1-2 暗殺計画

 場所は北京。人口は東京には及ばないが、都市の拡張・開発が常に行われている。

 北京市の中でも、あまり『平穏を好む人間が近づかない地域』の一つ。

 その中心の建物にその女、スーリは居た。

 スーリは一見、十代前半にも見える少女だったが、周辺には緊張した面持ちの黒サングラスの男たちが、スーリ同様に範囲数式を強固に展開していた。だが、この空間の支配者は、間違いなく彼女――スーリだ。

「で、逃げてきたわけ?」

 冷や汗を垂らしながら、殺し屋の男は返答をいよいよ迫られていた。

「今回の装備では、奴を遠距離からの狙撃程度で倒すことは不可能かと……思いまして」

 スーリは、『本部』が雇った殺し屋の不手際と言い訳に、まゆをひそめる。

 同時に手が動いていた。範囲数式が拡大していたが、抵抗するのは無礼にあたる。死の可能性があっても、男は動けない。

「あんた、頭はるけど中身がないの? 開けて確認してみようかしらー」

「や、やめ……」

 数式によって首を締められた殺し屋が、苦しみの悲鳴を上げる。

 興味をなくしたように、少女の無関心の双眸そうぼうは、苦しむ男と自身の中間くらいの空間、虚空を見る。

 スーリの手には、特に装飾もない銀色の鍵があった。

 それが投げられ、奇妙な数式下の物理法則にのっとった変則的な軌道を描いてから、男の手に収まった。

カネと兵器庫の鍵は渡す。

 最後のチャンスだと思って。他の人間を使っても良いけど、証拠が残っていたら口を封じるので、ドント・フォーゲット」

 気軽にスーリがそう言った。

 殺し屋は了承の返事をすると、逃げるようにその場を走って後にした。

「独立傭兵トモカズ。放置しておくと、こちらの作戦に支障が出る。

 まあ、あの殺し屋くらいでなんとかなるとも思えないけど」

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