第7話(2)来ちゃった

「……はい、すみません……失礼します」


 俺はそう言って、学園への電話を切った。ビデオ通話でもないのに、何度も頭を下げてしまうのはなんなのだろうね。典型的日本人ってことか。


「ズズッ……」


 俺は鼻水をすする。もしかしなくても風邪である。晩酌の後、パンツ一丁で眠ってしまったのがいけなかった。春だからとすっかり気を抜いてしまった。


「ふう……」


 先ほど、近所の病院で処方してもらった薬を飲んだ。それが効いてきたようで、起き抜けよりは大分体が楽だ。しかし、油断は禁物だ。今日はとにかく大人しくしておこう……。


「♪」


 ん? なんだ? インターホンが鳴った。別に何も注文はしてはいなかったはずだが……とにかく応答する。


「……はい」


「あ、ヤッホー、村松っち♪」


「!」


 俺は驚いた、何故なのかは知らないが、ドアの外にギャル……雷電金剛がいるのだ。俺は戸惑い気味に玄関のドアを開ける。


「来ちゃった♪」


 雷電は小首を傾げながら、片脚をひょいと上げて、猫なで声でベタなセリフを言う。


「……なんで住所が分かった?」


「ギャルの情報網を舐めないで欲しいな」


「どんな情報網だ……何しに来たんだ?」


「これ見て分かるでしょ、お見舞い♪」


 雷電は手首に提げたドラッグストアのビニール袋を見せてくる。


「……気持ちだけ受け取っておく」


 俺はドアを閉めようとする。雷電は少し慌てる。


「ちょ、ちょいちょい、何で閉めるのさ?」


「風邪が移るといけない。それにお前、学校はどうした?」


「まあ……サボりってやつ?」


「今からでも行きなさい」


 俺は再度ドアを閉めようとする。


「いやいや、ちょっと、ちょっと! 『ギャルJKの手作りおかゆ』、食べたくない?」


「……魅力的ではないと言えば嘘になるが……いや、何を言っているんだ、俺は……とにかく気持ちだけありがたく受け取っておくから……」


「そもそも村松っちが昨夜言ってきたんじゃん、『お前らのことをよく知りたい』って……」


「⁉」


 俺は驚きの表情で雷電を見つめる。雷電は至って真顔だ。どうやらふざけているわけではないらしい。俺は雷電を部屋に入れる。


「おじゃましま~す♪ お、意外と片付いているね~」


「……どういうことだ?」


「うん?」


 俺より先にリビングに入った雷電が振り向く。


「俺が昨夜言ったことだ」


「スマホを確認すれば?」


 俺は自分のスマホを確認する……なるほど、同好怪の三人の生徒たちと作ったグループRANEに、俺が『お前らのことをよく知りたい』という文を送信している。既読3とある。


「これは……」


 俺は軽く頭を抑える。昨夜確かに三人の生徒のことを知りたいなと考えてはいたが、実際にRANEしてしまうとは……酒に酔っていたとはいえ軽率だ。


「そしたら村松っちは休みだって言うからさ。こうやって来たってわけ」


 雷電は腕を組んでニヤリと笑う。


「ああ……そうか、分かった。悪いが今日は帰ってくれ。繰り返しになるが風邪を移したらいけないからな」


「大丈夫、大丈夫、そんなヤワな体じゃないし」


 雷電は大げさに右手を左右に振る。


「しかし……」


「なんてったって……『怪人』だよ?」


 雷電は胸を張る。俺はハッとする。


「! そうだ……それについて聞きたかったんだよ」


「……お見舞いさせてくれたら、話すかもしれないな~」


「……分かった。おかゆをご馳走になろう」


「オッケー、台所借りるね。ちょっと待ってて♪」


 しばらくして、雷電作のおかゆが出来上がった。俺は口にする。


「……美味いな」


「でしょ?」


 意外と家庭的なんだな。そうか……。


「この料理の腕を見込まれて、悪の組織にさらわれたんだな」


「は?」


「そこで改造手術を受けて、怪人に……」


「違うよ」


「そうか」


 即答で否定された。熱はある程度下がったはずなのに、顔が赤くなってしまう。


「え⁉ バウアーとアルベルト、巨星だったの⁉」


「……」


「いや、あっさりバラし過ぎでしょ、ウケるんだけど~」


「………」


「う~ん、面白いな、言うだけあるね、『乱撃の巨星』~」


「…………何をやっているんだ?」


 ベッドで寝ている俺の横で漫画を読んでいる雷電に尋ねる。


「え? 看病だけど」


「どこがだよ、帰れよ」


「読み終わったら帰るよ」


「貸してやるから」


「いや、重いじゃん。すぐ読みおわるからさ」


「あのな……」


「ウチもうっかり秘密について話しちゃうかもな~」


「ちっ……」


 俺は舌打ちしながら目を閉じる。しばらく経って目を開けると、パソコンの画面を見て涙ぐむ雷電の姿が目に入ってくる。


「ううっ……泣ける……」


「……何を見ているんだ?」


「ネトフレ」


「勝手に人のアカウントで……恋愛リアリティーショーか?」


「ううん、『お面師たち』……」


「な、泣ける要素あったか?」


「むしろ泣ける要素しかないよ~」


 雷電はハンカチで顔を拭う。


「そ、そうか、まあ、感性は人それぞれだからな……って、もう帰れよ」


「う~ん、もうちょっとだけ……」


「ったく……」


 それからまたしばらくして……。


「はい、ブレイク~♪」


「くそ、何度やっても勝てない!」


「村松っち、ウチにゲームで、しかも『ブレシス』で勝とうなんて甘いね~」


「もう一度だ!」


「良いよ~って言いたいところだけど、こんな時間だしそろそろ帰るね~」


「あ、ああ……」


 雷電は帰宅する。結局、秘密については聞けずじまいだった。なにやってんだ、俺……。

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