問題編・第3話

●四条探偵事務所

皆が葛西の話を真剣に聞いている様子の中、四条はブリッジをしている。

煙山が四条を二度見して、


煙山「でたー四条大橋!」

葛西「ちょっと! ちゃんと話聞いてくださいよ」

宗助「すいません、これは先生の考える時の癖なんです」

葛西「ええー変なの!」

四条「葛西さん、確かに煙山君の顔は変ですが、それはちょっと酷い」

煙山「変なのはお前だよ!」


固まる空気。


煙山「竹下! お前変だよ!」

竹下「おーそうです!私が変なおじさんです(志村さんの完コピ)」

煙山「そんなことより、四条」

宗助「今のを『そんなこと』で済ませるんですか!?」

煙山「よくあることだ。それで、これまでの話で何か気になることがあったのか?」

四条「まあね……」

煙山「何だよ! 勿体つけないで言えよ! お前の悪い癖だぞ!」

四条「いや……まだ何の根拠もない、ただの予感のようなものだからね」


その時、竹下が何かを思い出そうと唸りだす。


竹下「うーーーん……」

宗助「どうしました竹下さん? 誰かが古い冷蔵庫持ってきたのかと思いましたよ」

竹下「いや、葛西さんの話に出てきた日吉、藤沢、菊名って名前、ごく最近聞いたような気がするんだけど、思い出せなくて。煙山、お前はどうだ?」

煙山「うーーん……日吉、藤沢、菊名、日吉、藤沢、菊名……あっ、あれじゃないか。長野の、貸し別荘の」

竹下「あーーそうだ! 長野の! あーそうだ。そうだ絶対。絶対そうだ」

宗助「何ですか?」

煙山「俺達、ここへ来る前に、長野で起きた殺人事件の資料に目を通してたんだよ。その事件の被害者の名前が……日吉、藤沢、菊名。確かそうだったはずだ」

竹下「ちょっと署に連絡して、資料を送ってもらうよ」

煙山「すまん、頼む」


竹下、部屋を出て行く。


煙山「ちなみにまだこれはマスコミにも公表していない。疑ってたわけじゃないが、どうやらあなたの話を本腰入れて聞く必要がありそうですよ」

宗助「葛西さん、良ければ続きを聞かせて下さい」

葛西「……どこまでお話しましたか?」

宗助「高校に入って、その、ノボルさんとは合う機会が無くなったっていうところです」

葛西「ああ、そうでしたね。……その後、僕は高校を卒業して大学に進学しました。そこで僕は2つの再会を果たしたんです。一つは僕が最も会いたくない人たちと。もう一つは、僕が最も会いたかった人と……」



●駅前 (回想)


葛西『高校を卒業して、大学に進学した僕は、アルバイトをしながら一人暮らしをはじめました。入学して一年は穏やかな日々続いたのですが、やがて、僕は最も会いたくない人たちと再会してしまったんです』


葛西が改札を出て、歩いていると呼び止められる。


日吉「葛西!!」


葛西が振り向くと、日吉、藤沢、菊名がいる。


日吉「うわ、やっぱ葛西じゃん!」

藤沢「ホントだ!ウケる!」

菊名「なつかし~!」


葛西を取り囲む3人。


日吉「葛西、時間あるだろ?」

葛西「え……」

日吉「つきあえよ」

葛西「……うん」


葛西『彼らは同じ高校を卒業したあと、別々の大学に通いながらも相変わらず3人でつるんでいるようでした。更に悪いことに、彼らは退屈していました。そんな時に現れた僕のことはさぞ楽しいオモチャに見えたことでしょう』



●帰路(回想)

とぼとぼと家路についている葛西。


葛西『それから連日、彼らに「遊び」という名目のもとに連れ回され、そのための費用もほとんど僕が出すことになりました。僕は次第に、中学生の頃のように追い詰められていきました。そんな時、最も会いたかった人と再会することができたんです』


葛西の後ろから斉川がやってくる。


斉川「ユウジ?」


立ち止まり、ゆっくり振り返る葛西。


斉川「やっぱりそうや、おいお前久しぶりやなあ」

葛西「ノボル……!」

斉川「お前なにしとんねんこんなところで」

葛西「なにしてるって、今この近くに住んでるんだよ!」

斉川「へえー、そうなんや。俺もこの近くなんやけど」

葛西「そうなの!?」

斉川「よし、お前んち行こうや」

葛西「えっ?」

斉川「久しぶりに会うたんやから、ええやろ。この後なんかあるんか?」

葛西「ないけど……」

斉川「よし!決まりやな」


一緒に歩いていく2人。


●葛西の部屋 (回想)

談笑している葛西と斉川。


葛西『再会を機に、僕らは再び毎日のように会うようになりました。日吉達に連れ回されても、そのことをノボルに話すと自分の事のように怒る一方で、最後には明るく笑い飛ばしてくれました。僕の心の均衡はノボルのお陰で保たれているといっても過言ではなかったのです。でもそんな危うい均衡が崩れてしまうのは時間の問題でした』



●カフェ (回想)

カフェで葛西と日吉達3人がお茶をしている。


葛西「蓼科?」

日吉「ああ、蓼科で貸し別荘借りて遊びに行くんだよ。夏休みに女子だけで遊びに来る子も結構いるらしくてさ」

藤沢「そんな子たちに声かけて? ひと夏の、的な?」

菊名「うわー、超楽しそうじゃん」

葛西「……僕も行くの?」

日吉「当たり前だろ。誰が金出すと思ってんだよ。まあ1泊3万くらいだから、30万くらいあれば一週間遊べるだろ」

葛西「そんなお金ないよ……」

藤沢「葛西、この世の中にはそういう人のためのシステムがあるの。(ドラえもん風に)クレジットカード!」

菊名「よし!そうと決まったら、早速予約だな」


電話をかけ始める菊名。葛西は俯いている。

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