⑭その頃の聖女-6-








「つまり、アイスクリームとジェラートは牛の乳をベースに作る冷たくて甘いお菓子なのね?」


「そ、そうです・・・」


 口で説明するよりも実際に食べて貰った方が早いと思った紗雪は、以前にネットショップで購入した後でレイモンドの家にある冷凍ボックスに保存しておいた業務用のバニラアイスとミルクジェラートを取り出すとディッシャーで掬ったそれ等を器に盛り付ける。


「黄色味を帯びている氷菓がアイスクリームで、白い氷菓がジェラートなのだな?」


 バニラの甘い香りの誘惑に勝てないのか、ランスロットとエレオノーラはバニラアイスをスプーンで掬い口に運ぶ。


((!!))


「甘くて濃厚でクリーミーで・・・滑らかな舌触りが何とも言えないわ」


 口の中で溶けていくバニラアイスの食感にエレオノーラは感動せずにはいられない。


「私はジェラートというのが気に入ったな」


 同じ甘い氷菓でもバニラアイスは濃厚。ジェラートは口当たりがさっぱりとしている。


「紗雪殿、キルシュブリューテ王国の食材だけでアイスクリームとジェラートを作る事は出来ないのか?」


「アイスクリームかジェラートを使ったデザートやスイーツをお茶会で出したいのだけど・・・無理かしら?」


「それは・・・随分と難しい注文ですね」


 アイスクリームの材料は、牛乳・生クリーム・砂糖・バニラビーンズかバニラエッセンス・卵黄、ジェラートの材料は牛乳・生クリーム・砂糖・バニラビーンズかバニラエッセンスである。


 生クリームを使わなくても作れるが、アイスクリーム独特の柔らかく滑らかな舌触りにならず、シャリシャリとした食感になるのは否めない。


 小学生の時に生クリームを使わずにアイスクリームを作ったのだが、これってアイスクリームではなくシャーベットだと思ってしまった事を思い出す。


「ロードクロイツ侯爵。ロードクロイツでは生クリームを作っていないですよね?」


「いや。作っているが、高級食材の一つだ」


 ランスロットの一言に紗雪の顔が難しくなる。


 生クリームを作るには搾りたての乳を軽く加熱した後、そのまま放置。次の日には表面に白い塊が浮かんでくる。それが生クリームだ。


 この方法では大量に生クリームを作る事が出来ない。


 多く作れないからこそ、手間と時間がかかる生クリームは高級品であり、それを使ったデザートや料理は王侯貴族しか口に出来なかったりする。


 個人や家庭で楽しむ分であれば、ネットショップで売っている手動の遠心分離機を使えば生クリームを作れるのだが、現代日本のように数百円で買えるようにするには、まずは牛乳と乳製品の生産に力を入れて貰わないといけない。


 その辺りはランスロットとエレオノーラの仕事だろう。







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