問題編・第2話

●教室 (回想)

ある日、教室にいくと葛西の席に花瓶が置かれている。

ニヤニヤとそれを眺めている3人。


別の日、葛西が机の中からノートを取り出すと、ボロボロで暴言が書かれている。

それを見て声をあげずに爆笑する日吉達。ノートを持って日吉たちの所へ行く葛西。


葛西「もう……こういうの、やめてくれへん?」

日吉「は? 外国語でしゃべられても分かんないんだけど」

藤沢「そうだよ。日本語使え」

葛西「もう、やめて……くれませんか」


吹き出す3人。


菊名「ヤバイ、葛西が標準語喋ってるの超ウケる!」

藤沢「(途中までモノマネ)もう、やめて……くれまへんか~」

日吉「関西弁なっとるやないか~い! もうええわ!」


爆笑する3人。俯く葛西。

また別の日。葛西、弁当を食べていると日吉らがやってくる。


日吉「葛西。マズそうな弁当食ってんな。ふりかけかけてやるよ」

葛西「(標準語にしている)いいよ……。いらないよ」

日吉「遠慮すんなよ。ほら……」


握っていた拳から弁当へ砂をかける日吉。


藤沢「おい、日吉、おまえ間違えて砂かけてるよ!」

日吉「うわ! やっべえ、間違えちゃった!」


爆笑する3人。俯いている葛西。


葛西『そうして、僕は徐々に追い詰められていきました。学校には誰一人信用できる人間はおらず、家に帰っても一人きり。ある日、気がつくと僕は誰もいない踏切のそばに立っていました』



●踏切 (回想)

フラフラと歩いている葛西。踏切の警報機の音が鳴る。

遮断機を乗り越えようとしたところで、声をかけられる。


斉川「待て!!」


思わず体を硬直させる葛西。振り向くと斉川が立っている。


斉川「なにしとんねんアホかお前! 死ぬ気か!」


電車が通り過ぎる。腰が抜けたようにへたり込む葛西。


斉川「なんやお前。アホみたいな顔して」

葛西「君は?」

斉川「俺か? ……俺はノボルや。斉川昇」


葛西『それが、ノボル。僕の、たったひとりの友達になる人間との出会いでした』


斉川「お前は?」

葛西「僕はユウジ」

斉川「ユウジか。おいユウジお前こんなとこで何するつもりやったんや」

葛西「いや、別に……」

斉川「電車くるいうてんのに、遮断機乗り越えかけて『いや、別に』なんかあるか! お前死ぬつもりやったやろ!」

葛西「……うっうう」


静かに泣く葛西。うろたえる斉川。


斉川「おいおいおい、泣くなや。俺が泣かせたみたいになるやんか」


葛西『それから僕は、ノボルに今までのことを全部話しました。関西からこっちに引っ越してきて間もないこと、自分が虐められていることや、あの3人のことや、母さんのことまで。ノボルはそれをずっと黙って聞いてくれていました』


斉川「そうか……大変やったんやな」

葛西「……うん」

斉川「よし分かった。俺が友達になったる」

葛西「え?」

斉川「お前友達おれへんのやろ。せやから俺がなる言うてんねん」

葛西「ホントに?」

斉川「ああ。安心せえ。俺はお前に万引きなんかさせへんよ」

葛西「……うん。ありがとう」


握手を交わす2人。


●葛西の家 (回想)


葛西『それから、僕とノボルは学校が終わった後、毎日のように遊ふようになりました。ノボルと僕は学校が違ったので、放課後、僕の家にノボルが遊びにくるのがいつものパターンでした』


談笑している葛西と斉川。2人の前には飲み物がある。


葛西「今日はさ、遠足の時撮った写真張り出す日だったんだけど、帰りに見たら、僕のところだけすごい画鋲で刺された後だったよ。ブツブツだよ。(みたいないじめエピソードを日替わりで)」

斉川「なんそれ、めっちゃ腹立つな!!(みたいに一回怒る)ん?でもよくよく考えてみたらええやん。みんなにマーキングされて大人気やんか(みたいに最終的にポジティブなこじつけをする)」

葛西「そうかなあ。ものは言い様だなあ」


葛西『ノボルにいじめのことを話すと、ちゃんと聞いてくれた後で、そんなに大したことじゃないと言ってくれるのです。ノボルにそう言われると不思議と気持ちが軽くなりました』


斉川「あ、もうこんな時間か。そろそろ俺帰るわ」

葛西「うん」


その時、真里が帰ってくる。


真里「ただいま」

葛西「おかえり。……今日は少し早いね」

真里「なんやテレビの取材のせいか知らんけど、閉店時間の前に全部売り切れてもうてね、それで店長ももう閉めましょういうて……」

葛西「母さん」

真里「ん?何?」

葛西「紹介するよ。友達の斉川昇くん」

斉川「こんばんは、斉川といいます」


斉川の方を見てきょとんとしている真里。


葛西「母さん?」

真里「……ごめん、母さん店に忘れ物したから取ってくる」


目をふせて、そそくさと再び出かける真里。呆然として見送る葛西と斉川。


斉川「(自分の服装を見て)俺、こんな感じやし、嫌われてもしゃあないよな」

葛西「そんな……ちゃんと話せば分かってくれるよ」

斉川「俺は別にええよ。お前が分かっててくれれば」

葛西「……うん」


葛西『それからもいじめは続きましたが、ノボルのお陰で僕は二度と自殺を考えるようなことはありませんでした。全寮制の高校に入ってからは人間関係も変わっていじめもなくなり、友達とは言えないまでも、話せる人も何人かできました。ノボルとは高校が離れてしまって、会うこともなくなってしまったのですが……』

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