ラブコメなら他所でやれ!
コカ
第1話 ラブコメなら他所でやれ! ①
物語には美しいふたりが欠かせない。
もっとも僕の持論だから、ご意見ご感想は多々あるだろう。でも、その条件は必須だと確信している。
もちろん、見た目だけを言うのであれば、必ずしもそうだとはいえない。
カッコイイ主人公が美しいヒロインと出会う。確かに全ての物語がそんなボーイ・ミーツ・ガールばかりではない。
だけど、これは見てくれの醜美に限ったことではなく、有り様とでも言うのだろうか。
僕という読み手からすれば、文章や行間から想像するキャラクター達、その全ては、それはそれはキラキラと美しく輝いて、最後は絶対に『あぁこの両人は美しいな、素晴らしい』そう思うんだ。だから、
――僕は物語の主役にはなれない。
悲しいことだけどね。
小学生の頃までかな、自分こそが『僕』という物語の主人公。そう思って生きてきたけれど、人間いやがおうでも気づかされる時が来る。
それは、勉学であったり。
ときには、部活動での活躍であったり。
そして、気になるあの子が自分ではない別の男と笑顔で歩いていたり。
皆、少しくらいは心当たりがあるだろう?
僕の場合も、御多分に漏れず『あぁそうなんだな』と納得せざるを得なかったというだけ。
なにをその年齢で悟ったような事を、と笑うヒトもいるだろう。
だけど、どんなガキんちょでも、きっかけさえあればやっぱりなと、そういった程度には気がつくものだ。
――それに、僕は日陰者。
『中学生になれば、少しは社交的になるでしょう』両親揃ってそう期待していたみたいだけど、ゴメンね。生まれ持った性質はそう簡単には変わらない。
昔から引っ込み思案で内向的で。そのくせ変にこだわり派で、気難しくて。
こんな面倒くさいヤツに寄ってくる子なんているもんか。いたとしてもすぐに離れていくのがオチ。
実際僕はそうだった。
こんな僕だけど、小学生の頃、ひとりだけ大親友と呼べる子が居たんだ。でも、ある日突然引っ越しするからと泣いて別れてそれっきり。
僕が “いっちゃん” で、向こうが “あーちゃん”
今でも友人と聞いて顔を思い出すのは、いい加減なあだ名で呼び合ったソイツだけ。
お互い本名も知らない家も知らない。年齢はたぶん同じくらいの男子。
学区が違うからたまたま近場の公園で仲良くなった程度の間柄だけど、妙に気が合ってさ。なにやっても楽しかったのは、ホントあの頃くらいなものだ。
僕は昔からこんな性格だから、公園に行けば遊び相手がいる。コレってかなり大切な事で、学校で叱られたとき、家族と喧嘩したとき、行けば必ず笑って手を引いてくれる。それにどれほど救われたことか。
もちろん、相手の元気が無ければ僕の番。
泣いてる親友の手を握って、ずっと隣で座っていたこともあった。
そんな一番の遊び相手を失うんだ、馬鹿みたいに足掻いたのも懐かしい。
――本当に、唐突だった。
ふいに、いつもの公園で泣くまいと、涙をいっぱいに溜めた親友が別れを告げてくるんだ。今度引っ越すことになったって。
家族の体調を理由にだったか、それは僕たちみたいなガキンチョでは到底抗うことの出来ない決定事項だった。
でも、その時の顔と雰囲気で、さすがに子供だって分かる。
イヤだと聞こえた。
ここに居たいと聞こえた。
離れたくないと聞こえた。
なにもアイツは言っていないのに。だから、
『逃げよう』
『どこに?』
『わかんないけど、……あーちゃんもヤだろ』
『……うん』
これぞ幼少期の無鉄砲さ。
だけど、突発的に馬鹿みたいな家出を企てたところで、大人はそこまでマヌケじゃない。
ドタバタと帰ってきた息子が、慌てて遠足用のリュックを引っ張り出せば目にも付く。
相手方も同じようで、男子二人の大冒険もすぐに御用となり、ハイ終了。
だからこそ別れの日は泣いたな。
しょせん世の中とはこんなもの。どんなに努力をしてもそれだけではダメ。結果が伴わなければ何も変えられない。
今なら分かるんだけど、その頃はまだ小学校に上がったばかり。
理不尽さと憤り、これでもかと自分達の無力さを思い知り、いつもの公園でお互いに泣きはらしたもんだ。
『……絶対、会いに来るから』
こういうときに、ホントはダメなんだけどな。――その時のグズグズに崩れた顔が妙におかしくてさ。
吹き出した僕に、アイツは『こっちは真剣なのに』抗議のネコパンチ。
『今度は、ずっとずっと一緒だからね』
『おう。約束だぞ』
そう長くはない別れの時間で、また泣き出した親友と涙で濡れたゆびきりげんまん。お互いに持ち寄った缶バッジやらシールやら、当時の宝物を交換し合ってそれで終わり。
怖いくらい顔立ちの綺麗なヤツで、賢くて。運動も出来ればゲームもたくさん持ってるような金持ちで。もともと住む世界が違ったんだと言えばそれまでだけど、それ以降なんの音沙汰もなしってのは寂しかったな。
幼心に連絡先くらい聞いておけばと後悔したもんだ。
そのままあれよあれよとあの約束が宙に浮いたまま時間だけが過ぎて、約束事の大半はしょせんリップサービスということか。
……結局僕ってヤツは高校二年生となった今も口ベタだし、卑屈。休み時間は外界から逃げ出すように読書漬け。
こんな男だ。友達なんざ出来るはずもない。
ウザったらしく絡んでくるヤツは数人いるけれど、アイツらを友人とみなすのは流石に許せない。
当然、こんな性格も相まって、――彼女なんて夢のまた夢。
こんな僕でも健全な男子高校生なわけだし、彼女が欲しくないと言えば大嘘で、そりゃあ出来るもんならすぐにでも欲しいさ。
これでせめて顔の造形が良ければね。と考えなかったわけではない。
それこそ顔が良い、それだけで周りの受け取り方も違うってものだし、僕のこの性格もここまでこじらせることはなかっただろう。
まぁ、そうは言っても残念ながら、……見てくれはお察しの通り。
悲しいかな、お世辞にも褒められた顔ではない。
それでも中の下くらいだと自分では考えているのだけど、周りの、特に女子達の反応から察するに、いいとこ下の中くらいなのだろう。
勉学も運動も精一杯背伸びしてようやく平均値と言ったところだし、そうなればいよいよ胸を張って自慢できるところがコレといって特にないのだ。
ようするに、個性というモノを何処に置き忘れてきたのやら。無味無臭の無色透明で居ても居なくても変わらない、そんな程度のその他大勢。
さらに言ってしまえば、誰かの物語の『モブ』。それが僕に与えられた役割なのだと、いつしかそう考えるようになっていた。
だからかもしれない。――僕が、物語を好むのは。
そして、読了後にキラキラとした空想を頭の中で組み立てることが楽しいのだろう。
夢も希望もない自分という存在を忘れ、理想とする世界がそこには広がっているのだから。
そうだ。そうに違いない。だからこそ、
「おとなり、いいですか?」
――僕は、こういう女子が苦手だ。
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