⑳冷製パスタ-3-
「冷製パスタというのは、氷水でパスタを冷やす冷たいパスタ料理だ。但し・・・」
温かいパスタ料理の時と比べて倍の塩を入れて茹でないと味が薄くなってしまう事と、水分を切らないと味がぼやけてしまうのだと、レイモンドが料理人達に冷製パスタの注意点を教える。
「それだけを注意すれば、ちゃんと味が付いた冷製パスタになるから作ってみようか?」
紗雪がコーンスープを作っている頃
レイモンドが料理人達に冷製パスタの作り方を教えていた。
「まずは、鍋に水を入れて沸騰させるんだ」
料理人の一人が水を入れた寸胴鍋をコンロに置くと火を点ける。
「この辺は温かいパスタ料理と同じだ。その間に手の空いている者はアスパラガスを素焼き、塩と胡椒を混ぜてオリーブオイルを味付け、生ハムとモッツァレラチーズをスライスしてくれ」
塩と胡椒は入れ過ぎないようにな
「「はい」」
手の空いている料理人がレイモンドの指示通りに動く。
待つ事十分以上
寸胴鍋に入っている水が沸騰してきたので、そこにパスタと塩を入れて茹でていく。
(冷製パスタの時は、温かいパスタの時より一分くらい長く茹でるのだったな・・・)
『実は私、初めて自分で冷製パスタを作った時、温かいパスタの時と同じ要領でパスタを茹でたの。そしたら、パスタが固くて。後、ちゃんと水気を切っていたのに味が薄かったわ・・・』
自分で作ったものだから何とか食べ切ったけど、あれは不味かったと紗雪が顔を顰めながら愚痴を零していた事を思い出す。
紗雪が初めて作った冷製パスタの失敗はどこにあったのか?
氷水で締めるというのは固くなるという事である。
それを考慮せず温かいパスタの時と同じ要領で茹でればパスタが固くなるのは当然であり、塩を多く入れなかったから水気を切っても味が薄く感じたのだ。
紗雪が自分の失敗談を語ってくれる事で注意点がどこにあるのかを学べたからこそ、レイモンドは異世界の料理を彼女よりも上手く作れるのだとも言える。
(・・・そろそろかな?)
温かいパスタを作る時よりも長めに茹でたパスタをザルに入れて冷水で洗った後、氷水に浸けて締める。
「パスタを水で洗ったり氷水に浸けるのは、何か意味があるんですか?」
「今回のパスタは冷たいものだからというのもあるが、茹でて柔らかくなったパスタを氷水に浸ける事で適度に固くする意味もあるんだ」
「だったら、最初から茹でる時間を短くした方が良かったんじゃないですか?」
三十分から二時間かけて茹でるのが当たり前のパスタを十分くらいで鍋から引き揚げた事に、料理人の一人が疑問をぶつける。
「短時間しか茹でていないパスタって硬いだろ?それを氷水に浸けたら、より固くなってしまうんだ」
料理人達の質問に答えながらレイモンドが塩と胡椒で味を付けたオリーブオイルが入っているボウルに、丁寧に水気を切ったパスタを入れてオイルと絡めていく。
皿に盛り付けたパスタに、料理人達がスライスした生ハムと素焼きしたアスパラガスとモッツァレラチーズを載せた後、粗挽き胡椒を振りかける。
「これで生ハムとモッツァレラチーズの冷製パスタの完成だ」
へぇ~っ・・・
「具材を変えるだけで涼しげな感じになるのですね」
チーズや香辛料、時には砂糖や蜂蜜をかけて食べるのが当たり前のパスタが、見た目が色鮮やかな料理になった事に料理人達が声を上げて驚く。
「父上達に出す前に、味見をしてくれないか?」
異世界のパスタ料理を食べて見たかった料理人達は、フォークで巻いたパスタを試食していく。
「これは・・・さっぱりしているから食べやすいですね」
「私達が今まで食べていたパスタって柔らかかったけど、硬めのパスタというのも悪くないな」
「あれは柔らかいではなく、伸びきっていたと言うんだ!」
時間をかけて茹でた事で、すっかり伸びきってしまっていたパスタの食感を思い出してしまったレイモンドが、げんなりとした表情になる。
「これは、暑い日にはぴったりな料理ですよ!」
「レイモンド坊ちゃん、冷製パスタの具材って生ハムとモッツァレラチーズ以外に何があるんですか?」
「そうだな・・・」
鶏肉やマグロのオイル漬け、海老や烏賊、蛸を使うのもありだと思うな
「今度、レイモンド坊ちゃんが言っていた具材を使って自分達だけで冷製パスタを作って見せます!」
「じゃあ、冷製パスタを父上達に出すとしようか」
はいっ!
レイモンドの一言で、料理人達が侯爵一家の元に料理を運ぶ準備を始める
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