⑭その頃の聖女-7-
「ねぇ、レイモンドさん。ロードクロイツの主な産業って何なの?」
キルシュブリューテ王国が多種族国家だという事は知っていても、主要都市が何をメインにしているのか知らない紗雪がレイモンドに尋ねる。
「ロードクロイツの?主な産業は農業と酪農だな」
「という事は、小麦といった穀物だけではなくチーズやバターといった乳製品を生産しているの?」
「ああ」
「でも、生クリームは高級・・・」
「紗雪殿、何を悩んでいるのだ?」
「実はね・・・」
聖女こと茉莉花が雪を食べているのを見て、アイスクリームを一日だけ屋台で売る事を思いついたのだと話す。
「どのくらいの値段で売ろうとしていたのだ?」
「一個二ブロンズ」
「「「安い!安過ぎる!!」」」
だから、手作りではなくネットショップで購入した業務用のアイスクリームにしようとしていたのだと、紗雪はレイモンド親子に言い返した。
「日本では適正な価格だと思うけど、ロードクロイツでは最低でも十シルバ以上で売らないと納得しないわよ?」
何せ、生クリーム自体が高級食材ですもの
「そうだった!生クリームって高級食材だったわ!」
明治時代のアイスクリームには生クリームを使っていなかったが、それでも二十一世紀の値段に換算して約八千円以上で売っていたらしい事を思い出す。
「サユキ殿、貴女は何をしようとしているのかしら?」
「レイモンドさんの夢・・・ロードクロイツの食文化の発展に協力したいと思っているのですよ」
ネットショップで売っている食材を使えば簡単だろう。
しかし、それは本当の意味でロードクロイツの発展へと繋がるのだろうか?
地元の食材を使う事で食文化が根付いた結果、新しい調理法と料理が生まれ、そして発展していく。
それが紗雪の考えだ。
「ウィスティリア王国では冷蔵ボックスが二十ゴルド以上出さないと買えない高級な魔道具の一つですが、キルシュブリューテ王国では安いものでは四十シルバを出せば買えますよね?それって、つまり領主。いや、この場合は国になるのかしら?が主導となって冷蔵ボックスの製作に力を入れたからこそ平民でも手が届く値段になった・・・」
「冷蔵ボックスと同じように、領主が手を貸す事で生クリームをはじめとする乳製品の生産を安定させたいのだな?」
「それもありますが、職人の育成と言えばいいのでしょうか」
料理の発展は一つの文化が花開くだけではなく、豊かさの象徴でもある。
それを次代へと伝える担い手が居なければ、キルシュブリューテ王国の食文化は現状のままで留まる可能性が高いのだ。
「後は、卵・砂糖・塩・胡椒・植物油の供給の安定と、生クリームとバターを作る魔道具・・・挙げればキリがないですけど調理器具を発明してくれると嬉しいです」
食材の生産が安定すれば和食は難しいが、洋食やアイスクリームといったスイーツの発展が日本並みになる可能性があるとロードクロイツ夫妻を前に紗雪は語る。
「確かに食材と調味料の供給が安定して、料理人が育てば洋食に分類される料理とデザートの発展が望めるか・・・」
俺はオムライスやドリアのように米を使った料理だけではなく、味噌と醤油を使った料理も気に入っているから、それ等も広めたいんだよな~
だが、味噌と醤油の原料となる大豆と米を栽培していないので、こればかりは仕方がないとレイモンドは諦める。
「レイモンドさん、米・味噌・醤油を使った料理は私達が個人的に楽しむものにすればい「「紗雪殿(サユキ殿)?レイモンド?オムライスって何?ドリアって何?」」
「父上・・・母上・・・」
((こ、恐い・・・))
食べ物が絡むと、人間はここまで変わるのか
二人の形相と迫力に負けてしまい思わず涙目になってしまった紗雪とレイモンドがgkbr状態で抱き合いながら、オムライスとドリアが何なのかを話すのだった。
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