第6話(4)怪人の牙

「な、なにあれ⁉」

 俺以上にオカルト研究会が驚く。無理もない。

「今さらだが、見せても良かったのか?」

 俺は紅蓮に尋ねる。

「眼鏡もそういう考えだったんだろう?」

 紅蓮は疾風に視線を向ける。

「まあ、そうですね……」

 疾風が頷く。

「だいぶ思い切ったな、どうしてだ?」

「活動停止を要求されるなど、やや横暴と思われる態度を取られたので……つい、その意趣返しと言いますか……」

 俺の問いに疾風は淡々と答える。

「それにしてもな……」

 俺は苦笑を浮かべる。

「ついカッときてしまって……」

「疾風でもそういうことがあるとは意外だな」

「後悔はしています。反省はしていませんが」

 疾風が眼鏡をクイっと上げる。

「いや、反省こそしろよ」

「まあ、いいじゃねえか、オレは結構好きだぜ?」

 紅蓮がウインクする。好き嫌いの問題じゃないと思うのだが。

「ちょ、ちょっと!」

「うん?」

「なにか?」

「どうした?」

 紅蓮と疾風と俺がオカルト研究会に視線を向ける。

「い、いや、なによ、あれは⁉」

「さて、なんでしょう?」

「こんな時にミニクイズは要らないから!」

 おどける紅蓮に対して、オカルト研究会はイラつきながら声を上げる。

「……」

「は、疾風さん⁉」

「……オカルト研究会さんの見解を伺いたいですね……」

「ええっ⁉ そ、そんなことを言われても……」

「3、2、1……」

「シンキングタイム短っ⁉」

 オカルト研究会が困惑する。

「……時間切れです」

「だ、だから、いきなりそんなことを言われても……!」

「オカルト研究会さんもその程度ですか……少々期待外れです」

 疾風がやれやれと言った風に両手を広げる。

「くっ……せ、先生!」

「お、おう」

「あれはなんなんですか⁉」

 オカルト研究会が鼠の怪人を指差す。

「えっと……」

 なんと答えるべきなのか、俺は迷ってしまう。

「そもそも、雷電さんはどこに⁉ 彼女は無事なんですか⁉」

「あ~あいつは大丈夫だよ、うん」

 俺は頷く。雷電の心配をするだなんて、案外良い奴なんだな。

「なにを根拠に⁉」

「いや……」

 俺は答えに再度詰まる。

「……チュウ!」

「ヒ、ヒィ⁉」

 鼠の怪人に凄まれて、オカルト研究会は腰を抜かす。

「チュウ!」

「ヒッ! ……」

 鼠の怪人にさらに凄まれて、オカルト研究会は床に寝転んでしまう。

「あ、気を失った……」

 紅蓮が見下ろしながら呟く。

「まあ、無理もありませんね……」

 疾風が自らの頬に手を添えながら話す。

「ちょいとばかし刺激が強すぎたんじゃねえか?」

「悪い夢でも見たのだと思ってもらえれば……」

「上手く誤魔化せるかね?」

「常人ならばキャパオーバーでしょう」

 紅蓮からの問いに疾風が答える。

「ど、どうする⁉」

「慌てなさんなって、村松っちゃん。この子の両肩を持ってくれよ」

「あ、ああ……」

 俺と紅蓮はオカルト研究会を廊下の端っこに寄せる。

「さてと……出番だぜ、金剛」

 紅蓮が廊下の暗がりに声をかける。雷電が姿を現す。

「……『変身』!」

 雷電が猫の怪人に変身する。

「チュウ⁉」

「ミャア!」

 鼠の怪人と雷電が対峙する。

「さて……どう見る?」

 壁にもたれかかりながら、紅蓮が疾風に問う。

「鼠は猫に捕食されるもの……結果は明らかです」

「……チュウ!」

「ミャア⁉」

 体勢を屈めた鼠の怪人が勢いよく飛びかかり、雷電は手の辺りを噛みつかれてしまうがなんとかそれを振り切り、距離を取る。

「……チュウ‼」

「ミャ、ミャア!」

 素早く動き回る鼠の怪人を雷電はなんとか目で追い、攻撃を警戒する。俺は疾風に問う。

「……疾風、相手に翻弄されているようなんだが……?」

「低い体勢――四足歩行――の相手に対応しきれていませんね……」

「ちっ……おい、金剛! お前も四つん這いになれよ!」

「ミャ、ミャア⁉」

「い、いや、言い方⁉」

 紅蓮の言葉に、雷電だけでなく、俺も戸惑ってしまう。

「得意だろうが! 『女豹のポーズ』!」

「ミャ、ミャミャミャア!」

 雷電が両手をブンブンと左右に振る。疾風が冷静に呟く。

「先生もいらっしゃいますし、恥ずかしいようですね……」

「恥ずかしがっている場合か! やられちまうぞ!」

「……ミャア~‼」

「チュウ⁉」

 四足歩行になった雷電は鼠の怪人のスピードを圧倒し、口で咥えて部室棟の外に投げ飛ばす、鼠の怪人はなんとか立ち上がるが、その場で爆散した。

「世話が焼けるぜ……」

「さて、後は……これでよし……」

 疾風がオカルト研究会のスマホをなにやら操作した。後日、俺が爆散する映像が学園中に出回った。なにがこれでよしだ。

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