第二話 幼児のうちから魔力を上げる――、俺の弟妹が!

 俺は三歳になった。名前はエヴェレット・ブラン。ブラン伯爵家の次男だ。


 現世の家族を紹介する!


「いないいない、ばー!!」


「きゃあー! ああー!」


「あー! あうー!」


 いないいないばーに反応する俺の弟妹がかわいすぎるだろ!


 まずは妹のルナーリアと、弟のローレンスだ。双子の弟妹で、ルナーリアの方が早く生まれてきたお姉ちゃん。もうすぐ一歳になる。


「にいたま! かあいいねー!」


「ふふっ、そうだね。かわいいね」


 優しく微笑むとってもイケメンがオーウェン兄様だ。まだ八歳なのにこの落ち着きようと色気、これは将来女性たちにモテモテだな。


「それじゃあ僕は勉強があるから。ルーとローのことはまかせたよ」


「はい、にいたま!」


 俺が生まれたこの家は、貴族の家で爵位は伯爵だ。その長男である兄様は、五歳になったときから貴族としての勉強を始めている。


 俺も五歳になったら勉強が始まる。それまで二年あるから、今からできることをしていこう。


 剣と魔法のファンタジー世界で幼児がやることと言ったら? そう、魔法の練習だね。


 特に魔力量と魔力操作技術を鍛えるには、地道な訓練が必要だ。幼児のうちから鍛え始めれば、大きくなるころにはかなりのアドバンテージを得られるだろう。


 やり方はもちろん予習済みである。どうやって予習したかって? 上目遣いの幼子のお願いに耐えられるものなどあんまりいないのだ。


「おなかのまりょくをぜんしんにめぐりゃす……! うぐぐっ、うぎぎぎっ! ぷはっ!」


 むずかしい!


 今やっているのは魔力操作の初歩の初歩。魔力の循環だ。体内の魔力を全身に循環させることで、魔法を放つ速度や身体能力が向上する。また、循環を続ける続けることで、そもそもの魔力量の増加も見込める。


 だがこれがなかなか難しい。訓練を始めて一週間、つっかえつっかえではあるけれど、なんとか魔力の循環ができるようになってきた。まあそれも集中力が続く間だけだけどね。


「むじゅかしいねぇ……」


「「ねー!」」


 ルナーリアとローレンスが俺の言葉に反応している。かわいい!


 最近の二人は、誰かのまねっこをするのがお気に入りだ。まだ長い言葉を話せないから、言葉尻をまねっこしたり、動作をまねっこしたり、大変かわいらしい。


「まりょくー!」


「「くー!」」


「ぐるぐるー!」


「「るー!」」


「こちょこちょー!」


「きゃあー! めー!」


「うー! こちょー!」


「あははは!」


 まあ、あまり根を詰めずにゆっくりやっていこう。


「にーに! にーに!」


「ルー、どうしたの?」


 妹のルナーリアが手をばたばたさせながら、何かを訴えかけてきた。


「にー!」


「わっ、ローもどうしたの?」


 弟のローレンスも同じ様に手をばたばたさせている。


「手をちゅなぎたいのかな?」


「くー! くー!」


「るー! るー!」


「わっ! まりょく!」


 ルナーリアの手から僕の手へ、そしてローレンスの手へ魔力が流れていく!


「しゅごい!」


「にーに! くー! くー!」


「るー! るー!」


 そうか! 今までは魔力を無理やり動かそうとしていたけど、呼び水になるように魔力を誘導することが大事なんだ!


 それを自然と理解して実践できるなんて、僕の弟妹は天才だ!


「てんちゃいだー!」


「きゃあー! うー!」


「あうー! だー!」


「しゅごいぞー!」


「きゃー! うーうー!」


「ぞー! ぞー!」


 ルーとローをめちゃくちゃに撫でまわしながら、褒める。育児には褒めることが大切なんだ。


「いっちょにまりょくをぐるぐるしようねー」


「きゃうー! ねー!」


「あうー! ねー!」


 再度二人と手をつないで魔力をぐるぐると循環させる。ルーから俺へ、俺からローへ、そして最後はローからルーへ。


 ぐるぐるぐるぐる魔力を循環させると、体がじんわりぽかぽかして気持ちがいい。きっと魔力の循環が体にいいってことを体は知っているんだろう。


 ぽかぽかしてくると眠くなってくる。俺を挟んでぽてりと横になったルーとローと一緒にこのままお昼寝だ。


「ねみゅいね」


「ねー……、くぅ、くぅ……」


「んぅ……、すぅ、すぅ……」


 もちろん魔力はぐるぐると循環させたまま。二人のつないだ手が俺のお腹の上に乗っかっている。




 この一件以降、俺たちの遊びに魔力循環が加わった。しかもただの魔力循環じゃない。


「うおー!」


「きゃあー! ぐー! ぐー!」


「あうー! るー! るー!」


“超高速&超大量”魔力循環だ。


 はっきり言って俺はもうついて行けない。ルーとローの魔力循環は、例えるなら新幹線だ。しかも100両編成。圧倒的なセンスでもって魔力が体中を駆け巡り、つないだ俺の手へと殺到してくる。


 対して俺の魔力循環は速度順守の原付バイク程度、頑張っても4人乗り。いやこれでもとてつもなくすごいんですよ? ルーとつないだ右手から特急新幹線がやってきて、ローとつないだ左手から出ていく。挟まれた原付バイクはもうへろへろだ。


「ぷはっ、みょうだめだぁ!」


「にーに! ぐー!」


「にーに! るー!」


 たまらず手を放して魔力循環を中断した。幼児ベッドに倒れこんだ俺に、ルーとローはもっと魔力循環したいとねだって来るが、お兄ちゃんはもうだめだよ。


 というかどうして俺を挟むのかね。二人でやりなさい二人で。その方が訓練には効率がいいぞ。


「にーに! いっちょ!」


「にーに! うー!」


 まあここまで言われたらお兄ちゃんとして頑張らないわけにはいかないか。


「うおー! やるじょー!」


「きゃあー! うー!」


「あうー! うー!」

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