第二生 - 3 家族のことは可能な限りは大切にしたい
毎日図書館に行き、ミエルさんとお話をして、帰って、寝て。
ぼーっとしてみたり、子どもらしく絵を描いてみたり、雲を眺めたり。二人組と取っ組み合いを……と、実に健康的な子どもと言わんばかりに毎日を過ごした。
たまに、近所の子たちと親がどんなことをしているか、とか、こんなことに興味があるみたいな子どもらしからぬ話もした。
そして六歳になった。本当に何もしない、実に優雅な一年だった。
こんなに清々しい気持ちを長い間保てたのはいつ以来か分からない。もしかしたら前世ではそんな時期なかったかもしれない。
そういう意味では、死んでよかったと言えるし、死ぬのも悪くないものなのかもしれない。
六歳になったため、春先に鑑定士が来た際に鑑定を受けに行かなければならない。
鑑定が終わると、六年間の学校生活が待っていて、通学には鑑定が必須であり、修学は子供の義務なため、ここでは鑑定は言わば必須の、通例行事のようなものなのだ。
鑑定を受けると、三種類の学校へ行く選択権が与えられる。
学校と言っても小学校のようなものではなく、ジャンルごとに種類があり、基本的に鑑定の結果で学校がふり分けられることとなる。
この区画からはどの学校も遠いので残念ながら僕は寮生活となってしまう。電車さえあれば通学できなくはない距離なのに……
現世が懐かしくもある。
ミエルさんに会えなくなるのは実に辛い。
きっと学校生活での方が、ミエルさんの知識は役立てることが出来るだろうに……
「今のうち沢山話をしておかないと」という気持ちが誕生日を迎えてから特に強くなった。これが好きと言う気持ちナノカモシレナイ!
心が芽生えたロボットみたいな感覚があった。
さて、三種類の学校だが、基本的に鑑定の結果の能力により振り分けがされる。
魔法を含む戦いにむいた、戦闘系スキルをもつ者がいく「戦術学校」
非戦闘系スキルかつ魔法以外のスキルの者がいく「商業学校」
魔法スキルもしくは物質に作用する技術系スキルをもつ者がいく「技術学校」
に分かれる。
その中にも戦術学校であれば武器や攻撃方法により専攻を決めることができるが、三年間は基本的どの学校も基礎教育を受けさせられる。文字の読み書きや、金勘定、法律など、基本的に暮らして行くのに必要な要素をひたすら詰め込む。
その後の三年間は言わば大学のようなもので、好きなことを研究・訓練する。
自分がしたいことと、スキルが違うと言った場合は編入も可能であるため、自由のない教育をしている訳では無い。
ただ、「教育を受けることは子供として果たすべき義務である」と法律が定められているため、ここにいる限りは、スキルに頼るなり何らかの学習を続けなければならない。
鑑定の前日。珍しく父から二人きりでの話をした。
いつも大抵は両親の二対一での会話ばかりだったので内容をよく覚えている。
「エルンちょっと良いか」
父親のくせに、やけによそよそしく話しかけてくるものだ。関心が無いのか、心配はするが、物心ついてからは会話ですら母もいる時ばかりだった。
別に父が嫌いなわけではないが、そんな風に斜に構えられると、相応の態度を取りたくなる。これが反抗期なのだろうか?
自分のいろんな一面が客観的に知れるのは少し面白い。
「なに?父さん」
この年齢にしては、僕の方も変によそよそしいのかもしれない。
「明日は鑑定をしてもらう日だ。お前の今後の人生が決まると言ってもおかしくはない。」
「うん」
ひとつ返事で答える。
「もし……」
一つ、二つと、言葉を考え直すように間を開けた。
「もし、思うような、欲しいような能力じゃなくても、別に俺たちはお前を捨てたりはしないから安心していいぞ」
なんだか拍子抜けな言葉だった。
「そんなこと分かってるよ」
世の中にはそんな親がいる、と言わしめるような、この世界の常識を教えるような言い方だった。
「あとな、だからな、その……」
再び言葉を、切り詰めるように父さんは考えていた。
「はぁ、はっきり言おう」
僕も緊張して、少し息をのんだ。
「お前は鑑定よりも前。そう、去年あたりからか。物心みたいなものがつき始めていたな」
さっきも言ったが、自我を出し始めたくらいから父との会話も極端に減ったので、そういったところはバレていたのか。
「普通はそういうのがわく、というか抱くのは鑑定を行ってもらった歳からだ。」
本に書いてあったとおりのことだ。すこし、無理な行動をとりすぎただろうか。
「だから、なんだ……。お前に鑑定でどんな変化が起こるのか。少し心配なんだ」
たしかにこの世界では、一般的に精神変化や自我同一性が形成されるのが鑑定によってではある。
「心配って。なにが?」
少しとぼけて見せる。
「鑑定で精神に異常をきたしたやつも実はいたんだ。俺が子どもの時。それ以外に聞いたことは無いが、この目で見たから間違いは無い」
「…………」
ちょっと待て。そんな話は初耳だ。文献にも載っているのをみたことがない……
いいや、少し思い出してみろ。
そうだ。春先の新聞。春は変死者の数が急増していた。一区画につき一人はいた気がする。
「それと、僕が関係するの?」
尋ねるしか無かった。きいておかない訳には行かない。今後に差し支えることもあるだろう。
「その、心を病んでしまったやつは、同い年の従兄弟で俺とも仲が良かったんだが、そいつもお前みたいに、少し大人びていたというか……。既に鑑定を受けたあとみたいな、そんな雰囲気があった」
そんなことがあったのか。
もしかすると、その人も転生者なのか。それなら鑑定は……鑑定した人間を転生者か洗い出す作業なのか。
確かに……。
それならなんとなく辻褄が合わなくもないか。この世界の妙な均衡。転移者との関係。遠からずもこの予想は当たっているのかもしれない。
「……大丈夫だよ。父さんは心配性だなあ。あはは……」
「そうは言うがなあ!」
間髪入れず、父さんが大きな声を出す。少し驚いて、慄いてしまった。
それとほぼ同時に、母さんが大きな声で父さんのことを呼んだ。
「はぁ。まったく。まあ、お前のことだ。ここまで話せば自分がどうすべきか考えられるだろう。まったく」
ぶつくさと不貞腐れながらも、僕のことを考えて言っていくれているのだろう。親子とは本来この程度のものでいいのだ。
子どもの死亡率が少ないにしても現世ほどではないこの世界。子どもへの愛着と未練はなるべく薄くしておかなければ、精神衛生上良くないのだろう。学校に入れば六年は寮生活。その後も別の学区で働くか、より高度な学校に進むかのほぼ二択に迫られる。
家業を継ぐこともできるが、それは僕が思っていたよりも、本当の最終手段のようで、国の政策上、近親婚がないよう、基本的に別の地区へ人を移動させるような仕組みが取られているようだ。そのため子どもと幸せに暮らせる時間は極端に少なくなる。
祖父母のことも、見たことがない。その代わりご近所の結束は固いものだ。
とにかく、父に愛されているということが知れた気がして、僕はなんだか、とても、心の底から嬉しくなった。
【異世界での注意事項】
⑦ 家族はできるだけ大切にしよう
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