⑪豚の角煮-3-







 冷蔵庫に保存していた豚肉を使おうと思ったのだが、それは侯爵家の夕食に使うので駄目だと言われた紗雪は豚バラブロック肉をはじめとする食材をネットショップで購入する事にした。


 豚の角煮はサンドイッチの具材にもなるが、紗雪にとってご飯と味噌汁と一緒に食べる料理である。


 まずはご飯を炊く為、米を洗う。


『紗雪殿?昨日は米から出てくる白い水を捨てていたが、今回は捨てないのか?』


 別の鍋にとぎ汁を注いだ紗雪にレイモンドが問いかける。


『ええ。米のとぎ汁は豚のバラ肉と大根を下茹でする時に使うの』


 米のとぎ汁で下茹でしたらアクや臭み、苦みが取り除ける事を母親から教えて貰ったのだと、紗雪がレイモンドに話す。


『私が作る料理は全て母から教えて貰ったわ』


『家庭の味という奴だな』


 だから紗雪が作る料理は、どこか温もりを感じたのだと、彼女が作った料理を口にした事があるレイモンドは納得していた。


 研いだ米を水に浸けている間、紗雪は皮を剥いた大根を輪切り、その後は面取りした大根を半月切り、豚バラブロック肉を食べ応えのある大きさに切っていく。


『紗雪殿、一つ聞いてもいいだろうか?何故、豚肉を下茹でするのだ?』


 子供の頃、ミルク粥しか作れない美奈子が豚肉と野菜を煮込んだ料理を作ってくれたのだが、それは非常に不味いものだった。一言で言えば、どこをどうすればこうなってしまうの?!という疑問が浮かんでしまうエロイムエッサイム的な物体で、今でもランスロットのトラウマとなっている。


 母親と紗雪が作る料理の違いはどこなのか?


 豚バラ肉を茹でている鍋の表面にアクが出て来たのでお玉で掬い取っている紗雪にランスロットが尋ねる。


『肉は下茹でしていないと、アクと臭みが出て料理が不味くなってしまうからです』


 これは私の想像なのですが・・・恐らく大奥様は豚肉を下茹でしていなかったのでは?


 下茹でが終わった豚バラ肉と大根を取り出して水にさらす。


『今回は時間短縮で圧力鍋を使った方がいいわね』


 豚バラブロック肉と一緒に購入した圧力鍋に水・醤油・砂糖・酒といった調味料、下茹でした豚バラ肉と大根、臭い消しのネギと生姜を入れると蓋をしてコンロに火を点ける。


 その間に紗雪は三つのコンロを使ってご飯と味噌汁、ゆで卵作りに取り掛かる。


『紗雪殿?味噌汁を作る時は煮干しというものを使うのではないのか?』


『昨日の味噌汁は美奈子さんが半世紀以上振りに日本食を口にするから煮干しを使ったけど、こっちの方が楽なのよ』


 鍋の一つに入れた粉が入っている袋───某メーカーの顆粒出汁を見せる。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る