第7話(1)晩酌
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「ふう……」
自宅に戻った俺は、シャワーを浴びて、スッキリ&サッパリとした心持ちで、冷蔵庫を開けて、その中からキンキンに冷えた缶ビールを取り出して、テーブルの上において、自らも胡坐をかくかたちで腰を下ろす。そして、缶ビールを開ける。
「……!」
プシュっと音を立てて開いた缶ビールから泡があふれ出す。俺はもったいないと言わんばかりに、急いで缶に口を付け、泡ごとビールを飲む。
「……」
ゴクゴクと音を立てて飲む。こういういかにもな擬音を付けるのも、美味しさに繋がる演出だと俺は思う。心理学的な効果ではないだろうか。どういったものかは専門外だから分からないが。自己暗示の一種かな?
「……プハァ~!」
俺は缶ビールを一気に飲み干し、冷蔵庫から二本目を取り出す。運動不足だということは自覚しているし、段々と腹回りが気になってくるお年頃だが、まあ、最近飲んでいなかったから良いだろう。特に最近は色々あったからな……。
「本当に色々あった……」
今日は校長室に呼び出された。数日ぶりに二度目というハイペースだ。無論、褒め称えられたわけではない。暗がりの校庭で俺が爆散するかのような映像が生徒の間で出回っているということが職員室にも届いた。それについての呼び出しだ。
「……これはどういうことかね?」
校長から尋ねられた。それはむしろ俺が聞きたい。疾風のやつが気を失っているオカルト研究会のスマホを操作し、彼女のスマホに仕込んだ映像なのだろう。恐らくは、というか、十中八九そうだ。優等生だと思ったが、まさかデジタルにも精通しているとはな……。
「………」
「どういうことかと聞いている」
「いや、さっぱり……」
俺は首を傾げる。まさか、ありのままを話すわけにもいかない。
「村松先生、あなたもこの動画が出回っているということは承知しているでしょう?」
校長の傍らに立つ教頭から問われる。
「そ、それはなんとなくですが……」
「なんとも思わなかったのですか? これであなたが関係する妙な画像や動画が出回るのは二度目ですよ?」
そうだ、前回は暗がりの部室棟で俺が怪しく発光する画像だったな。あれは雷電の仕業だ。なんとか映えを競う為に、デコレーションの技術を日々進歩させるJKだが、まさか、教師をテカテカに光り輝かせることはないだろう。
「えっと……」
「どうなのですか?」
鼻の頭をポリポリと搔く俺に教頭が問いかけてくる。
「……困ったものですね~」
「それはこちらのセリフですよ」
うぐ、まったくおっしゃる通り。
「…………」
「これにあなたも関わっているのですか?」
「ま、まさか! だ、誰かのイタズラでしょう」
「イタズラ?」
「ええ、私は発光したり爆散したりなんて、逆立ちしたって出来ません、いわゆるフェイクなんたらというやつですよ。最近はAIも随分と進歩しているようですから……」
「ふむ、フェイク……」
「そ、そうです!」
「……とにかく、生徒たちからこういったイタズラをされているのは、あなたの脇が甘いということもあるのではないですか?」
校長が口を開く。そう来たか。
「ええっと……」
「少し弛んでいるようですね。もっと気を引き締めてもらわないと……ねえ、教頭先生?」
「ええ、まったくもって、校長先生のおっしゃる通りです!」
教頭が大げさに頷く。その後はお決まりのようなお小言を食らい、その場から解放された。
「はあ~」
昼間の出来事を思い出して、俺はため息をつく。いや、いかんいかん、このまま沈んでいてはせっかくの酒もマズくなってしまう。俺は二缶目のビールを開けて、飲み始める。
「こうやって騒ぎを起こしていると、給料に響くかもな……いや、下手するとクビ……いやいや! ネガティブシンキングは駄目だ!」
俺は首をブンブンと横に振る。
「……しかし、あいつらの顧問になってからこれだ。大体なんなんだよ、同好怪って……」
俺は今さらながらのことを呟く。
「怪獣に変貌する不良の紅蓮龍虎、怪異に変化する優等生の疾風晴嵐、怪人に変身するギャルの雷電金剛……なぜそうなるのか、あいつら自身もよく分かっていないとかなんとか言っていたが……本当か?」
本当のことを知られたらマズいから俺を誤魔化しているんじゃないか?とこれまた今さらながらの結論に達する。
「……よし決めた。とにかく明日からあいつら三人のことをよく知ろう……」
俺はビールを飲み干す。
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