第4話 救世主(メシア)
数か月後、領主家
「旦那様、例の蟻の使用人と思われる少年ですが、ダンジョン都市での殺害件数が五千を超えましてございます……」
余りの恐ろしさに家令も絶句。貴族家も数軒滅ぼされて、亜人を捕まえて売っていた奴隷業者は傭兵から冒険者まで綺麗に殺されまくって、亜人解放戦線が快哉を叫び「次は王都だっ!」と気勢を上げている所。
「うむ、しかし、衛兵でも取り締まれない、暗殺ギルドや盗賊ギルドまで殺害。山賊や窃盗団まで滅ぼされ、麻薬の販売所も次々に始末されて、奴隷業者も既にない。治安維持にはとても助かっている所だ」
頭が痛い所で、それだけの武力を持っている奴は騎士団総出であろうとも取り締まれない。今まで王都の騎士団でも山賊やら窃盗団は壊滅できず、内通者がいて逆に撃退されるほどで、それらを歯牙にもかけず葬り去って行く化け物。
手足は強力な魔物の物と交換されていて、今回は出世してヴァンパイアになって不死属性まで与えられたという。
それも一人ではなく、解放した亜人達を全て従え、家来からは神の如く慕われ、獣人単独でも一騎当千。エルフの術者までいて、それらがハイレベルになるまで鍛えられ、解放された亜人たちが鉄の結束で結ばれていて、誰もが死兵。
少年を守るためなら平気で命を投げ出せる者達で、亜人の神、全ての種族を統一して、魔族までを従え、この世を糾合して、地下世界までも全てを一つに纏め上げる王、として扱われている。
既に発見した時には手遅れ、領主家の兵力と傭兵と、冒険者と呼ばれるゴミを集結させても絶対に勝てない。
王国騎士団を招聘しても勝てない。既に国崩しの兵団で、このままでは王都が陥落させられる。
綺羅星の如く居並んだ獣人の武将たち。王都最強の騎士が出張ろうとも、出された酒が冷めないうちに討ち取って帰って来れるほどで、まさに関羽。
映画赤壁で、スペクタクルシーンは凄い映像で一人の賃金も安くて大勢。でも戦闘シーンは京劇みたいな赤ら顔の関羽が、青龍刀を縦横にするだけで相手の首が落ちているぐらい、簡単な出来事。
他にも呂布とか五虎大将軍とか一杯いて、レベル上がり過ぎて種族進化している奴らなので、普通の人類では絶対に勝てない。
エルフの術者の兵団なんかもいて、人類には見えない精霊の数が数万匹。余りにも士気が高すぎて「精霊王かっ!」と言うぐらい集結。
精霊が見える術者によると、既に風の精霊王が同行していて、炎の精霊王まで観測されている。
イコール、王都でも火災旋風で焼かれると廃墟決定。
エルフや精霊の歌声が普通の人間にも聞こえるほどの数で「田氏の元へ行こう~」と言うぐらいで、一般市民にも大きな升で米を貸して、小さな升で返却を受け取っている。
金は要らないので、クリスマスキャロルで改心したスクルージぐらい金を受け取らない。
このままだと武装蜂起した時には、牛の角に火をつけて送り出す「火牛角牛」と呼ばれる戦法で来られて、王都軍でも招集した農民兵でも全滅。
それどころか農民は全員少年の神の軍団の評判を聞いて、向こうに寝返る気マンマン。
騎士団の中でも衛兵の中でも、内通者が出て王家を討伐しようとしている奴らで汚染されている。
獣人の家臣団の中でも「王よ、今こそ蜂起の時、王都をお取りくださいっ!」とか「獣人エルフドワーフ、ホビットノーム、人間魔族魔獣、地下世界までを「九合」出来るのは貴方様だけっ!」と懇願されている模様。
少年だけが大蟻の忠実な使用人で、地下世界に搬入するゴミクズの収集だけに気を配っていて、王家や世界を取る気が無い。
大蟻の巣としては、王都侵攻して支配下に置き、抱卵器は誰でもいいので、ゴミとクズとカスを集めてくれれば済むので、そうするとダンジョン作って宝物とか置かないでも抱卵器大量。
「先日、パーフェクトヒールを習得した大聖女、その者達も蟻の使用人と判明しております。しかし、この二人は街で無償で治療行為をして、貴族家の養子にもならず、王家からの招聘も断って、王族になることすら拒否しておる始末」
地下世界まで行ってレヘル上げして、ついに大聖女になってパーフェクトヒールまで修得。
もう聖女のレベルを超えて「救世主」「神の遣い」で、ダンジョンの周囲の都市が宗教都市になるレベル。
立ちあがった会派が「聖書を読む修道女の会」とか言うヤバ過ぎる名称で、一切寄付金や治療費を受け取らずに市民の治療を行っている。
単に山賊討伐に参加しなかったのでハブられ、仕事を振られなくなっただけなのだが、聖女二人は「私達の手を汚させないよう、人間狩りからは外されている」と思い込んでいる。
「その聖女を招聘しよう、既に蟻の使用人として判明しておるなら、その真意を問おう」
「畏まりました」
救われたジジイババアが次々に教団に身を捧げて、全財産を「天に積み上げる行為」として捧げて、若い連中も「足を切断せずに済むなら、布教活動に身を捧げる」と言って参加。
魔法も使えない修道女も参加。活動に賛同するオッサンオバハンも、ボランティアとして参入。
もう、大きな車輪や重量物が、転げ始めると止まらなくなって、坂道を加速しながら何もかも轢き殺しながら進むように、大勢の人の心を殺しながら「愛(アガペー)」の一文字で全てを汚染し尽くして転げ落ちて行っている。
数日後
「スタンピートだああああっ!」
迷宮側では予定通り、魔物魔獣の放出が行われた。今回はダンジョン村の住人を食ったり、混乱に乗じて地下に抱卵器を収容しなくても良いのだが、少年が撃退するなり、レベル上げの経験値とするようリッチからも言い渡されている。
「多いな」
ヴァンパイアが弱体化しない日暮れ後、デイウォーカーになれるよう加工して貰ってはいるが、棺桶で眠らないでいい夕方以降に開始。
聖女側には一切言っていないが、獣人の戦士や騎士サムライは命を弾として砕ける気マンマン。
「義によって助太刀いたすっ」
ドワーフの戦士も「命の捧げ時だ」などと、油が抜けきった笑顔で、各種族違う言語で「救世主様の歌」なんぞ歌いながら死出の旅に出ようとしている。
「命には命で答えねばならない」
エルフの兵団も、何か泣きながら死出の旅に出ることにしたようで、精霊と挨拶を交わし、今までの非礼などを詫び、どこかのコンスタンチノープル陥落の時のように、泣きながら笑顔で出立。
こいつらレベル上げで種族まで変わってしまい、よほど新入りでレベル低いままの奴じゃないと死なない、死ねない。
「勝鬨を上げろおおおおおっ!」
「おおっ! おおっ! おおおおおおおおっ!」
剣と盾を打ち鳴らして、槍持ちは地面を蹴って泣き叫ぶ。宗教的一体感を出して、宗教的快楽や法悦に達して、獣人エルフドワーフホビットの兵団が城砦前から進発する。
敵は蟻が扱いやすい大型の虫ではなく、無断でテナント入居しているだけの動物系統とゴブリンオークオーガなど。結構追い出された。
「とっかーーーーーん!!」
「応っ!」
人間からも武僧が槍持って笑顔で突貫、ダンジョン都市の住民とか、冒険者とか傭兵は逃げ去って、街の衛兵や騎士は城砦の上で見ているだけ。
「聖女様っ、お待ちくださいっ、危のうございますっ」
「いいえ、わたくしたちは何があろうとも、あの方に回復呪文をかけ続けるのが使命なのですっ」
もう泣いちゃっているので、目付きもおかしいし、目の焦点があってないというか、アッチの世界しか見てないので怖い。
「「「「「「「「「「見よ、その笑顔を~、あの癒しと赦しに満ちた愛こそがエト~ワ~ル~(輝く天の星)」」」」」」」」」」
もう死ぬことを一切恐れない、士気マックス、宗教的な一体感に満ち溢れた兵団が前進。
天の国に帰るんだと、全員が励まし合って笑顔で死出の旅に出る。新兵など通常使い物にならないはずが、足取りも軽く天国への階段でも上るように進んで行く。
「ウフフ」
「アハハ」
綺麗な笑顔で泣きながら前進、雰囲気がヤバ過ぎるので、スタンピート中の魔獣でも前進停止。
『おい、あいつら怖がってないぞ』
『いつもなら逃げだすか、震えてやがるのに?』
「「「「「「「「「「万物を愛する弛まぬ歩み~、力無き者を支え~、御手を持って~導く者~なり~~」」」」」」」」」」
本来、敵同士であるエルフとドワーフまで肩を組んで前進、言語は違うが救世主(エトワール)の歌を合唱しながら、綺麗な笑顔で泣きながら前進。
「突撃~~~っ!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
少年や精霊達を含めて、水滸伝的に敵側が散々に打ち払われてしまった。
少年が使役する戦闘蟻まで参加して、勇壮な、英雄的な、叙事詩の如き戦いが行われて、ダンジョン都市は守られた。
相手側の実力を見せられて、領主家や王家の情報部は恐れた。
領主家
大聖女を呼び出して今回の褒章を与え、叙勲授章。叙爵までさせると内示していたので、修道女信者多数で来訪。
「今回はよくやってくれた、亜人解放戦線を表彰する訳にはいかぬので、教会や聖女で褒章を受け取って欲しい」
「は、有難き幸せ」
「あの少年もな……」
もし聖女を敵に回せば、領主も騎士も衛兵も、聖女の大蟻の腕や足で打ち払われてしまい首チョンパ。
「蟻の使用人と言う立場なので、表彰は出来ぬ……」
もうバレテ~ラ、と言う訳で、進退窮まった聖女達はこう言った。
「私達はあの方から、蟻の巣の地下から救い出され、レベルを上げて貰って、母を助ける為に治療呪文を覚えさせてもらいました」
何も嘘は言っていない、性奴隷として監視役として付けられたが、リッチから直接「人間を抱卵器として搬入しろ、愚かな生き物を騙し、地下世界の食料として送り込むのだ」とは言われていない。
「街中でも聖女として活動して、寄付金ではなく名誉を、市民からの忠誠を、忠義を捧げられる存在として、無償で、お金も取らず、治療活動をするよう求められたのですっ」
特に黒歴史を解説する訳でもないが、二人揃って順番に告解を聞かされる一同。
ギルドや不愛想な受付嬢から弾圧されて、暴力で黙らせようとした人物のクランハウスを乗っ取ったり、その場所に働き蟻を招いて地下に搬入させたりはした。が、聖女は関与していない。
その場所を亜人解放戦線として利用して、亜人市民の信用を得たりもした。
少年をダンジョンに放置して逃げた人物に思い知らせてやって、ホモゴブリンやゲイオークの巣に置いてきたりはしたが、社会悪を始末しただけである。
貴族なんかも始末したが、奴隷として監禁して自分のために働かせようとした自己愛性人格障害。
「確かにあの方と私達は、蟻の使用人として地上に出て、家畜や人間を上納する活動を言い渡されていました……」
聖女二人なら、大蟻に取り換えられた腕と足を振るって、実力行使で周囲の衛兵や、領主や教会関係者の腕と足を斬り飛ばし、働き蟻を呼び寄せて全員を地下世界に搬入する事も出来たが、そうはしなかった。
「でも、私達は手を穢すことなくっ、聖女として暮らし、市民を治療し続ける存在として活動するよう、あの方から命じられたのですっ」
特に命じられていないがそう思い込んでいる。この程度の奴らは一般市民を殺せない、人類を裏切れない、家族を殺せない、友人を犠牲に出来ない。
茶話会などと称して、茶を飲んで「アハハ、ウフフ」などと語り合い、日頃の聖女としての活動をねぎらわれて、砂糖が入った茶や菓子を出されて食べる生活をしている。
そんな物よりも、聖女二人は少年と机の距離で隔てられている間隔や距離を飛び越え「笹食ってる場合じゃねえ」ぐらいの姿勢で、法衣のまま少年の膝の上に座って「ア~~ン」などと言うキャッキャウフフの関係になって、何なら年上のオネショタで言葉巧みに薄暗い部屋に連れ込んで、愛欲の命ずるままに肌を重ねて愛し合って結ばれて、自らの体を使って少年の子供を身籠って、自分のブッサイクな顔とスタイルの事はすっかり忘れて銀河の彼方に葬り去って、一切衆生で迷える子羊の罪を一身で背負って、神の国へと旅立とうとしている少年の子種によって子供を孕み産み落とし愛し育み、次世代の無垢で罪を持たない子供を授かり、預言者(メシア)として救世主として育て上げ「貴方の父上は立派な方で、この世の罪を一人で背負われて神の国へと帰ったのです」などとホザいて、信徒と共に荒野を彷徨い、いつか神の国を打ち立てて、悪逆な王国や国家を討ち倒し、この世を王道楽土(ユートピア)とするのが自分に与えられた使命だと「思い込んでいる」頭イッッタイ二人の妄想は続いた。
「まるで贖罪でもするようにっ、いかがわしい連中や犯罪者を連れ去る代わりにっ、真っ当な市民に対しては善行を重ねるようっ、命じられていたのでございますっ」
もう聖女二人共ガチ泣き、ガッツリスイッチ入っちゃって、悲劇の主人公気取り。
でも少年の方は相変わらず「計画通り」みたいな黑い笑顔で「ククク、お前達は蟻の巣のエサだ~」などとホザいている。
「その行いが罪だというのならばっ、その罪は私達にも共通ですっ!」
ガッツリ言い付けられてカミングアウトされてしまって、少年の命の方も風前の灯火なのだが、少女達の告解は絶叫へと変わって行った。
「私達の命はあの方の物ですっ、あの方に罪を問うというのならばっ、まず私達を罰してくださいっ!」
もう芝居のレベルを超えて、法悦に達したのかガチ泣きボロ泣きで告解。何か「自らの使命」に目覚めちゃって、アッチの世界にまで到達。
聖女二人は自らの首を差し出して、地面に跪いてから髪を首から外して、五体投地して身を捧げた。
数十人の信徒も続いて身を捧げ、聖女に救われてからは残りの人生を「聖書を読む修道女の会」だとか「神の子の愛の修道士会」だとかホザいている、目付きが危なすぎる集団の会派が、雨後の筍みたいにニョキニョキ生えてしまい、王国も教会も始末に負えないので困っていた。
「もしあの方を捕らえて処刑するのならばっ、まず私達の首を切り落としてくださいっ!」
殺した人数を考えれば、少年の罪は死刑以外にあり得ない。
「でも、でもあの方はっ、この都市を救いましたっ。魔獣のスタンピートからも救ったのですっ!」
聖女二名はオイオイ泣き始めて、自らの首を差し出して、諦念を極めた得心がいった顔で、神への祈りを開始して、神の御許へと旅立つ準備をした。
「あのお方こそ神の遣いっ、グスッ、天が使わされた神の使徒なのでございますっ、もしあのお方を害するというのならば、私達もその罪を受けますっ」
「さあ、まず私達を捕らえて死罪に……」
元のブッサイクな顔が、涙と涎と鼻水でもっとブッサイクになって、一目見ただけでも百年の恋でも覚めるぐらいブッッッッサイクになっていた。
領主も泣ていた、教会の連中も泣いていた。周囲を警護していた衛兵も泣いていた。
定期的にクズやゴミやカスを地下世界に連れ去って、市街地を清潔に保ってくれている人物を、蟻の使用人だからと言って処刑してしまうと、この二人は必ず殉死する。
もしそんな事を仕出かすと、市民革命が起こってしまって、領主家の人物はメイドや飯炊きまで引きずり出されて処刑されてしまう。
領主家の家族は凄まじいまでの拷問を加えられて、娘や孫は市民に輪姦されて思い知らされ、全員生まれて来た事を後悔するまで徹底的な凌辱と拷問を加えられて死ぬ。
神殿の連中もただでは済まない、金糸銀糸で着飾っていても、バカみたいな高い帽子を被って威張っていられるのは、市民を治療し続けている聖女あってこそ。
寄付金で贅沢な暮らしをして、少年少女にイタズラをして性的虐待をしていると知られれば、吊るされて断頭台に送られて、街路樹から腐り落ちるまで放置される。
血と精霊と父なる神などとホザいて、高級なワインをがぶ飲みして信者の美女を侍らして、有り余る肉やツマミ食って、デブい体でいられるのは下部組織の連中が働いているから。
もし聖女二人が殉死するのを見送ったとなれば、恐ろしい数の市民が教会を訪れ、一人残らず処刑されて死体まで辱められて、火を付けられて転げ回って苦しむ所を笑って観察されてしまう。
「見よ、その笑顔を~、あの癒しと赦しに満ちた愛こそがエト~ワ~ル~(輝く天の星)」
「万物を愛する弛まぬ歩み~、力無き者を支え~、御手を持って~導く者~なり~~」
誰が発するとなく、信徒から聖歌が歌われ始めて、地面に跪いて祈りと歌を続ける。
「分かった、分かったからもう泣くでない。儂らが悪かった、其方らを罰しようとは思わぬ、少年を罰しようとは思わぬ。だから、殉死しようとはするな(自分達の命が危うくなるため)」
「ううっ、うわあああああああっ!」
「あああああっ!」
聖女二人の、自分達の命を懸けた要求が通った。覚悟の深さが察せられたのか、少年が処刑されれば自分達も必ず殉死して、この都市からも現世から去ると言い切った様な、自分の命は少年の生き死に次第だと言い放った、命を懸けて行った請願が叶った。
「教会は少年を聖人と認める(そうしないと全員ぶっ殺されるため)」
「ありがとうございますっ、ありがとうございますっ」
これで魔獣のスタンピートであろうが、魔族や隣国敵国の工作であろうが、地下世界の住人が守ってくれるのでウッハウハ。
常備兵力が足りなかろうが、冒険者なんぞ一瞬で逃げ去ってしまうクソの役に立たない奴らではなく、戦闘用の3メートル級の蟻やら、数十メートルある巨大ムカデや、搭乗者のリッチまで参加して守って貰える。
ここにどうでもいい奴らで、あえて言うと邪魔。そんなゴミクズで棄民を定期的に地下に搬入してくれる奴で、地上世界を清潔に保ってくれる蟻の使用人と、地上世界の領主や教会の連中との奇跡のマリアージュが完成した。
その上で地上世界に出現する、ヴァンパイアや人狼やサキュバスと言った人類の敵まで地下に搬入してくれて、犯罪者や冒険者と言った碌に働きもしないでブラブラして、誰かを恐喝して生活して、実入りが無くなれば盗みに入ったり強盗したり、麻薬に溺れて犯罪を起こして、定期的に金をとれるように一般市民にみかじめ料を請求し続けるクズを撤去してくれる奴との協定が結ばれた。
現実に盗賊や山賊は撤去されてしまい、地下世界に搬入済み。
盗賊ギルドだとか暗殺ギルドと言った、街の衛兵程度ではアンタッチャブルすぎる、家族を持っている人間には取り締まり不可能な連中まで街から消された。
少年が描いた、ちっぽけな絵図を超えて、脚本が自立進化を始めて、自立歩行から自己進化、明らかに国の形や成り立ちが変化していた。
最初は聖地エルサレムに巡礼する人物の警護をしていたはずのテンプル騎士団が、イギリスドイツフランスでの支部の預かり金を、エルサレムの本部で帳面から換金できるようになって、初期の銀行業務が開始された。
預り金から費用を取っていたはずが、利子がついて利益を生み始め、王国小国の金貨まで管理して預かり金が増え、聖地奪還のための膨大な寄付金が集まるようになって、テンプル騎士団の船団が地中海を渡るようになり、預り金の九割を貸し出せるようになって、それを証券化してまた九割貸し出して、また証券化して九割を貸し出す、現在の信用創造のような物が発生し始めていた。
残念ながらテンプル騎士団は国家から弾圧されて、スイスの傭兵と合流したり、スカンジナビア半島からアメリカ大陸へと上陸したり、各地へと逃げ伸びて行ったが、少年の思惑を遥かに超えて「ボクと契約して聖女業務をやってよ」とボソッと言った脚本が独り歩きを始めていた。
最初は病魔や怪我から救われた信者が残りの人生と身を捧げて、教義に賛同した者がボランティアで参加し始め、僅かな寄付金は聖女や信者の生活に当てられていたはずが、商人や貴族が競うように寄付を始め、膨大な金額に膨れ上がった寄付金は、転がるように周囲を巻き込んで動き始めた。
最初は寄付金で冒険者などと言うゴロツキを雇って周辺の村々を警護していたはずが、ワタミの広告に出ている兄ちゃんみたいな、頬がこけて目付きがおかしい奴らが参加して「神の剣」を振るい始めて、自警団を形成して村の周囲を木製の壁で覆い始め、物々交換だけで生活して、商人からは塩や香辛料と交換でタダ同然で取り上げられていた作物が、建設に参加する青年や住民の食料として分配され、経済が動き出してしまいこちらも自立歩行。
まるで共産主義のような村々が建設されて、魔の森が集団で開発されて行き、仕事もなかった連中が仕事にありついて、貨幣経済が動き始めて商人もやって来る。
日々の食事を提供する人物や宿を提供する者も現れて、通貨や経済が血液のように循環を始めて、その動きを止めないように商法も改正されて、手形が発行されて割引制度なども自然発生的に生まれ、テンプル騎士団のような銀行制度も産まれて、信用創造が成されて行って、通貨経済がひとりでに動き出して、制御できないほどのモンスターが生まれた。
自らの命を捧げて村を守ることが法悦に達した者が増えて、喜んで死んで行き、まるで一向一揆みたいに集団の前に出て踏み殺されても極楽浄土へ行けると思われ、武僧が笑顔で突撃して魔獣に対抗して、先を争うように死んで行く。
まるでイスラムの祝祭のように、自らの背中に鎖を打ち付けて、血塗れになって倒れるのが宗教的快楽に到達して、死者まで出るありさま。
それまでは力が強いチンピラが偉そうにして、村を守ってやっているんだと粋がって、村の娘や食料を独占したり、酒でも飲んで働きもしないで威張っていたが、そんな奴らをよく思っていなかった連中に追放されて、宗教的な自警団が結成されて行き、清く正しい者が選ばれて「聖騎士団」などとホザいて、目付きがおかしすぎる、アタマオカシスギル連中が権力を持って活動を始めていた。
明らかに世界が反転を始めてしまっていた。
正義を名乗る連中が権力闘争をして、みかじめ料が税金と名を変えて、綺麗事で汚らしいことが平然と行われ、賄賂が横行して汚い金が動いて、働きもしないで口だけ動かしている連中の元に金が集まる世界だったはず。
それが悪を名乗る少年の元では、清潔な人物が選ばれ、多少目付きがおかしい教信者が治める世界ではあったが、肉屋や屋台でも釣銭を誤魔化す人物が減って行き、男女は列を分けて歩くようになり、世間でも「信」や「義」や「忠」が声高に叫ばれるようになり、「孝」や「徳」が重く用いられる世界へと変貌していった。
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