第2話(3)夜の校舎にて

「……」


 俺は言われた通りに夜の校舎へとやってくる。我ながら何をやっているんだか……。こうしてまた貴重なプライベートの時間を削ってまでさ。


「……来たな」


「村松っち、こんばん~♪」


「! お、おお……こ、こんばんは……」


 暗がりから紅蓮と雷電が現れる。


「……」


 雷電が俺のことをじっと見つめる。


「ど、どうした、雷電?」


「……今日は挨拶噛まないんだね」


「そ、それがどうした?」


「つまんないの」」


 雷電が唇をプイっと尖らせる。


「つまんないってなんだ、つまんないって……」


 俺はムッとする。


「おもしろくないってこと」


「それは分かっている。というかな……」


「ん?」


「また言われるがままにこうして来てしまったんだが、もう下校時間はとっくに過ぎているだろう。さっさと家に帰れ」


「え~」


「だから、え~じゃないって。帰るんだ」


「そういうわけにはいかないんだよ~」


「なんでだよ?」


「なんでって……ねえ、龍虎っち?」


 雷電が紅蓮に対して視線を向ける。紅蓮が口を開く。


「……事が済んだら大人しく帰るさ」


「事が済んだらだって?」


「ああ」


 紅蓮が頷く。俺は紅蓮を指し示す。


「紅蓮、お前さんはここにいるじゃないか」


「そうだな」


「……ということは、昨日のような怪獣騒ぎはないんだろう?」


「……意外と鋭いじゃねえか」


 紅蓮が腕を組む。


「いや、鋭いとかって言われてもな……」


 俺は後頭部をポリポリと掻く。


「そこに気が付くとはなかなか出来ることじゃねえぜ」


「大体の察しはつくだろうが」


「そうか」


「そうだよ……とにかく早く帰るぞ、また車で送るから」


「……だから、そういうわけにもいかねえんだって……」


 紅蓮は首を左右に振る。俺は戸惑う。


「なんだよ、あまり困らせないでくれよ……」


「顧問なんだからある程度は付き合ってもらうさ」


「だから顧問って言われてもな……」


 俺は鼻の頭をポリポリと掻く。


「まだグダグダ言っているのかよ」


 紅蓮が呆れた目を向けてくる。


「そりゃあ言うだろう」


「昼間に図書室で説明はしただろう?」


「ああいうのは説明とは言わないぞ」


 俺は首を横に振る。


「ええ?」


「こっちがええ?だ」


「まさか……納得してねえっていうのか?」


「あれで納得出来るわけがないだろう」


「なんでだよ」


「不明な点が多すぎるんだよ」


「それくらい別に良いだろうが」


「別に良くない」


 俺は再度、首を横に振る。


「だってよ……」


「だって?」


「オレらにもよく分からねえんだからしょうがねえじゃん」


 紅蓮が両手を大きく広げる。今度は俺が呆れた目を向ける。


「……だから、そんなことに巻き込まないでくれよ……」


「教師は困っている生徒の為に力を尽くすもんだろう?」


「この場合、教師の俺の方が困っているよ」


「う~む……困ったな」


 紅蓮が再び腕を組んで、首を捻る。だから困っているのは俺の方だっての。


「とにかく……」


「……まあ、実際に見てもらうしかねえか……」


「実際に? なんだ、また怪獣か?」


「そうそうは出ねえよ。ああいうのはたまにだ」


「そ、そうなのか……」


 たまには出るのかよ。雷電が口を開く。


「村松っち……」


「なんだよ?」


「ビビっているの?」


「ああ、ビビっているよ」


「素直だね」


「それはそうだろう。また得体の知れないことに巻き込まれるかもしれないんだから」


「大丈夫だよ、巻き込んだりしないって~」


「そ、そうなのか?」


「ああ、監督してくれればそれでいいさ……」


 紅蓮が呟く。


「え? ……おわっ⁉」


 廊下の窓ガラスが一斉にガタガタと揺れたかと思うと、一部が割れる。地震か? これは結構大きいな……って、そうじゃなくて、紅蓮たちを避難させないと……。


「来やがったな……」


「そうだね~」


「お前ら、窓から離れて……!」


「ブオアアッ!」


「はあっ⁉」


 俺は驚く、割れた窓から大きい火の玉のようなものが現れたからだ。こんな生物は見たことがない。その火の玉のようなものが再び咆哮する。


「ブオアアアッ!」


「な、なんだ⁉ 『怪奇現象』ってやつか⁉」


「……それでも良いですが、我々は『怪異』と呼んでおります……」


 暗がりから疾風が眼鏡を抑えながら現れる。


「は、疾風! お前もいたのか⁉」


「ええ、こういうのは私の担当なものですから……『変化』!」


「!」


「シャアアッ!」


「ええっ⁉」


 疾風が目の前で鎌のような爪をしたイタチに変化したので、俺は度肝を抜かれてしまう。

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