問題編・第6話

●四条探偵事務所

葛西の話を聞いている四条達。


葛西「それが今日の昼で、その後はあてもなく歩き続けました。この事務所のチラシを見つけるまで……」

宗助「ノボルさんが残したメモはまだ持ってますか?」

葛西「ああ、はい……」


メモを取り出す葛西。


宗助「汚い字だなあ」

竹下「ワザと崩して書いてるのかもしれない。筆跡鑑定も難しそうだな」

四条「あのー、ずっと気になっていたんですが、そのお守りは?」

葛西「これですか?旅行に行く前に母がくれたんです。僕は大げさだって言ったんですけど」

竹下「旅行安全のお守りかー。ウチの母親も修学旅行の時に買ってきたな」

葛西「笑っちゃいますよね。僕が子供の頃はこんなものくれたことなんて無かったのに。大学生にもなってくれるようになるなんて……」


少し沈黙。


宗助「……葛西さん。何でなんですか?」


宗助を見る葛西。


宗助「いくらなんでも頼まれたからってなんで友達を手に掛けるようなことを……」

葛西「……そうすることが、正しいように思えたんです。少なくともその時は」

煙山「正しい殺人なんてありませんよ。いつ、どんな状況でもね」

葛西「……本当に、ノボルは彼らを殺したんでしょうか?」

四条「あなたはどう思うんです?」

葛西「僕にはノボルが人を殺すなんて思えないんです。でも、それなら僕は何の罪もないノボルを殺したことになってしまう」

四条「……罪があれば殺しても良かったということでしょうか?」

葛西「いえ、そうじゃありません。そうじゃありませんが……」


喋っている内に気分が悪くなる葛西。


宗助「大丈夫ですか? 顔色が悪いですよ」

葛西「すいません、ちょっと疲れてるみたいで……少し休ませてもらえませんか」

四条「宗助くん、奥の私のベッドを使ってもらおう」

宗助「分かりました。葛西さん。こちらです」

葛西「すいません、お言葉に甘えさせていただきます」


ハケて行く葛西と宗助。


竹下「……よく分からないな」

煙山「何がだ?」

竹下「葛西さんが、一体この事件をどうしようとしているのか、ってことだよ。罪を犯した親友を手にかけたと言う一方で、その親友の無罪を信じるかのような事を言う。彼は何を求めているんだ?」

煙山「……彼自身も、自分の求める解答が分かってないんじゃないかな。或いは全て分かっていて、分からないフリをしているのか……」

竹下「分からないフリねえ。とてもそんな風には見えなかったけど」

煙山「ふむ……四条はどう思う?この事件」

四条「……もう少し情報が欲しいところだね。事件の資料には目を通したんだろう? すまないが、かいつまんで教えてくれないか?」

煙山「分かった」


タブレットを取り出す煙山。


煙山「現場は蓼科にある貸し別荘のリビング。最寄り駅は茅野駅だが、車で7分ほど離れたところにある。さっきの話の通りだな。他の別荘とも少し距離が離れていているし、簡単に身を隠せる横道もあるせいで事件当時の目撃者は見つかってない。被害者の氏名は日吉達弘、藤沢亮平、菊名順。3人ともリビングで殺されていた。争った形跡はない。全員、遺体からは大量のアルコールが検出されている。恐らく、寝込みを襲われたんだろう。風を入れるために窓も開けた状態だったらしい。死亡推定時刻は午前2時から3時までの間。第一発見者はベッドリネンを交換にきた業者の職員みたいだ」

四条「死因は?」

煙山「失血性のショック死。3人とも鋭利な刃物で何度も刺されてる。凶器は別荘の備品のナイフだ。これは現場で発見されている。指紋は残ってなかった」

四条「竹下さん、遺体の状況について、何か気になるところはありませんか?」

竹下「そうだなー。やっぱり刺し傷の多さだね。一人につき60箇所以上刺されてる。完全にオーバーキルだよ。死んだのを分かっててなお刺し続けてる状況だろうから」

四条「オーバーキル、ですか……。例のコンビニへのお使いの件は?」

煙山「ええと……ああ、裏がとれているみたいだぞ。深夜にコンビニで買い物をしたのは間違いない。正確な来店時刻は午前2時23分だな。店員の証言もとれてるし、防犯カメラにも映っていたらしい」

竹下「それがアリバイといえるかってところは微妙だな」

煙山「まあ、ヒッチハイクとかで車に乗りさえすれば間に合うからな……」

四条「なるほどなるほど……そうですかそうですか」


つぶやきながら突如ウィンドミルを始める四条。


煙山「お、来たぞ来たぞ……」

竹下「俺、生で見るの結構久々かもしれん」


やがて動きは激しくなり、キメでブリッジ(理想です)。


四条「架かったーーーーーー!!」

煙山「でたーーー真・四条大橋!! 天気のいい日は水面に逆さ大橋が見れます!」

竹下「何言ってんの?」

四条「……全ての情報に橋がかかりました。事件はすでに明快です」


慌ててやってくる宗助。


宗助「うわー、マジか! 見逃した―! ちょっと先生、橋架けるなら架けるって言ってくださいよ!」

四条「そういうアレじゃないから。予告とかできないやつだから」

煙山「いいから早く教えてくれよ。やっぱりノボルが犯人なのか?」

四条「全てこれから説明するよ。その前にやってほしいことが2つある」

煙山「なんだ?」


耳打ちをする四条。


煙山「なるほど。分かった。ちょっと連絡してくるよ」


ハケて行く煙山。


宗助「先生、煙山さんがいない内にペロっと教えてくれません?」

竹下「四条さん、ペロっと。ちょいペロで」

四条「ダメです。少なくとも葛西さんの体調が戻るまではね」

宗助・竹下「えー」

四条「この事件の裏には、彼の心にかかった霧が大きく関わっています。いや、彼自身が霧と言ってもいいのかもしれない……」

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