第2話(3)大きな人形

「な、なんだ⁉」


「大入道?」


「……」


 大柄なものが栞たちの方に向かって歩いてくる。


「どうやら男ではあるようだが……」


「………」


「なにかが軋むような音がするね?」


 耳を澄ましながら焔が呟く。


「これは……金物か?」


「それと木……かな」


「なんだよ、それは……」


「あいつから聞こえてくるよ」


 焔が大柄なものを指差す。


「…………」


「ほら、一歩歩くごとに」


「確かに……ガシャガシャ言っているな……」


「いや……」


「うん?」


 栞が焔を見る。


「どちらかというと……ガッシャガッシャじゃない?」


「はあ?」


「いや、ガッシャンガッシャンかな……」


 焔が顎に手を当てながら首を傾げる。


「別に音の種類はこの際どうだっていいんだよ」


「いやいや、大事なことでしょ」


「そうか?」


「そうだよ」


「まあいいや、それよりあいつはなんなんだ?」


 栞が大柄なものを指差す。


「さあ?」


 焔が首を傾げる。


「さあってお前……」


「人の形をしたなにかかな?」


「それはなんとなく分かるけれどよ……」


「人の形……」


 焔が自らの発言にハッとなる。栞が尋ねる。


「どうかしたか?」


「いや、あれは人形なんじゃないかなって……」


「人形だと?」


「うん」


 焔が首を縦に振る。


「人形って、あれか? 傀儡師とか、戎回しとかが道中で披露している……」


「そう、それそれ」


「あれは木箱の中に入った小さなもんじゃねえか」


「それはそうだね……」


「あんな大きい人形は見たことがねえぞ?」


「うん、こんな大きいのはないね……」


「え? こんな?」


「……!」


「うおっ⁉」


 大柄なものが太い腕を振るい、攻撃してきたため、栞は慌てて後ろに飛んでかわす。


「接近していたね、気をつけて!」


 横に飛んだ焔が声をかける。栞が声を上げる。


「声をかけるのが遅えよ!」


「気がついているのかと思って……」


 焔が後頭部をポリポリと掻く。


「お前との会話にすっかり気を取られていたんだよ!」


「ごめんごめん」


「ったく……」


 体勢を立て直した栞は大柄なものをじっと見つめる。


「……………」


「なんだってんだ、こいつは……昨日みたいに腐った死体かなにかなのか? それにしては顔が変に青白いというか……」


 栞が顎をさすりながら呟く。


「こんな美人を目の前にして、顔を赤らめないなんて失礼だね」


「い、いきなり何を言ってんだよ、お前は……!」


 焔の発言に栞が顔を赤らめる。


「え、アタシのことだけど? どうかした?」


 焔が自らを指し示す。


「お前のことかよ!」


「………!」


「どおっ⁉」


 大柄なものの攻撃が再度行われる。栞はまたもなんとかかわす。大柄なものの拳が地面を深くえぐる。焔が驚きながら呟く。


「なんて威力だ。食らったらひとたまりもないね……」


「ほ、焔! 変なことを言って、オレの集中を乱すな!」


「ええ? 変なことを言ったつもりはないけれど……」


「まあいい……とにかくこいつをなんとかする!」


「栞ちゃんも馬鹿力だけど、さすがに分が悪いよ!」


「馬鹿力って言うな!」


「じゃあどうするの?」


「なに、やりようはあるさ……『木枝の剣』!」


「……‼」


 栞は尖った木の枝をより鋭利にしたものを生じさせて、それを手に取って、斬りかかり、大柄なものの右腕を斬り落とす。


「どうだ!」


「お見事!」


 焔が拍手を送る。栞は素早く振り返って、冷静に大柄なものの様子を伺う。


「血は流れていねえ、かといって霧消するわけでもねえか……それにしても……」


「………………」


「腕が斬り落とされたってのに、うめき声のひとつも上げねえとは……不気味だな」


「やせ我慢しているんじゃない?」


「だと良いんだが……」


「…………………」


 大柄なものが栞の方に振り返る。


「まだやる気みたいだね!」


「腕じゃなく、腹が胸を斬る! そうすりゃくたばるだろ!」


 栞が再び勢いよく斬りかかり、木枝の剣を横に思い切り薙ぐ。


「……‼」


 栞の攻撃を大柄なものは身を屈めてかわす。


「か、かわされた⁉ しゃがんだのか⁉」


「………‼」


 大柄なものが斬り落とされた右腕を拾い、切断跡にくっつけてみせる。すると、その右腕がまたも動き出す。それを見た栞が大いに驚く。


「はあっ⁉ くっつけただと⁉」


「…………‼」


「がはあっ⁉」


 大柄なものが右腕を振るう。しおりはその拳をもろに食らってしまう。

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