プロローグ
■雑踏
お守りのついたリュックを抱えるように持って雑踏を歩く葛西。
目的地もなく、酷く疲れている様子で歩き続けている。
葛西『すれ違う人の顔もよく見えない。霧の深い夜だった。誰でも良かった。僕はただ、誰かに話したかった。話しておきたかったんだ。僕の、大切な友達の話を』
■四条探偵事務所
窓の外を何を見るでもなく眺めている四条。宗助がやってくる。
宗助「先生、そろそろ事務所閉めてしまっても構いませんか?」
腕時計を見る四条。
四条「……もう少し、いいかな? 今日は誰かが訪ねて来そうな気がするんだ。宗助くんはもうあがって構わないよ」
宗助「いえ、帰っても別に何をするわけでもないですから。先生の気の済むまで居ます」
四条「そうかい? ありがとう」
ノックの音。
宗助「ホントに来た! 凄いですね先生!」
四条「いや、このノックは多分……」
煙山と竹下が入ってくる。
煙山「よお、相変わらず暇そうだな」
竹下「どうも!」
宗助「なんだ、煙山と竹下さんかあ」
煙山「なんだとはなんだ。あと俺だけ呼び捨てやめろ。折角お土産も持ってきたのに」
片手に持ったワインを見せる煙山。受け取って確かめる四条。
四条「なるほど、これは良いワインだ……。それにしてもお土産とは、随分殊勝じゃないか。頭でも打ったのかい?」
煙山「失礼な奴しかいないな! そういうこと言う奴にはワインあげない!」
四条「宗助くん、その馬面をつまみ出してくれ」
宗助「イエッサー」
四条「竹下さんはどうぞこちらへ」
竹下「どうも!」
煙山「分かった! あげるから入れて!」
四条「最初から素直にしてればいいんだよ」
煙山「ずっと俺は素直だよ! ひねくれてるのはお前だろ。まあでも、折角のいいワインの前に言い争いするのも無粋だな。早く飲もうぜ」
四条「……そうだね」
宗助「先生、じゃあもう今日は……」
四条「ああ。もう閉めよう」
宗助「はい!」
煙山「竹下と俺で、グラス持ってくるよ。宗助くんも飲むだろ?」
宗助「頂きます!」
煙山は事務所の奥へ行き、玄関に向かう宗助。そこへノックの音。
宗助「……先生」
四条「どうやら、ワインはお預けのようだね」
ドアを開けて、招き入れる宗助。葛西が入ってくる。
葛西「すいません、こんな遅い時間に……」
よろける葛西。すかさず支える宗助。
宗助「大丈夫ですか?」
葛西「ええ、大丈夫です。すいません、少し疲れていて」
四条「ようこそ、四条探偵事務所へ。私が探偵の四条司です(手で4を示すポーズ)」
宗助「助手の田村宗助です(何かにソースをかけるポーズ)」
葛西「葛西といいます。はじめまして……」
四条「どうぞ、こちらにお掛けください」
葛西を椅子へ誘導し、向かいへ座る四条と宗助。疲れた様子で節目がちな葛西。
煙山「なあ、グラスバラバラでもいいよな?」
竹下と煙山がグラスを持ってやってくる。顔をあげた葛西と目が合う煙山。
煙山「……グラスもうひとつ持ってくる」
四条「すまない煙山くん、ワインはお預けだ」
煙山「で~す~よ~ね~」
葛西「あの……」
四条「ああ、失礼しました。彼らは私の友人です」
煙山「どうも。煙山といいます。こいつとは古い友人で、俺は警視庁で刑事をしています」
竹下「竹下です。警察で鑑識の仕事をしてます」
葛西「警察の方……。はじめまして、葛西裕司です」
煙山「葛西さん、すいません邪魔をしちゃって。じゃあ、俺帰るよ。話聞いちゃうと色々マズイだろ。なんつったっけ?キュビズム?」
四条「守秘義務ね。ピカソの絵画技法じゃないよ。頭の良いボケをしないでくれないか。キャラがブレるよ」
煙山「そうそう俺は頭が弱い感じじゃないとな……ってオーイ!」
四条「宗助くん、竹下さん、この馬面をつまみ出せ」
竹下・宗助「イエッサー!」
煙山「もういいんだよそれは。つままなくても帰るって。ワインは置いとくから、勝手に飲むなよ。皆で飲むんだから。絶対にだぞ」
宗助「と、いうことは逆に?」
煙山「飲むな!」
四条「からの?」
煙山「フリじゃないんだよ! ホントに結構高いやつなんだから! 公務員の俺が泣けなしの金で買ったんだから!」
四条「はいはい。分かってるよ。冗談だよ」
煙山「ならいいけどさ。じゃあ竹下、帰るか」
出て行こうとする煙山と竹下。
葛西「あの!」
立ち止まって振り返る煙山。
葛西「もしご迷惑じゃなかったら、煙山さんと竹下さんも一緒に僕の話を聞いて頂けないでしょうか?」
煙山「えっ? それは……四条、いいのか?」
四条「依頼人の希望なら、私からは何も言うことはないよ。あとは君の都合だね」
煙山「まあ、ワイン呑もうとしてたくらいだし、俺たちは大丈夫だけど。なあ竹下」
竹下「まあね」
葛西「ありがとうございます」
四条「では、葛西さん。改めて、お話を伺っても宜しいですか?」
葛西「あの……このチラシを見て来たんですけど『謎、取リ扱イ〼』って、これ、本当なんでしょうか?」
四条探偵事務所のチラシを取り出して見せる葛西。
四条「ええ、もちろんです」
宗助「こう見えて先生は警察に協力して数々の難事件を解決してるんです」
四条「……こう見えて? それはどう見えてるってこと?」
葛西「変な格好してるってことだと思いますが」
宗助「あのー違います、普通です。普通に見えてってことです」
葛西「変でしょ。どう見ても。柄ヤバイですよその服」
宗助「(かき消すように)あー! あー! あー!」
四条「宗助君、何か不穏な言葉が聞こえた気がするなあ!」
宗助「先生! 大丈夫です! 先生は普通です!!」
葛西「何? どうしたんですか?」
煙山「こいつ変だって言われ慣れてないんですよ。一旦スルーしてあげてください」
葛西「……分かりました」
叫び続けていた宗助が落ち着くと、改めて場を仕切りなおす四条。
四条「それで、葛西さん。そのチラシを見て来たということは、何か『謎』を抱えていらっしゃるということでしょうか?」
俯いていた葛西が四条に顔を向ける。
葛西「実は……僕のたった一人の親友が、殺人を犯してしまったかもしれないんです」
煙山「なッ……」
何か言おうとした煙山を制して、続きを促す四条。
四条「かもしれないとおっしゃいましたね。何故そう思うんです?」
葛西「殺人を犯す瞬間は見ていないんです。でも状況からみて、そうとしか思えなくて……」
煙山「その友達はなんと言ってるんです? 今はどこに?」
葛西「……彼は、何も言いませんでした。もう問いただすこともできない。僕が……彼を殺してしまったから」
葛西の言葉に驚く四条たち四人。
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