第6話(3)オカ研の名が廃る

「放課後と言っても、もう大分遅い時間だけど……」

 オカルト研究会がすっかり暗くなった窓の外を見て呟く。

「なんだよ、ビビったのか?」

 オカルト研究会の様子を見て、紅蓮が笑みを浮かべる。

「ビ、ビビってないわよ!」

 オカルト研究会が首を横にブンブンと振る。

「本当かよ?」

「本当よ!」

「ふ~ん……」

 紅蓮がニヤニヤとオカルト研究会を見つめる。

「ちょ、ちょっと暗いくらいで、いちいちビクついていたら、オカルト研究会の名が廃るってものよ! オカルト研究会の風上にも置けないわ!」

 オカルト研究会が声を上げる。

「へ~立派なもんだ……」

「紅蓮さん……馬鹿にしているでしょう?」

 オカルト研究会が尚もニヤニヤしている紅蓮に尋ねる。

「あ、バレた?」

 紅蓮がペロっと舌を出す。

「あなたね……!」

 オカルト研究会が紅蓮をキッと睨む。

「ああ~それくらいにしておけ……」

 俺はオカルト研究会をなだめる。

「くっ……」

「紅蓮も煽るな」

「へいへい」

「へいは一回だ……」

「へ、へいは良いのかよ?」

「え?」

「そこははいって言えとかいうところだろう?」

「ああ……」

「ああ……って」

「いや、紅蓮はあれだからな……」

「あれってなんだよ?」

「いや、そういうキャラだろ? 江戸っ子っぽいというか……」

「だ、誰が江戸っ子だよ!」

 紅蓮が声を上げる。

「違うのか?」

「違えよ!」

「そういう口調もなんとなく江戸っ子っぽいじゃないか」

「どんなイメージなんだよ!」

「……シティガールって言うかさ……」

「呼び方の問題じゃねえ!」

「わ、私を無視して盛り上がらないでください!」

 オカルト研究会が割って入ってくる。

「い、いや、盛り上がっていたわけではないんだが……」

「盛り上がっていたじゃないですか!」

「そ、そうか?」

「そうですよ!」

「皆さん……」

「!」

「‼」

「⁉」

 音もなく部室に入ってきた疾風に俺たち三人は一様にビクッとなる。

「警備員さんなどが来たら面倒ですから、どうかお静かに……」

 疾風が自らの口元に人差し指を添える。

「……」

「村松先生」

「え?」

「え?ではありません。こういう時には注意してもらわなくては……一緒になって騒いでもらっては困ります……」

「す、すまん……」

 俺は後頭部をポリポリと掻く。

「……疾風さん」

 オカルト研究会が口を開く。

「なにか?」

 疾風が小首を傾げる。

「い、いや、なにか?じゃなくて……あなたが呼びだしたんでしょう?」

「そうでしたっけ?」

「そ、そうよ! 面白いものをご覧に入れましょうとかなんとか言って……!」

「そんなことを言いましたか?」

「い、言ったわよ!」

 オカルト研究会が再度声を上げる。

「ふふっ、冗談ですよ……」

 疾風が小さく笑みを浮かべる。

「冗談って……」

「……しかしですね」

 疾風が真面目な表情に戻る。

「……え?」

「これは冗談ではなく、相談なのですが……」

「な、なによ……?」

「……やはりお帰り頂けませんか?」

「は、はあ⁉」

「よくよく考えてみれば、お目にかけない方が一番平和なのです……」

 疾風が眼鏡の縁を触りながら話す。俺としてはよくよく考えるまでもないような気がするのだが、ここは黙っておくことにした。

「な、なにを言っているのよ!」

「貴女の為を思って言っているのです」

「わ、訳が分からないわよ!」

「分からなくても結構……世の中には知らないで良いこともあるのです……」

 疾風は淡々と話す。

「そ、そんな言い方されたら……」

「む?」

「ますます気になるじゃないの!」

「むむ?」

 パアッと顔を輝かせるオカルト研究会に、疾風はやや面食らう。

「いやいや……オカ研にそういう言い方をしたら逆効果だろうが……」

 紅蓮が苦笑する。

「そういうものなのですか」

「そういうもんなんだよ」

「……困りましたね」

 疾風が顎に手を添えて俯く。

「なに、当初の予定通りにすりゃ良いだろうが。おいオカ研、廊下に出ろ」

「な、なに?」

「いいからよ」

 紅蓮に促されて、俺たちは部室棟の廊下に出る。

「……チュウ……」

「ええっ⁉」

 廊下には鼠の頭をした人型の怪人が立っていた。俺は驚く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る