではなく人間としての価値を下げる事に繋がる』
『父としてだけではなく、一人の男としても、私はお前達に伴侶となる娘を苦しめた挙句、心を殺す最低な人間になって欲しくないのだ』
幼い頃からランスロットにそう言い聞かせられて育った影響なのか、グスタフを含む三兄弟は情婦や情夫を作る人間というものを嫌っていた。心の底から軽蔑していると言ってもいい。
愛妻家であるランスロットの行動と、エレオノーラの落ち込んでいる姿を目の当たりにした時、グスタフも母と同じように父が外に女を囲っているのではないか?と疑っていたのだ。
それが──・・・
父が母方の祖父のように愛妾を作っていなかったという事実に安堵したのは確かだが、同時にレイモンドの家で食事を済ませると言って欲しかったというのが、グスタフの本音である。
「その事については改めて謝罪する」
「あなた・・・私とグスタフは気にしていませんわ」
レイモンドの家で豚の角煮とアイスクリームを食した日の夜
ランスロットから謝罪の言葉を聞いた事で、また、一晩中傍に居てくれた事でエレオノーラの心は癒されたのだ。
(それに・・・)
イヤン♥(/∇\*)。o○♡
情熱的な一夜が明けた次の日はベッドの住人になってしまったが、夫が甲斐甲斐しく世話をしてくれた事を思い出してしまったのか、頭を下げようとするランスロットを止めるエレオノーラの顔は赤く染まっていた。
(あ゛っ・・・)
「お、お義父様をそこまで虜にさせる異世界の料理ってどのようなものなのか、興味がありますわ・・・」
話題を変える意味もあるが、このままでは空気がショッキングピンクになってしまうと察してしまったのだろう。妖艶という言葉が相応しい女性が二人に話しかける。
女性の名前は、アルベルディーナ。グスタフの妻であり、今年の春に娘のリリアーヌを産んだばかりだ。
「異世界の料理はロードクロイツ・・・いや、キルシュブリューテ王国とは比べ物にならない程の美味であるとだけ言っておこう」
「ええ。私はショーユで煮込んだ豚の角煮、アイスクリームとジェラートとカステラというデザートしか食べた事がないけれど、どれも美味しかったわ」
「後、醤油はクッキーにも使えるのだそうだ」
「「はぁ・・・」」
ランスロットとエレオノーラは嬉々として語るが、名前だけ言われてもどのような料理なのかが思い浮かばないグスタフとアルベルディーナは適当に相槌を打つしか出来ないでいる。
コンコンコン
「失礼いたします」
そんな彼等が居る食堂に、キッチンワゴンを押した給仕達が入って来た。
「本日の夕食は、レイモンド様とサユキさんが作られた異世界の料理です」
給仕達が四人の前に料理──・・・コーンスープとオムレツと冷製パスタを置いていく。
「生ハムのピンク、アスパラガスの緑、モッツァレラチーズの白で鮮やかなパスタ料理となっているわ」
「オムレツの具材は塩漬けのタラではなく、ジャガイモ・赤ピーマン・ズッキーニを使っているのか?」
「黄色いスープは何なのかしら?」
初めて見る異世界の料理に、四人は興味津々だ。
神よ、あなたの慈しみに感謝してこの糧をいただきます
四人は目の前の料理を食べ始める。
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