問題編・第5話

●貸し別荘 リビング(回想)

酒を飲んでいる日吉達。かなり酔っている。

葛西は散乱したゴミなどを片付けている。


藤沢「全然話がちげーじゃねーかよ!」

菊名「そうだそうだ! 何が一夏の? 的な? だよ!」

日吉「それ言ったの俺じゃねーよ! こいつだろ」


藤沢を指さす。


藤沢「うるせえ! 女子一杯いるって言ったらそうだと思うだろ。誰もひっかかんねえじゃねーか!」

菊名「そもそも言い出しっぺも日吉だしな!」

日吉「知らねえよ! 俺のせいにすんなよ! こいつのせいだろ!」


葛西を指さす。


葛西「えっ……」

日吉「こんなやつが後ろにくっついてたら誰もついてこねーよ!」

藤沢「確かに!」


爆笑する3人。うつむく葛西。


日吉「おい、葛西。謝れよ」

葛西「……ごめん」

日吉「なに楽してんだよ。土下座だよ」

藤沢「そうだお前、土下座しろ! 土下座!」

菊名「ド・ゲ・ザ! ド・ゲ・ザ!」


菊名のドゲザコールに他の2人ものる。膝をつき、土下座する葛西。


葛西「……ごめんなさい」


爆笑する3人。


日吉「やっぱお前、土下座に定評あるわー。鉄板だわ」

藤沢「な、マジであの中学んときとかヤバかったもんな」

菊名「万引き親子ダブル土下座な」

日吉「あれ超えることはもう無いだろうな。メッチャ上手くハマってたもん」

藤沢「無理やり万引きさせて全部こいつのせいにしたもんな」

日吉「菊名の名演技ね。マジウケたあれ!」

菊名「いや、俺もあんな上手く行くと思わなかったもん。マジで伝説。レジェンドだよあの土下座。土下座レジェンド」


再び笑う3人。酒が無いことに気づく日吉。


日吉「あれ? 葛西、ビール」

葛西「……もう無いよ。全部飲んじゃったから」

日吉「あ、そう。じゃあ買ってこいよ。駅前にコンビニあったろ」

葛西「え、でも……僕車運転できないし」

藤沢「あ? 歩いていけばいいじゃん」

葛西「……うん、分かった」


葛西『駅前まで車で行けば往復15分程度ですが、徒歩だと1時間半はかかる距離です。でも彼らに逆らうことはできません。僕は一人、歩いてコンビニに向かいました。両手に持てるだけのお酒を買って、別荘に着いたのは多分、出発してから2時間は経過していたんじゃないかと思います』


●貸し別荘 玄関 (回想)

両手に酒の入った袋を持って帰ってきた葛西。

何か様子がおかしいことに気づく。


葛西『帰ってきてすぐ、部屋が静かなことには気づきました。恐らく皆寝てしまったのだろうと、最初は思いました。その直後、玄関にメモが落ちているのに気づきました。それを読んだ瞬間、イヤな予感がしたのを覚えています』


メモを拾う葛西。

『全部俺のせいだ。ノボル』と左手で書いたような汚い字で書いてある。

メモをポケットにいれて部屋へ向かう葛西。


●貸し別荘 リビング (回想)

部屋には3人が倒れている。近づく葛西。

すぐに死んでいる事に気づき、後退りする。


葛西『3人はすでに死んでいました。全身血まみれで、死んでいるのはすぐに分かりました。僕は恐ろしさのあまり、荷物を持って別荘を飛び出したんです』


バッグを持って部屋を飛び出す葛西。


葛西『それからどこをどうやって歩いたのかはよく覚えていません。最寄りの茅野駅に着いた頃には、すっかり夜は明けていました。そのまま始発で東京へ戻って部屋の前にたどり着くと、そこにノボルがいました』



●葛西の部屋 (回想)

部屋の中は2人は立っている。日差しが濃い影を作り、斉川の表情はよく見えない。


葛西「ノボル……」

斉川「ユウジ、覚えてるか?初めて俺とお前が会った日のこと」

葛西「……うん」

斉川「お前はあの時死のうとしてて、俺はそれを助けた」

葛西「……そうだね」

斉川「それが間違いやったんかもしれへん。俺はあの時お前を黙って死なせるべきやったんかもな」

葛西「なんで今さらそんなこというの?」

斉川「分かるやろ? その結果がこれやないか」

葛西「後悔してるの? 僕を助けたこと」

斉川「後悔なんてないよ。後悔なんてない。ただ……一つだけ頼みがある」

葛西「何?」

斉川「……ユウジ、俺を殺してくれ」

葛西「何を言ってるの?」

斉川「俺を殺せ。ユウジ」

葛西「そんな、なんで僕がノボルを……」

斉川「俺はお前に殺して欲しいねん。頼む。あの時の借りを……お前と初めて会った時の借りを返してくれ」

葛西「……」

斉川「俺、お前のことずっと嫌いやった。黙ってたらずーっと暗い話しかせえへんし、いっこも面白い事言わんし、不細工やし! もうウンザリや。そうや、土下座してもらおうかな。俺にも。あ、それオモロイかもな」

葛西「なんでっ! なんでそんなことを言うんだよ!」


斉川の首に手をかける葛西。斉川、少し苦しそうにもがいて、


斉川「なあ……ユウジ」

葛西「なんだい?」

斉川「……俺達、ええ友達やったやろ?」


返事をする代わりに力を込める葛西。やがて斉川は事切れる。

葛西は斉川を床に寝かせると、不確かな足取りでバッグを持って部屋を出て行く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る