⑳冷製パスタ-2-
コーンスープに欠かせないのは主役であるとうもろこしだが、牛乳も欠かせないのではないだろうか?
牛乳がなくてもコーンスープは出来ると聞いた事があるが、紗雪はその方法で作った事がない。
それに冷蔵庫にある牛乳は殺菌していないと思うので、今日中に使い切った方がいいだろう。
時間がかかると分かった上で、紗雪は料理人達に牛乳を低温殺菌して欲しいと頼む。
「低温殺菌した牛乳は風味を損ねないのでしたっけ?」
超高温殺菌した牛乳と低温殺菌した牛乳を飲み比べて味の違いが分かっている料理人達の一部が、鍋に入れた牛乳を沸騰させないように細心の注意を払いながら加熱していく。
同時に一部の料理人達はとうもろこしを芯から包丁で削ぎ落としたり、削ぎ落としたとうもろこしの粒を擂り潰したり、みじん切りにしたり、玉ねぎを薄切りにしたりと、忙しなく手を動かしている。
「次にとうもろこしと玉ねぎを炒めるのですけど、その前に鍋にバターを入れて中火で溶かして下さい」
鍋に入れるのは玉ねぎの方が先で、弱火でしんなりとするまで炒めるのだと教える。
紗雪の言葉に従い、料理人達が中火で溶けたバターが入っている鍋に玉ねぎを入れると弱火で炒めていく。
「サユキさん、こんなものですかね?」
弱火でじっくりと炒めていくうちに玉ねぎがしんなりとしてきたのだが、初めて作る料理だからなのか、鍋で玉ねぎを炒めていた料理人が紗雪にとうもろこしを入れるタイミングを尋ねる。
「・・・これくらいでいいですよ。そこにとうもろこしを入れたら一緒に炒めて下さい」
「分かりました」
玉ねぎと、とうもろこしを一緒に炒めて五分くらい経っただろうか。
「鍋に水を入れたら蓋をして二十分くらい煮込んで下さい」
料理人の一人が鍋に水を入れた後、蓋をしようとした時に冷製パスタを教える準備をしていたレイモンドが、とうもろこしの芯と一緒に煮込んだらどうかと口を挟んで来た。
「とうもろこしの芯を?」
「ああ。捨ててしまう野菜の切れ端や芯を一緒に煮込むと・・・コク?いや、旨味だったか?が出て味に深みがあった事を思い出したんだ」
何で侯爵家の三男がそんな事を知っているのか?と思ってしまった紗雪だが、考えてみればレイモンドは冒険者。
例えどんなに実力があろうとも新米はランクの高い依頼を受ける事が出来ず、雑用系の依頼をこなしていた頃は稼ぎが少なく平民のような暮らしをしていたはずだ。
貴族子息だった頃はしなかった苦労を味わい辛酸を舐めた事で、レイモンドは身を以て平民の生活を学んだのだろう。
「・・・そうよね。出汁って牛・豚・鶏といった動物や魚の骨から取れるのだから、とうもろこしの芯から取れても不思議ではないのよね」
何で、そこに気付かなかったのかしら?
己の迂闊さに紗雪は内心頭を抱える。
あの~
「サユキさん?レイモンド坊ちゃんが言っていたように、とうもろこしの芯を入れて一緒に煮込むんですか?」
「ええ、それでお願いします」
水を入れた鍋にとうもろこしの芯を入れると蓋をして煮込み始める。
二十分後
「綺麗な黄色ですね~」
蓋を開けると、そこにあったのは黄色くてトロっとした液体だった。
「とうもろこしの芯を取り出したら、牛乳を入れて弱火で沸騰させないように温めます」
最後は塩と胡椒で味を調えるのですが、入れ過ぎたらとうもろこしと牛乳の甘味と風味を殺してしまうし、何より異世界の料理を楽しみにしているロードクロイツ侯爵と侯爵夫人を悲しませる事になりますから、その点だけは注意して下さい
「はい!分かりました」
料理人達が紗雪の言葉に従い、牛乳を加えた鍋を弱火で温めた後、入れ過ぎないように注意を払いながら味を調える為の塩と胡椒を入れる。
「皆さん、味見して下さい」
出来立てのコーンスープを注いだ小皿を料理人達に渡す。
「では・・・」
カステラに続く異世界の料理に胸を躍らせながら、小皿を受け取った料理人達がコーンスープを口に運ぶ。
「これは・・・」
「牛乳だけではなく、とうもろこしの甘さも感じますね」
「コクがあって優しい甘さと言えばいいのか・・・子供が喜びそうな味ですね」
「朝食に出しても良さそうな気がします」
コーンスープを飲んだ料理人達からの感想は概ね好評だった。
「スープはロードクロイツ侯爵にお出しする前に温め直すとして、次は副菜の・・・そうね、野菜を使ったオムレツを作りましょうか?」
まずは、ジャガイモ・赤ピーマン・ズッキーニを洗ったら、小さく切って下さい
もし、芽が生えているジャガイモがあれば、その部分だけを取り除いてから切って下さいね
料理人達が野菜を洗ったり切ったりしている間、紗雪は溶いた卵に小さく切ったチーズ、塩と胡椒を入れて混ぜていく。
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