誤報=死刑

ちびまるフォイ

完全に完璧なる証明

「スクープです! 局長!!」


芸能人のスキャンダルをついに掴むことができた。

ここまで毎日張り込みつづけたかいがあった。


「うん……」


「局長? なにをしぶっているんですか。

 はやく報道しましょう! これはトクダネですよ!」


「そうか、お前はずっと外にいたからニュース見てないんだったな」


局長はテレビを付けるとキャスターが新法を解説していた。

すべてを聞いてから言葉も出なかった。


「なんですかこれ……。つまり、誤報を流したら死刑ってことですか?」


「そういうことだ。やりづらい時代になったなぁ」


「それじゃこのトクダネは?」


「確たる証拠なのか? 100%正しいと言えるか?」


「それは……まだ言えませんけど」


「ならダメだ。お前だって死にたくないだろう」


「それはそうですけど……」


結局、そのトクダネはどこにも出ずに闇に葬られた。

うちの放送局も誤報による死刑を避けるために報道スタイルもさまがわりした。


これまでは世界の情勢や、政治などの固く難しい内容をやっていた。

今は「グルメ」や「旅」などの内容に切り替えられた。


刑事事件の報道を求めて会社に入ったはずなのに、

いまではおしゃれな新施設の情報ばかりを集めている。


「なにやってんだろ私……」


こうしている間にも、世界にはもっと考えるべき内容があるし

一般の人が知るべきニュースがたくさんあるはずだ。


なのに。


「局長! 教えてください!

 どうして私達はずっとこんな報道ばかりなんですか!」


「しょうがないだろう。誰だって死にたくないんだから」


「それはわかります! だったらちゃんと調べて報道すればいいでしょう!?」


「ばか言え。ちゃんと調べてって……。

 そんなコストかけられるわけないだろう。

 みんなお前のような熱血記者じゃないんだよ」


局長はつかれた顔でため息をついた。


「みんな家族がいて、守りたい生活があるんだ。

 時間を削って必死に証拠を集めた報道が

 誤報だったら死んじゃうんだぞ。救いがなさすぎる」


「でも……」


「グルメも旅だって見たい人はいるんだ。

 これも立派な報道だぞ。それに……」


「それに?」


「この手のニュースは、誤報するリスクが低い。

 調べたままを報道すりゃいいからな」


「そっちがメインじゃないですか!!」


局長にたてついたのがよくなかったのか私は部署異動となり、

倉庫で毎日しずかに書類整理だけをやることとなった。


そんな報道から一線をしりぞいたあるの帰り道。



ーー キキーッ!!



するどいブレーキ音の後に、ドンッとなにかぶつかった音が聞こえた。


慌ててカメラを構えて道路に走り寄ると、

ちょうど車がひき逃げしていくタイミングだった。


死んだと思っていたはずの記者の血がカメラのシャッターを切らせた。


車はあっという間に逃げてしまい、ひき逃げされた人はすぐに病院へと運ばれた。

すべてが終わった後も、私の手は震えていた。


「つ、つかんだ……これは大ニュースまちがいなし……!」


会社に持っていくことも考えたが、

局長がすぐにレポートをにぎりつぶす絵が浮かんだのでやめた。


犯人も日を空ければ空けるほど、姿をくらます可能性が高い。

被害者のためにもすぐにこのニュースを出さなければ。


「私はこのために記者になったんだ!」


私はこの情報を公開した。


世間じゃすぐに裏が取れる「浅いニュース」ばかりだったのもあり、

今回のひき逃げ事件の現場をとらえたショッキングなニュースは注目を集めた。


私は満足だった。


「これが報道のあるべき姿よ! 公開してよかった!」


ニュースの影響で警察も重い腰をあげた。

そして、先に逮捕されたのは「私」だった。


「え、な、なんで!?」


「誤報の容疑で逮捕する!」


「ええええ!?」


私の報道は誤報だった。


ひき逃げがあったのは事実だが、私が見た車はひき逃げではなく。

すでに逃げたひき逃げを追いかけていた一般の車だった。


私の誤報は、犯人を追いかけた人を「容疑者」として扱ってしまった。


「知ってのとおり、誤報を流した人間は死刑となる」


「そんな……」


必死の弁明もとりあってもらえず、ついに死刑の日を迎えた。

絞首台へと案内され、首にロープをまきつけられる。


そして、最後の尋問がはじまった。


「では、これより死刑をおこなう」


「はい……」


「死刑の前に確認することがある」


「なんでしょう……」


「お前は〇〇で合っているな?」


"はい"の「は」まで出るところだったが、私は最後の抵抗を試みた。



「いいえ違います!!」



「「 ええ!? 」」


その場にいた全員が目を点にした。


「そんなわけないだろう! だって運転免許の写真も顔同じじゃないか!」


「顔が似てるといっても、それは本当なんですか!? 誤報じゃないんですか!?」


「う……。そういわれると……確証はないが……」


「でしょう!?」


今度は警察が割って入る。


「わ、我々がちゃんと本人確認したぞ!!」


「それだって言わされた可能性もありますよ!」


「そんなわけないだろ! DNA鑑定もして、ちゃんと本人確認したもん!!」


「それが誤報だという可能性は!?」

「んなわけないだろう!?」


「この世界のすべての人間のDNAを取ったんですか!

 私だけがDNA一致したんですか!?

 本当にDNA報告書は私のものだったんですか!?

 とりちがえた可能性はないんですか!?


 すべての可能性をちゃんと100%確かめたんですか!?」


まくしたてられた警察は顔を青白くした。


「そ……そういわれると……100%じゃないかも……」



「それなのに私を死刑にするんですか!?

 この国じゃ誤報は死刑ですよ!


 もし、あなたの調査が誤報だったら、あなたが死ぬんです!!」



私の言葉に警察やその場にいた死刑執行官は声をそろえて答えた。



「もうわかった! こうなったら、お前だという証拠を集めてやる!!

 そのときは絶対に言い逃れできないくらい完璧にしてやるぞ!!」


「ええ、ええ、ぜひそうしてください!!

 誤報だったら私も死にきれませんから!!!」



こうして私が私である証拠を集めてから死刑は執行となった。



誰にも異論をさしはさむ余地のない、

完全完璧な証拠が集まったのはそれから100年後のこととなる。

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