第2話(4)火克金

「栞ちゃん!」


「ぐっ……」


 栞が膝をつく。


「……」


 大柄なものが腕を振りかざす。


「あ、危ない!」


「くっ……『木の蔓』……!」


 栞が右手を振って、印を結ぶと、蔓が生え、近くの建物に巻き付ける。


「!」


「くっ!」


 栞が蔓を伝って、大柄なものから距離を取る。焔が声をかける。


「栞ちゃん、大丈夫! ……じゃないよね」


「わ、分かってんじゃねえか……」


 栞が腹をさすりながら苦笑する。


「まだ答える元気はあるみたいだね……」


 焔はほっとしたように呟く。


「元気というかなんというかだな……それにしても、こいつは……」


 栞が大柄なものを見つめる。


「………」


「腕を斬り落としたと思ったのによ……」


「自分でくっつけたね」


「どういう体してんだ?」


「……体の仕組みといったら良いんじゃないかな?」


「体の仕組み?」


 焔の呟きに栞が首を傾げる。


「例えば、額のあたりをよ~く見てみると……」


 焔が大柄な者の額のあたりを指し示す。


「見てみると……あれは継ぎ接ぎした跡か?」


 栞の言葉に焔が頷く。


「つまりはそういうことだよ」


「いや、どういうこったよ、さっぱりわけがわかんねえぞ」


「……察しが悪いね~」


「悪かったな」


「……元々バラバラな頭や手足、胴体をくっつけて出来ている存在なんじゃないかな」


「な、なんだよそれ……」


 焔の推測に栞が困惑する。


「さあ、なんだろうね」


 焔が肩をすくめる。


「木で出来ているのか?」


「いや、大部分は金を使っているようだけどね……」


「………」


 大柄なものが栞の方へと近づいてくる。


「さて、どうしたもんかね……みぞおちに強烈なのを食らって、まだまともに動けねえ……」


「術は使えるじゃん」


「なんとかな……ただ、逃げるしか出来ねえぞ」


「とりあえずはそれで良いんじゃないの?」


「それもそうか……よし、ここは退却するぞ。悪いがこっちに近づいてくれ。迎えにいくのはちょっと骨が折れる……」


「いや、お一人でどうぞ」


「は?」


 栞が首を捻る。


「退却するのならお一人でどうぞ」


「お前はどうすんだよ」


「こいつをこのまま放っておくわけにもいかないでしょう?」


 焔が大柄なものを指差す。


「そ、それはそうだが……」


「まあ、なんとかしてみるよ……」


「な、なんとかするって……はっ!」


「……!」


「『木の蔓』!」


 蔓を生やし、それを伝って、栞が大柄なものの攻撃をかわす。


「やいデカブツ! アタシが相手だ!」


「…………」


 大柄なものが焔の方に向く。焔が両の手のひらを広げて小さく振る。


「あ、やっぱりなんでもないです。栞ちゃんのお相手をどうぞ……」


「うおい! ビビってんじゃねえよ!」


 栞が声を上げる。


「冗談、冗談……」


「冗談を言っている場合か……!」


「さて、どうしようかね……?」


「……………」


 大柄なものが今度は焔にゆっくりと近づいてくる。焔が自らの顎をさすりながら呟く。


「動きはそこまで早くはないか……ただ、あの強い力がどうにも厄介だ……まともにやりあったら無事ではすまないよね……」


「お困りのようだね……」


「ん⁉」


 焔が驚く。自らの側に、手のひらほどの大きさの人の形をした紙がひらひらと舞って、それから晴明の声がしたのだ。焔が呟く。


「晴明ちゃんの式神……見ているの?」


「ああ、その人形の紙を通してね……」


「随分とヒマそうだね」


「優美に休日を過ごしていると言ってくれないか」


「それは心底どうでもいいよ……なに、冷やかし?」


「その大柄な人形の対処法を教えてあげようかなと思ってさ」


「わ、分かるの?」


「ああ、なんとなくではあるけれどね……」


「なんとなくでも良いから、早く教えて!」


 焔が式神のある部分をつまむ。晴明の苦しそうな声が聞こえてくる。


「! ちょ、ちょっと、そんなところに爪を立てないでくれ……!」


「あ、ああ、ごめん、わざと……」


 焔が式神を離す。晴明が呟く。


「わ、わざとって、君、質が悪いな……」


「それで?」


「……おほん、あの者は金の属性だ……ということは焔、火の術を扱える君なら克つことが出来る……! 『火克金』だ!」


「ああ……」


「君ならば出来る!」


「簡単に言ってくれるけどさ……」


「……‼」


「あぶねえぞ、焔!」


「……あまりやりたくないんだけど……『火炎放射』!」


「⁉」


 焔が印を結んで口を開くと、そこから火炎が放射される。それを食らった大柄なものは溶けるように霧消する。栞が頷く。


「……久々に見たな、その術……」


「いいぞ、焔。やはり君は大口を叩くのがよく似合う。いや、この場合は開くかな?」


「燃やしちゃおうかな……」


 焔が紙の式神を睨みながら小声で呟く。

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