⑭その頃の聖女-4-







『エドワード様ぁ~♡ギルバード様ぁ~♡』



「・・・この女、凄いわね~」


 王家や有力貴族主催のお茶会やサロンに出席する時、自分も侯爵夫人としての外交的な笑みを浮かべるが、侍女達に対して向けていたものとは大きく異なり、エドワードとギルバードの前で茉莉花が浮かべているのは男に媚を売る下級娼婦そのものの笑みだった。


 男の前ではコロッと態度を変える茉莉花に、エレオノーラは思わず感心した声を上げる。



『マリカ殿、今日は暑いですから氷菓を用意しました』


 庭園を彩る花々を愛でながらテラスで冷たいものを口にするのも風情があると思ったのだろうか。


 エドワードの侍女達が三人の前に雪を盛った器を置いていく。


 きゃあ~♡


『茉莉花、嬉しい~♡』


(氷菓って・・・単にどこかで保存していた雪に砂糖水をかけただけじゃねぇか!)


 せめて、果物と練乳をトッピングしたものを出しなさいよ!!


 これが自分に仕える侍女であれば鞭で躾けるのだが、彼女達の主はエドワードだ。


 しかも、自分に夢中になっているエドワードとギルバードの目の前で暴力を振るう訳にもいかないので、ここは我慢だと言わんばかりにグッと堪える。


『『マリカ殿』』


 今の自分は邪神を倒した英雄にして、優しくて慈悲深い清楚可憐な聖女なのだ。


 あ~ん♡


 自分にそう言い聞かせた茉莉花は、エドワードとギルバードがスプーンで掬った氷菓を口に運ぶ。


(不味っ!こんなものを有難がっているこいつ等の神経が理解出来ないわ!これだから、異世界は遅れているのよ!!)


『美味しい♡』


 心の中では日本よりも遅れている異世界人を見下しているのだが、相手は自分の虜になっている二人の男だからなのか、茉莉花は愛想笑いを浮かべていた。


『エドワード様!』


『ギルバード様!』


 氷菓を食べて寛いでいる三人の元にやって来た二人が声を掛ける。


 一人は緩やかに波打つ蜂蜜色の髪を、もう一人は緑色の髪を持つ女性だった。


『スカーレット・・・』


『リーナ・・・』


 二人の女性───シーラとオリビアと入れ替わるように新たな婚約者となった彼女達の顔を見た途端、エドワードとギルバードが露骨に嫌な顔を向ける。


『聖女様の世界ではどうなのか存じませんが、婚約者でもない殿方達を侍らせる行為はウィスティリア王国では認められていません!』


『そのような女性を、ウィスティリア王国では売女と呼んでいます!』


 淑女というのは、陰となり日向となり殿方を支える存在で、貞淑である事を常に心掛けて──・・・


『スカーレット』『リーナ』と呼ばれた女性達が茉莉花にウィスティリア王国の貴族女性としての心得を懇切丁寧に説いていくのだが、自分よりも美人で尚且つ女性らしい体型をしている彼女達の説教に気分を悪くした茉莉花は『酷い!スカーレット様とリーナ様がぁ、あたしを虐めるのぉ~!!』と、涙を流しながらエドワードとギルバードに縋りついて助けを求める。


『スカーレット!リーナ嬢!我等はただ純粋に氷菓を楽しんでいただけだ!!』


『それを咎めるとは、淑女としてあるまじき行為だな!!』


 折角の楽しい一時に水を差されてしまった事で機嫌を損ねてしまった三人はテラスから去って行く。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る