問題編・第1話
●四条探偵事務所
煙山「葛西さん。アナタの話が本当なら、我々は警察の人間として、見過ごすわけにはいきません」
葛西「はい。元々、気持ちの整理がついたら警察に出頭するつもりでしたから」
煙山「そうですか……ならばいいのですが」
葛西へお茶を持ってくる宗助。
四条「葛西さん。貴方は今、少なからず混乱されているようですね。時間はあります。ゆっくり、最初からお話を聞かせていただけませんか?」
葛西「……分かりました。だったら……そうですね。ノボルと出会った頃の話からさせて下さい」
宗助「ノボル、というのは……貴方が殺したっていう、その……」
葛西「ええ。僕の、たった一人の友達のことです」
●学校(回想)
葛西『ノボルと出会ったのは、僕が中学生の時です。母親の仕事の都合で関西からこちらへ引っ越してきた僕は、言葉遣いの違いもあってなかなか学校に馴染めずにいました』
転校生として自己紹介する葛西。教室には日吉、藤沢、菊名の姿もある。
先生「今日からこのクラスの一員になる、葛西くんです」
葛西「はじめまして、葛西裕司といいます。兵庫県から引っ越してきました。特技とかは別にないですが、よろしくお願いします」
関西弁のイントネーションに失笑が起こる。
日吉「(葛西のイヤな感じでマネしながら)よろしくお願いします~」
日吉のモノマネで爆笑する藤沢。冷ややかな表情の菊名。
先生「日吉、藤沢、よさないか」
笑いをこらえて姿勢を正す日吉と藤沢。
先生「葛西の席は、そこだ。日吉の隣だな」
葛西「はい」
日吉の隣を指定され、不安な表情で隣に座る葛西。
その動作を見て顔を見合わせ笑い合う日吉と藤沢。
●学校 放課後(回想)
帰り支度をしている葛西を呼び止める日吉と藤沢。
菊名の姿はもう見えない。
日吉「なあ、隣の席になったし、これからよろしくな」
葛西「ああ、うん。よろしく」
日吉「俺は日吉達弘」
藤沢「俺、藤沢亮平」
葛西「よろしく」
日吉「なあ、葛西、この後時間ある?」
葛西「うん、別に大丈夫やけど……」
日吉「じゃあちょっと付き合えよ」
葛西「うん……」
●本屋 (回想)
漫画の万引きを強要する日吉と藤沢。
日吉「ほら、今いけるって!やれよ」
葛西「……でも」
藤沢「大丈夫だって、俺らが見張っててやるから!」
日吉「早く!」
葛西「……」
バッグに漫画を入れる葛西。
日吉「よし、店出たらダッシュな」
店を出る一同。ダッシュ。
●町中 (回想)
走った後、息を整えている葛西たち。
日吉「大成功だなおい」
藤沢「あー面白かった」
葛西「ねえ、これ……」
盗んできた漫画を差し出す葛西。
日吉「そんなのいらねーよ」
葛西「え、でも、取れって」
藤沢「取りやすかったからに決まってんじゃん」
日吉「お前にやるよ。要らなきゃ捨てていいよ」
迷った末、カバンに入れる葛西。
日吉「今日は面白かったわ。またな」
藤沢「今度はもっと一杯取れよ」
去っていく日吉と藤沢。
●葛西の家 (回想)
新品の漫画を見て、どうしたらいいのか悩む葛西。
真里「ただいま~」
慌ててカバンに漫画をしまう葛西。
葛西「おかえり」
真里「ご飯は? 食べた? 冷蔵庫にチャーハンあったやろ」
葛西「うん」
真里「学校はどうだった? ちゃんと挨拶したの?」
葛西「……うん」
真里「そう。それやったらもう寝なさい。明日も学校なんやから。母さん、明日の準備とか色々あるし……」
葛西「……はい」
葛西『ウチには僕が物心着いた時から父親はいなくて、母は女手一人で僕を育ててくれました。母の仕事が終わるのは大抵夜も遅かったし、仕事終わりはとても疲れている様子で、僕のことを相談できるような状況ではありませんでした。盗んだ本を何処かに置いておくのが怖くて、僕はいつも持ち歩いていました。……やがて、盗んだ本でカバンは膨らみましたが、母も先生も、それに気づくことはありませんでした』
●帰りの通学路(回想)
一人、とぼとぼと帰っている葛西。後ろから菊名がやってきてぶつかる。
カバンから盗んだ本が散らばる。慌ててかき集める葛西。
謝りながら本を拾う菊名。
菊名「あ、葛西か。ごめん! 大丈夫か?」
葛西「うん……」
菊名「俺分かる? お前の斜め後ろの菊名だけど。分かる? 菊名順」
葛西「え? あ、うん……」
菊名「お前、これ、こんなに買ったの?」
葛西「いや……あの……」
本を奪い取って逃げる葛西。
菊名「おい!葛西!」
追いかける菊名。やがて追いつかれる葛西。
菊名「なんで逃げるんだよ」
葛西「……」
菊名「その本、パクったんだろ」
葛西「(顔を上げる)」
菊名「日吉たちに言われたのか?そうなんだろ?」
それでも、黙っている葛西。
菊名「……謝りに行こう。俺が一緒に謝ってやるから」
葛西「……うう……うっ」
泣く葛西。肩に手を置く菊名。
葛西『彼の申し出に、気がついたら僕は泣いていました。これまでの経緯を全て話し、彼の勧めもあって僕は本屋に謝りに行くことにしたのです。本屋へ行くと、店主は不機嫌そうに裏の事務所へ僕と菊名くんを連れて行きました』
●本屋 事務所(回想)
日吉と藤沢が座って部屋にいる。そこへ、店主と葛西たちがやってくる。
葛西「えっ……」
店主「君たちが言ってたのはこの子か」
日吉「そうです」
葛西「ど、どういうこと?」
藤沢「この人に盗めって言われて……無理やりやらされました」
葛西「……」
驚いて声が出ない葛西。
店主「とりあえず保護者に連絡するから連絡先を教えなさい」
葛西「あの、違います……僕は」
すがるような目で菊名を見る葛西。ニヤリと笑う菊名。
菊名「僕も見ました。この人がこいつらに盗めって言ってるところ。関西弁でまくし立てて、逆らえない感じで」
静かなパニックに陥る葛西。
店主「君、これでも言い逃れするのか?」
葛西『その後知ったのですが、これは最初から仕組まれていたことでした。日吉、藤沢、菊名の三人はいつもつるんでいるらしく、退屈していたところにやってきた「転校生」というオモチャを使った遊びだったのです。結局、僕の母の仕事先に連絡が行き、話を聞いた母は大慌てでやってきました』
ニヤニヤしている日吉達。
バタバタと入ってくるなり、皆に頭を下げる真里。
真里「本当に申し訳ありません!!」
葛西「母さん、違うんやって……」
問答無用で葛西の頬を叩く真里。びっくりする葛西。
真里「あんたがそんな事する子やなんて思わんかった! 皆さんに謝りなさい!」
土下座する真里。葛西を抑えつけて謝らせる。
真里「申し訳ありません! お願いします……どうか、警察沙汰には……」
葛西『なんとか警察への通報は免れましたが、本当に大変だったのはそれからでした。3人による僕への執拗ないじめが始まったのです』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます