⑪豚の角煮-2-







『紗雪さん!今日のお昼は豚の角煮が食べたいわ!作ってくれないかしら?』


 典型的な日本の朝食を食べた次の日の朝


 美奈子が紗雪に昼ご飯を作って欲しいと頼んだ。


『母上!紗雪殿は侯爵家の使用人でもなければ料理人でもありません。その紗雪殿にブタノカクニとやらを作って欲しいと頼むのは筋違いというものです!』


 そんなに食べたいのであればご自分で作ればよろしいではありませんか!とランスロットとレイモンドはそう言おうとしたのだが、二人はその言葉を呑み込む。


 どこをどうすればそうなってしまうのか分からないレベルで、美奈子の料理の腕は壊滅的なのだ。


 そんな彼女にブタノカクニが作れるだろうか?


 ブタノカクニが何なのか分からないが、美奈子がそれを作るのは不可能だという事は確実だと二人は結論付ける。


『ランスロット!レイモンド!貴方達は豚の角煮の美味しさが分からないから、そんな事が言えるのよ!!』


 醤油と砂糖で煮込まれた豚肉は柔らかく、甘辛い味が染み込んだお肉と脂身が一つになって口の中で蕩けていくの


 これがあればご飯が三杯は食べられるわ


 残った角煮はサンドイッチにして食べたりしていたわね


『『・・・・・・・・・・・・』』


 うっとりとした表情で語る美奈子の一言で、醤油を混ぜた卵焼きの味を思い出したランスロットとレイモンドが唾を飲み込む。


『紗雪殿、私もブタノカクニを食べてみたいのだが・・・』


『俺も』


(・・・・・・)


 申し訳なさそうな表情を浮かべながらも、美奈子に便乗する形で豚の角煮を強請る二人を紗雪は見て思った。



 間違いなく二人は美奈子の血を引いているな



 ───と。






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