第2話(1)顧問
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「よっ」
「こんにちは……」
「やっほ~♪」
「お前らな……」
怪獣同士の激しい戦いを目撃した翌日の昼休み、俺の下に紅蓮、疾風、雷電の三人が揃って訪ねてきた。
「村松っちゃん、昼飯は済んだのか?」
「ああ……」
「それじゃあ、話は出来るな」
紅蓮が笑みを浮かべる。
「何の話だ?」
「またまた~しらばっくれんなよ、ほれ」
紅蓮が一枚のプリントを取り出してヒラヒラとさせる。
「ああ、それか……」
「昨日は突き返されちまったが、今日こそはサインしてもらうぜ」
「断る」
「なんでだよ」
俺の返答に紅蓮は唇を尖らせる。
「他の先生を当たってくれないか」
「そういうわけにもいかねえよ」
「なんでだ?」
俺は首を傾げる。
「どうしてもだ」
「全然答えになっていないぞ」
「村松っちゃんしかいないんだよ」
「そうとは思えないが……」
「だって、昨日のこと、誰にも言いふらしたりしてねえみてえじゃん」
「どうせ誰も信用してくれないだろうからな」
「SNSでも言ってねえしな……」
「ああ……って、な、なんで俺のアカウントを知っているんだよ⁉」
「それは秘密だ」
紅蓮が悪戯っぽく笑う。またそれか……。こいつらの情報網はなんなんだ……?
「ったく……」
俺は後頭部をポリポリと掻く。紅蓮は呟く。
「秘密を守れる大人ってのは貴重だからな」
「大体だな……」
「ん?」
「昨日のあれは……治安維持活動か? それとも風紀委員会的な活動か?」
「別にどっちでもいいぜ」
「どっちでもいいのかよ」
「ああ」
紅蓮は頷く。俺はため息交じりに呟く。
「はあ……適当だな」
「なんとも言い難いからな」
紅蓮は両手を広げる。
「まあ、それはそうかもしれないが……」
「だろ?」
「俺の方としてはふたつの選択肢というか、考えがある……」
俺は指を二本立てる。
「ふたつ?」
紅蓮が首を傾げる。
「あれがお前らの自主的な活動ならば、それを止めるつもりはない。正直面倒ごとに巻き込まれるというのはごめんだからな。昨夜のことは見なかったことにする」
「ふむ……」
「……もうひとつは、活動内容がいまひとつはっきりしないというのなら、やはり顧問にはなれないということだ」
「マジかよ」
「マジだ」
「そこをなんとか……」
紅蓮が両手を合わせて拝むような姿勢になる。
「ならない。そもそも申請が通らないだろう……」
俺は首を左右に振りながら答える。
「そこは無理矢理にでも通してみせるさ」
「無茶を言うなよ……」
俺は呆れた視線を紅蓮に向ける。
「……よろしいでしょうか」
黙っていた疾風が口を開く。俺が問う。
「なんだ、疾風?」
「村松先生にこうしてお願いにあがったのは明確な理由があるのです」
「ほう……」
俺は顎をさすりながら、疾風の方に体を向ける。
「先生は地学を担当されております」
「ああ」
「地学の研究にはフィールドワークがつきものだと思われます」
「まあ、そうだな……まさか?」
俺はハッとなる。疾風が頷く。
「そうです。活動内容としてはフィールドワークを行う同好会……という趣旨で申請を行えば、比較的にスムーズに話は通るかと……」
「……そんな上手くいくか?」
「検討を重ねた結果、これが最適解かと……」
疾風が眼鏡の縁を触る。
「……フィールドワークって、基本は昼間にやるもんだぞ?」
「地域に伝わる怪談の類を調査するには、夜の方が良いかと」
「それは民俗学的な範疇じゃないか?」
「この地域で潜在的に恐れられている南海トラフ地震についての調査なども兼ねるとか……その辺は別にどうとでもなります」
「……繰り返しになるみたいだが、顧問っているのか?」
「どなたか監督してくれる方がいないと、警備員さんや用務員さん、居残りをしている先生の目がうるさいものですから……」
「う~ん……」
「顧問、引き受けてくださいませんか?」
「そ、そう言われてもな……」
俺は腕を組んで考え込む。雷電が口を開く。
「しょうがないな~」
「ん?」
雷電が俺の方に近寄ってきて、スマホを取り出す。
「……村松っち、これを見て」
「こ、これは……!」
俺が助手席に紅蓮を乗せている画像を見せてきた。
「例えば、この画像が出回ると……マズいんじゃないの~?」
「そ、それは、昨日、遅くなったからお前らを送っただけで……!」
「その話が果たしてどこまで信用されるかな~?」
「むっ……」
「同好会の顧問なら信用度合いは増すだろうけど……」
「ちっ……分かったよ、なれば良いんだろう、顧問に!」
「賢明だね~♪」
俺の言葉に雷電はウインクする。いつの間にそんな画像を……。
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