第2話(2)図書室にて

「さて、顧問の先生も無事に決まりました……」


「……無事ではないけどな」


 俺は疾風の発言に小声で反応する。


「とりあえず……」


「とりあえず?」


「拍手~」


「よっしゃー!」


「いえ~い♪ パチパチパチ……」


 疾風の呼びかけに紅蓮と雷電が応じる。


「お、おい、図書室で騒ぐな……!」


 俺は慌てて皆を注意する。


「おっ、村松っち、さっそくの顧問ムーブだね~♪」


 雷電が俺の事を両手の人差し指で指差してくる。


「顧問じゃなくても当たり前のことだ……あと、指を差すな……」


「ここで盛り上がらないでいつ盛り上がるんだよ」


 紅蓮が唇を尖らせる。


「……紅蓮、タイミングの話はしていない。場所の話をしているんだ」


「あ、そうか……」


「ったく……」


 俺は頭を抑える。


「まあ、人居ねえから別にいいじゃん」


「全然よくない」


「え~」


「え~じゃない……というか何で図書室なんだ?」


 俺は疾風に問いかける。


「……あいにく部室などがないもので……」


「職員室でもいいだろう。お前らのクラスの教室とかでも……」


「職員室は先生方のお仕事の場ですし、教室は学生が勉強するところです」


「お、おお……」


 妙なところでこだわるな……。


「図書室がもっとも適切かと思いまして」


「図書室は本を読む場所じゃないのか?」


「色々と説明がしやすいものですから……」


「説明?」


「ええ、こちらをご覧ください……」


 疾風が机に置いた本を開く。


「これは……」


「地図だよ」


「それは見れば分かる」


 俺は紅蓮に応える。


「一応反応してあげるんだね……」


「一応な」


 雷電が微笑む。


「優しいんだね」


「ノーリアクションだとかわいそうだからな」


「それもそうだね」


「ええい! かわいそうとか言うな!」


 紅蓮が声を上げる。


「龍虎さん、ずっと黙っていてください」


「ずっと⁉ ちょっとじゃなくてかよ⁉」


 疾風の言葉に紅蓮が驚く。


「ええ、ずっと」


「ええ……」


「これは……この辺の地図か?」


 俺は地図を見ながら話を戻す。


「そうです」


「少し古いようだが……」


「ええ、この学校が出来る前のものですから」


「どうして古い地図を?」


「説明がしやすいのです」


「その説明とは?」


「昨日の現象などについてです」


「ああ……」


 俺は思い出しながら頷く。


「長々と説明しても仕方ありませんので、手短に話しますと……」


「うむ……」


「この辺りの地域には色々と不可思議な点が多いのです」


「ほう……」


「……」


「……」


「………」


「………ん?」


「以上です」


「ええっ⁉」


 俺は思わず声を上げる。


「図書室ではお静かに……」


 疾風が自らの唇に人差し指を当てる。


「い、いや……」


「何か気になる点が?」


 疾風が首を傾げる。


「気になる点だらけだ」


「晴嵐っちのスリーサイズとか?」


「雷電、黙っていろ、ずっと」


「ええっ⁉ 村松っち、酷くない⁉」


 雷電が啞然とする。


「……『ズッ友』だな」


 紅蓮が雷電を両手の人差し指で指差しながら呟く。


「嫌だよ、そんな『ズッ友』……」


「話を端折り過ぎだろう」


「手短に話すと申し上げましたが」


「いくらなんでも短すぎるだろう」


「ですが……」


「ですが?」


 俺は首を傾げる。


「他に言うべきことがないのです……」


 疾風が両手を広げる。


「ないのか?」


「ええ、不明な点が余りにも多いので……」


「だが、それでは説明とは言えないだろう」


「おっしゃる通りです」


「おっしゃる通りって……」


「まあ、そうですね……」


「?」


 首を傾げる俺に疾風が告げる。


「今夜も学校に残ってもらいますか? なかなかユニークなものが見られると思います」


「ま、またか……」


「はい」


 疾風が眼鏡をクイっと上げる。ユニークってなんだよ。嫌な予感しかしないんだが。

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