第15話 ボウリング

 5月の連休初日は快晴で初夏を思わせる陽気だった。

 繁華街は多くの人たちが行き交い賑わっていた。


 待ち合わせのアミューズメント施設であるラウンドイレブンの前に行くと、愛華と紗香の姿が見えた。


「ごめん、待った?」

「いや、私も今来たところ」


 愛華は薄手のパーカーにショートパンツと、いつも通りのスポーティーなコーデ。

 一方紗香はフリルいっぱいのブラウスはいつも通りの令嬢スタイルだが、ボトムスはデニムのパンツだったのは、ちょっと意外だった。


「今日はパンツスタイルなんだね?」

「だって、今日ボウリングするんでしょ」


 当然のことのように言った紗香の視線は、僕のチェック柄のスカートに向けられている。


「あっ、そうだったね」


 紗香に言われて、はっと気づく。

 ボウリングするのに、スカートなんて迂闊だった。

 女の子になりたての僕は、その辺りの配慮がまだ足りない。


 モゾモゾとスカートを触りながら、どこかで服買ってこようかなと周りにあるお店を見渡してみる。安いお店なら1000円も出せばあるはず。

 そう思いながら、しもやまやユニシロなどファストファッションのお店の看板を探していると、裕太の大きな声が聞こえてきた。

 

「おまたせ」


 裕太の後ろには、学校で見かけたことはあるが名前は知らない、2人の男子が立っていた。


「コイツが三瀬で、こっちが中川。どっちもバスケ部ね」


 気を利かせた裕太が紹介してくれる。

 みんな揃ったのなら、服を買いに行く余裕はなさそうだ。


 諦めた僕は裕太の後ろの二人をよく観察してみた。

 三瀬は裕太と同じくらいの身長だが、体格がいい分裕太より大きく見える。一方中川の方は、バスケ部にしては小柄な身長で童顔な顔も相まって中学3年生には見えない。


 同じ学校でありながらほぼ初対面ということもあり、愛華たちと男子3人は「何組なの?」「部活は何やってるの?」というよそよそしい会話をしながら、エレベータへと乗り込んでいった。


 ボウリング場のある3階に着きエレベータのドアが開くと、ボールが転がる音とピンが倒れる音が耳に届いてきた。


「じゃ、俺が受付してくるから、みんな靴借りておいて」


 裕太が代表として受付してくれた。その間に他のみんなは靴を借りて、ボールを選べる。スマートなやり方に、ちょっと感心した。


「23と24番レーンだって」


 受付が終わった裕太は、迷うことなくボールを選び23番レーンのある方向へと歩き始めた。


「裕太、靴は借りないの?」

「シューズぐらい自分用の持ってきてるから」

「マイシューズ持ってるの?」

「毎回借りるより、安いから持ってるよ」


 ボウリングなんて今日で人生で3回目の僕とは違う世界で、裕太は生きているようだ。


◇ ◇ ◇


 力なく投げられたボールはレーンの右端をコロコロと転がっていき、ピンの手前でガーターに落ちていった。


「ドンマイ!」


 力なく席へ戻った僕を裕太が背中を軽くたたきながら励ましてくれた。

 頭上のスコア表には、ガーターや3点、4点などの低得点の数字が並んでいる。

 一方、裕太をはじめ他のメンバーのスコア表にはストライクやスペアのマークが並んでおり、ダントツの最下位だ。


 そんな僕の成績には目もくれず他の4人は会話に夢中なのが救いだ。

 愛華は童顔の中川が気に入ったようで、今度公園でキャッチボールしようと誘っている。

 一方、三瀬の方は紗香が気に入ったようで積極的に話しかけている。大柄な三瀬がペコペコと頭を下げながら紗耶香に取り入る様子は、さながら女王様と家来のようだ。


「よっしゃー!3連続ストライク」


 ストライクを出した裕太が大声で叫びながら、ハイタッチを求めてきた。

 裕太の大きく力強い手と僕の細い手が触れ、パチンと大きな音が響く。

 一緒になって騒いでいると、さっきまで落ち込んでいた気持ちも晴れてくるようだった。


「智美は、もうちょっと重いボールを使った方が良いと思うよ」

「今でも十分重いのに?大丈夫かな?」

「大丈夫だって、振り子の遠心力で投げるから力なくても意外と大丈夫だから。ゆっくりでも、コースさえよければピンは倒れるから」


 順番が回ってくるまで、裕太からボールの持ち方や立ち位置など教わった。

 教わった通り右端に立って、スパットと呼ばれるレーンの途中に描かれた矢印の右から2個目の矢印を狙う。

 

 今まで使っていたよりも重たい11ポンドのボールは、ゆっくりとした速度で狙い通りのコースを転がっていく。

 狙い通り1番と3番ピンの間にボールが届くと、ドミノ倒しの様にピンが次々に倒れていく。


「やったー!ストライクだ」


 人生初のストライクに嬉しくて思わず飛び跳ねていると、紗香がスカートを指さし始めた。

 めくれそうになっていたスカートを慌てて手で押さえた。

 女の子になって数カ月、いろいろとボロが出てしまう。


 席に戻りみんなとハイタッチして回り、最後は裕太の番だ。


「裕太、ありがとう」


 教えてもらったお礼を言うと、裕太は照れくさそうに笑った。

 その笑顔を見た僕の胸に、一瞬締め付けられるような痛みが走った。


 えっ、何、今の?

 ひょっとして、これが胸キュンってやつ?

 一度そう思ってしまうと、友達と思っていた裕太を意識してしまい顔が見られなくなってしまった。

 

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