第2話(2)木と火
「まあ、というわけでオレらの出動なわけだが……」
夜道を歩きながら、栞が自らの後頭部を両手で抱える。
「連日ご苦労さまだね~栞ちゃん~」
隣を歩く焔が笑いかける。
「いや、二日くらいなら別にどうってことはねえけどよ……」
「体力あるね~」
「そうか? 普通だろ」
「普通かな?」
「ああ」
栞が頷く。
「そう?」
焔が首を傾げる。
「そうだよ」
「ふむ……」
「いつだったか、十日間連続くらいで出動したことがあっただろう?」
「そうだったっけ?」
「おいおい、忘れたのか?」
「あ~そういえばそんなこともあったような気がするね……」
焔が額を抑えながら頷く。
「あれに比べればなんてことはねえよ」
「ああ……」
「もっとも、物の怪のほとんどは晴明が退治したんだがな……」
栞が苦笑する。
「いやはや、それはともかくとして、なんとも頼もしい限りだね」
「大したことじゃねえよ」
「三国一なんじゃない?」
「大げさだな」
「いやいや、大げさじゃないよ」
焔が手を左右に振る。
「大げさ以外の何物でもないだろうが」
「それじゃあ……」
「それじゃあ?」
「今日は栞ちゃんにお任せしちゃって良いんだね?」
「良くねえよ」
「ええ?」
「ええ?じゃねえ、自分だけ楽をしようとすんな」
「バレたか」
焔がペロっと舌を出す。
「バレるわ、そんなもん」
「栞ちゃんをおだてて、調子良くさせようと思ったんだけど……」
焔が後頭部をポリポリと掻く。
「今のでおだてていたつもりなのかよ……」
栞が呆れた視線になる。
「なかなか難しいものだね~」
「お前はさ……」
「うん?」
焔が首を捻る。
「言葉に重みというものが足りないんだよな……」
「ええっ⁉」
「基本的にヘラヘラしているからよ――それが良い風に働くときも大いにあるけれど――ここぞという時に信が今一つ置けないんだよ……」
「……」
「い、いや、ちょっとばかり言い過ぎたかもしれねえな……」
焔が黙ったことに対して、栞が慌てる。
「………」
「ヘラヘラしているというのはなにも悪い意味ばかりではなくてな。お前さんの醸し出す明るい雰囲気にみんな助けられているところはあると思うぜ?」
「……栞ちゃん」
「ど、どうした……?」
「意外と言葉を知っているんだね……」
焔が感心したように栞を見つめる。
「い、意外とってなんだよ!」
「いや、ずいぶん驚いたよ……」
「驚くなって」
「熱でもあるんじゃない?」
「ねえよ」
自らの額を触ろうとした焔の手を栞は煩わしそうに払いのける。
「ふふっ、そうか、醸し出す明るい雰囲気か……」
焔はどこか嬉しそうに呟く。
「……泉は真面目だし、金は堅物、基はかっこつけたがりだからな……どうにも堅苦っしくてしょうがない時があるんだよ」
栞が自らの顎をさすりながら補足する。
「真面目なのは良いことなんじゃない?」
「それはもちろんそうなんだけどよ……そればっかりだと、オレとしてはどうしても息が詰まっちまうね……」
栞が自らの首元を抑える。
「まあ、アタシもそうかもしれないな~」
「そうだろ?」
「うん、それじゃあ今後もどんどんヘラヘラするね!」
「い、いや、どんどんはちょっと困るけどよ……」
「…………」
「と思ったら、なんだよ、急に黙り込んで……」
「ここら辺だよ、旭ちゃんたちが言っていた場所は……」
「ああ、そうか……七条通りか……」
栞が周囲を見回して確認する。
「七条通りね」
「あんまり来ねえな……」
「この辺はあれらしいね」
「あれ?」
栞が首を傾げる。
「最近、鍛冶屋が増えてきたとか……」
「鍛冶屋っていうと……」
「そりゃあ刀剣とかのさ」
「へ~よく知っているな……」
「巷のことも頭に入れておかないと」
焔が人差し指で自らの側頭部をトントンと叩く。
「むっ……」
「いやいや、ムっとしないでよ」
焔が苦笑いする。
「感心していたんだよ……それで?」
「え?」
「この辺に物の怪が出るっていう噂は聞いていたか?」
「いいや、それは初耳だね……」
焔が首を左右に振る。
「そうか……ん!」
「おっ⁉」
「……!」
ある家屋の中から、人の形をした大柄なものが現れる。栞たちは驚く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます