⑪豚の角煮-5-
キルシュブリューテ王国は原料となる大豆の栽培をしていないと聞いた
ならば、近隣諸国から輸入になるのだが、大豆を栽培している国があるのか?
『温暖で雨が少なく乾燥している気候というのも、醤油作りの条件の一つらしいですよ』
キルシュブリューテ王国及び近隣諸国では大豆の栽培をしていないので、仮に紗雪が醤油の作り方を知っていたとしてもロードクロイツでは不可能という訳だ。
紗雪の言葉にランスロットは静かに落ち込む。
『紗雪殿。キルシュブリューテ王国には醤油に似た魚醤というものがあるのだが、これを使った料理を広める事は出来ないのか?』
レイモンドが紗雪に見せたのは、醤油に似た液体が入っている一本の瓶だった。
元の世界でも名前は耳にした事があっても、どのような味をしているのか知らない紗雪は、瓶に入っている魚醤を少しだけ皿に注いで味見をしてみる。
(に、臭いがきつい!それに辛い?いや、辛いと言うよりしょっぱい?)
醤油よりも濃い塩分に紗雪は顔を顰める。
『ゴメンなさい、レイモンドさん。実は私、魚醤を使って料理を作った事がないの』
市場で魚醤を売っているのを見た事があるが、高かったので買わなかったのだ。
『レイモンドさん、ロードクロイツ家では魚醤をどのように使っているの?』
照り焼きチキンのように火を通しているのか、冷奴のようにそのままかけて食べているのか分からない紗雪が尋ねる。
『そうだな・・・肉や魚や野菜といった食材のソースとして使っているかな?』
実家にいた頃は何とか口にしていたが、魚醤のクセの強さと塩辛さがレイモンドは苦手なのだ。
『もしかして・・・侯爵家、というよりキルシュブリューテ王国では火を通さずに魚醤をそのまま使っているの?』
『ああ。そのままソースとして使ったり、肉を焼く時に魚醤を大量に使う事があるな』
要は、塩や胡椒といった香辛料をふんだんに使った料理は高価で当然という感覚である。
『魚醤って隠し味として少しだけ使った方がいいと聞いた事があるわ。それを大量に使った料理は・・・さぞかし塩辛いのでしょうね』
貴族の息子も大変だと、紗雪は心の中でレイモンドに同情していた。
『紗雪さん、今は魚醤よりも豚の角煮を優先しないといけないのではないかしら?』
美奈子の言葉に、そういえば自分は豚の角煮を作っている最中だった事を思い出した紗雪は皿に料理を盛り付けていく。
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