第二生 - 4 図書館のご利用は計画的に


 これからどうしたものか。

 父さんよ。話してくれるのはいいが、少し遅い気がする。


 鑑定はもう明日。正午からだから、二十四時間以上時間はある。

 しかし、今からできることに何がある。



 選択肢は大まかに三つくらいか。


 一つ目は、鑑定をそのまま受ける。

 今日の話は特に関係ないこととして、受ける。もし何かあればその時の自分に対応

に任せるしか無くなる。

 父の考えではこのままでは精神にい女王が出ることが予想されているのだろう。ただそれ以上に、僕が考える最悪では、僕は死んでしまうこともあり得る。いちばんマズイパターンが想定されるされるのはこれだから、何とか回避しておきたい。

 神様がこの世界に転生させたのは、無事に暮らせることが保証されているんじゃないか、ともはや神様への八つ当たりもしてしまう。


 二つ目は、鑑定をバックれる。

 鑑定を受けなければ教育を受けることが出来なくなるため、是が非でも僕のことを国は探し出そうとするだろう。見つからなければ、それはそれで誘拐だなんだと大騒ぎになるだろうし、見つかってしまえば、それこそ一つ目の案を続行せざるを得なくなる。

 さらに言えばそれが転生者をザルにかける儀式だとすれば、僕がいなくなることはより疑われる可能性を大きくしてしまう。


 三つ目は、時間の許す限り情報収集をして、その後考えるだ。と言うかもう今はこ

れしかない。他にどうしようもない。その後どうするかは、その時考えよう。



 うん。そうしよう。


 

 今日はとにかく急いでミエルさんのところに行って、情報収集だ。

 どうするか考えられるタイムリミットは、図書館の閉館時間まで。何を調べて、どうしていくか、行き道で考えるしかなかった。


 急いで準備を整えて、図書館へと向かう。

 急ぐ中で、何の資料を探すか、ミエルさんに何を聞くべきか考える。

 体感では何十分も経っているように感じる。実際は数分程度。やはり、子どもの体はすごい。


「いってきます」

 さっさと行かなければ。今ちょうど日が真上に昇っている。

「どこに行くんだ」

 父さんがさっきの話の答えを訊くように話しかけてきた。

「図書館に行ってくるよ」

 安心させようと精いっぱいの笑顔を見せたつもりだが、ぎこちなかったかもしれない。その後は適当にあしらい、足早に立ち去った。

 

 父もその後何も声をかけてこなかった。


 なにか思うところでもあったのだろうか。いや、あったのだろう。



 小走りで図書館へ向かう途中、考え事をしながらでも無尽蔵に足は動く。

 これからどうするか、一つ目か二つ目のどちらかの選択肢を選ばざるを得なくなりそうだが、二つ目の逃げる選択肢を選んだら、きっともう、この街の人会うことは出来なくなるだろう。

 隠れ続けることは出来ないだろうし、ただでさえ迷惑をかけているのに、それ以上の迷惑はさすがに無理だ。

 そもそも、相手にしてくれるか分からない。家族は味方についてくれるだろうが、それでは見つかるのを遅らせるのが関の山だ。


 もう父とも、母とも、近所の子たちとも、クソガキ二人組とも会えなくなるのか。ミエルさんとも会えなくなるだろう。



 ……考えただけで憂鬱になってきた。



 図書館で調べるなら、鑑定についてと鑑定の能力について。

 そして、昨年以前の、変死事件について。あと、この世界の精神医療についても少し知りたいところだ。

 そんな資料あるだろうか。


 もし隠された何かがあるなら、そんな内容隠蔽されるんじゃないだろうか。それこそ変死や鑑定における精神疾患の弊害を隠匿するために、変死として場所や死因を明かして記事にしているか。心を病ませる方法があるならその方法を使うと思うが。

 


 父の話では心を病んだというだけだった。変死と関係があるかはまだ分からない。それでも、心を病むのも避けたい。変死なら尚更だ。


そもそも、父のことを信じて良いのだろうかとう疑問が付きまとう。父の幼少期のころの記憶だろう。父を信じないというわけではないが、そんな昔の記憶を信じるのは少し難しい。


 ただ、それほどまでに、父は何かを確証しているかのようだった。

 父に鑑定での変化でも訊いておけばよかった。実際の人の話の方が参考になるかもしれない。

 ミエルさんにも聞いておこう。



 そんな間に到着だ。閉館日でなくてよかった。

 いつも通り衛兵が大きな門の前に居座っている。なんだか今にも襲いかかってきそうな気がした。


「ミエルさんこんにちは!」

「あら、こんにちは」

 早口に、まくしたてるように挨拶を交わした。

 ミエルさんは昼間でも休まず働いているようだ。他に……人はいない。


「あの。ミエルさんに訊きたいことがあるんだけど」

「なぁに?」

 いつもの本に尋ねるときと表情が違うのが分かったのか、不思議そうに言葉が返された。


「鑑定について聞きたいんだけど……」

「ああ、明日この区画も鑑定だもんね。それで、何について聞きたいの?」


「えっと、鑑定って、心も変わるっていうじゃん。それで……」

「ああ、そんな文献もあるね。たしか、精神自我形成についてみたいな」

 さすがミエルさんだ。何でも知っているんじゃないか?


「そう、それなんだけど……」

「ああ、明日だから心配なんだね。でもそんな詳しいことよく知ってるね」

 関心といった顔でまじまじとこちらを覗き込んでいる。


「お父さんに聞いたんだ。それで、明日のことが少し心配になって」

 父のことをばらしたのはまずいか。ミエルさんは信用できるのか。

 いいや。もう信用するしかない。

 

 疑心暗鬼になりすぎても仕方ない。


「それで、何か訊きたいの? 私もそんなに何か言えるわけじゃないけど」

 しらばっくれているようにも見えない。信頼できそうで安心だ。

 冷や汗が止まらなかった。肝が冷えた。


「ミエルさんの時ってどんな感じだった?」

「んー、そうだねー。まず、鑑定で鑑定士の人にどんな能力があるか教えてもらえるでしょ。それからー、身体がふわふわして、その能力を得たんだなー、みたいな感じになるかな。うん、確かにそんな感じだった」


「ミエルさんってどんな能力だったの?」

純粋に木になったので訊いてみた。

「あんまり人にそんなこと訊いちゃいけないよ。まあいいか。私は、記憶力が良いって能力なんだ」

 しゃがんで、小声で耳の近くまできて聞かせてくれた。驚いて、少しだけ後ずさってしまった。本の埃っぽい日焼けしたにおいと、フローラルな香りが鼻に充満してきた。「人に行っちゃだめだよ。私のも明日鑑定してもらう君のも」と、念入りに注意された。もう一度「人に尋ねるのもタブーだから」と念を押された。

 その話は心半分という感じだった。


「私の能力犯罪に絡みがちみたいだから、特に気を付けてるんだよ」

 また立ち上がって、困ったような顔をした。

 確かに、記憶力が良いってだけでも、犯罪に利用ができる。記憶していただけで隠蔽工作に消されることもあるに違いない。


「じゃあ、あと鑑定についての本も読みたいんだけど。あるかな」

「もっちろん。任せて!」

 本のこととなるとこの人はやけに元気だ。僕もそれが何となくうれしくなり、少しだけ落ち着いて物事を考えられるようになった。


 るんるんと、言っていた資料を数冊渡して、「返却は私のところにね」と、仕事をしに戻って行った。

 こんなに重たい、分厚い資料をよく運べるものだ。僕だけじゃ絶対に持ち上がらない。なんだか情けない気になる。

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