第二生 - 2 幼少期のご利用は計画的に


 さあ、今世の目標が決まったところで、鑑定まで一年、することがない。


 そういえば、この世界のスキルと前世たちの能力は重複するのだろうか。どの世界にも能力が重複するなら、異世界無双なんて朝飯前になってしまいそうだ。

 今世のスキルもだが、やっぱり前世のスキルが特に気になる。できれば鑑定士にも見てほしいものだ。


 今できることと言えば、本を読むこと。そして鍛えることだけだ。


 父母の家業は仕入れの時だけ荷物運びを手伝うが、他の営業なんかは危険な薬品や、貴重な食材なんかも取り扱うからと言って、なかなか手伝わせてくれない。いまからコネでもつくれれば儲けものなんだが仕方がない。


 本はいつも図書館に行って読んでいる。この年齢の集中力はすさまじいもので、エナジードリンクなんかなくても、一晩中本を読みふけることができる。

 独り言を気が付かないうちに言っているようで、周りから不気味がられているのは内緒だ。恥ずかしいから。


 図書館はこの近くの何区画かを代表する貴族が運営していて、もともとの趣味が高じて、蔵書数が国立を除くとトップクラスに多いそうだ。

 図書館も貴族と同じ名前にされていて、ダウン貴族領図書館という。ダウンというのは苗字で、珍しく新たな苗字ダウンさんが考えたものだそう。


 図書館利用におけるキーパーソンを紹介しておこう。

 いつも、図書館の司書として働いているミエルというお姉さんだ。眼鏡をいつもかけていて、人間なのに少し尖った耳が特徴的な、優しいお姉さんだ。

 いつも「こんにちは」とあいさつをすれば返してくれるし、困っていれば気さくに話しかけてくれる。


 過去であれば超絶ドストライクだっただろうが、今は優しいお姉さんくらいにしか思えない。悲しい。僕が大人になるまでそのままでいてほしい。


 ミエルさんは図書館司書をしているだけあって、テレキネシスや魔法にも詳しい。   

 僕の知識も半分はこの人に教えてもらった。困ったことがあればぜひ手を差し伸べたい。

 少し生意気だろうか。


 蔵書の中には児童書なんかも含まれているため、言語能力の獲得なんかにもこの図書館は大いに役立ってくれた。


 ただ、これでわかったのは、僕には言語能力に関するスキルは与えられなかったみたいだ。

 転移者たちは、この国の者のテレキネシスを応用して、言語コミュニケーションを可能としているらしい。それができるのも、アルデバランに二人しかいそうだから、かなりの鍛錬がいる能力なのだろう。



 僕は自身が転生者だということを明かしてはいない。バレるまでは公にすることでもないし、いまいちここの異世界人への扱いというのがつかみ切れていないからだ。

 先ほどはうまいこと取り入っているようだ、などと言ったが、異世界人は、どの人間も強力なテレキネシスを持っている。そのせいで不自由を負うことも少なくないだろう。

 探究なんかしようものなら、国家転覆を企んでいるのかと疑われ、打ち首待ったなしだ。どれだけ強力な能力を持とうとも、精神まではコントロールできないし、多勢に無勢では、手も足も出ない。

 だから、少なくともその点がどうにかなるまでは、自身のことを誰かに明かすつもりはない。




 毎日図書館に通っては国に関することを中心に勉強をしてきたが、今日は少しでも目準備ができるようにテレキネシスに関する本でも探しに行こう。そう思い両親不在の家を飛び出した。

 快晴で、運動日和な日だったが、特段したいこともない僕には関係がない。本の虫をずっとしていると父母に心配されそうだけど、まあ、時々は運動もしているし問題ないだろう。

 家から二十分ほど歩いた大通り沿いに図書館がある。家と父母の店は大通りはずれの小路地なので必要品を買いに来る人以外は人通りもそんなにない。でも、ここまで出れば人であふれかえるほど盛況な賑わいぶりだ。貴重かつ、大きな図書館があるおかげで、観光名所のようになり、周りに出店がたくさん並んでいる。


 身の丈の十倍はあるであろう、衛兵の立ち並ぶ大門を通り、図書館へと足を延ばす。この大門でも相当大きいのに、この図書館はその三倍以上の大きさをしている。  

 もはや宮殿だ。


「こんにちは。ミエルさん」

「あら、こんにちは。エルン君」

 素敵だなあ。となごみながら、今日するべきことを思い出す。

「ミエルさん、魔法に関係する本を読みたいんだけど、どこにあるかな」

 間髪入れずにミエルさんは答える。

「ああ、んー、あれは少し難しいけれど……どんな内容のものを探しているの?」

「なんでもいいんだけど、この間教えてくれたことみたいなのがあると良いな」

 そうねぇ……と悩み、じゃああれがいいわね!と決まったように歩き始めた。僕はそれにおとなしくついていく。


 それにしてもさすがミエルさんだ。ミエルさんはこの図書館の蔵書をほとんど読ん

でいるほどの、まさに本マニアで、内容と保管場所も覚えているそうだ。


「えっと、これとこれと、それにこれと、あとこれも……」

 僕に軟十冊読ませる気なのだろうか。本を読むという価値観が少しこの人はずれている。

「ちょっと、さすがに多いよ……」と、つい苦笑いしてしまった。

「ああ!ごめんね。つい夢中になっちゃった。んーと、じゃあこれから読み始めると良いよ!」

 せっかく選んでくれていたのに申し訳ない気分になったが、最初に尋ねたときは日が暮れるほど選んでいただいて、結局本を読むことが叶わなかったので仕方がない。

「ありがとう!また読み終わったら言うから、オススメ教えてね」

「どういたしまして。本は持ち出し禁止だから、読み終わったら私のところに持ってきてね」


 とことこと、椅子のあるほうへ行き本を読みふけった。

 図書館に僕くらいの年齢の子どもがいることは珍しくて、普通は鑑定を終えてから来館する人が増えるようだ。他にはお年寄りと、何かの研究をする人ばかりが集まっている。

 みんなある意味変人ばかりなので、僕の独り言も放っておいてほしい。


 さて、ミエルさんに選んでもらった「基礎魔法研究記」の内容だが、これがなかなか面白いの。

 まず、本の著者が祖王であるアルデバランその人なのだ。君主として名を馳せた覇者なだけある。個人の研究と研鑽が、この人の地位を築き上げたのだろう。

 内容だが、ミエルさんに教えてもらった基礎的なテレキネシスこと魔法についてを基本的に網羅し、さらには能力向上の基礎訓練法なども記されていた。個人の失敗談なども記されているのが実に面白い。

 王であったとしても、その地位に驕らず、努力を怠らない姿勢が目に見えるようだ。

 この人も六歳の鑑定で能力が開花したらしい。やはり、今は魔法はお預けだということなのだろう。

 さらに、それまでで身に付けた技術等が、直結して魔法の使用に活きたというものも少なかったようだ。

 実践において、元の体力づくりや、基礎的な戦略を考える能力といった、肉体と知識は、鍛錬により身に付け、さらに魔法を駆使して活かすようになったとあるので、そこは僕にも欠かせない部分かもしれない。

 そんな感じの内容のことを実体験交じりに、まるで日記でも書くかのように事細かに記してあった。なんなら今朝何を食べたのか、なんていうことが記されている記事もあった。

 

 まあ、なんにしても、魔法やテレキネシスに直結して今できることは何もない。諦めて、今日はおとなしく家に帰るとしよう。


 本を読みふけって、考えをまとめていたせいでもう日が暮れそうだ。

「ミエルさん、これ、ありがとう」

「どういたしまして。内容、どうだった。少し難しかったかしら?」 

「ううん。大丈夫。問題なく読めたよ」

 ミエルさんに本を返し、そそくさと身支度を済ませる。

「まあ明日も魔法についての本読みに来るから、他にお勧めの本があったら教えてね。それじゃあ、さようなら」

「選りすぐりを準備しておくわ。さようなら」


 手を振りながら足早に図書館を出る。自宅周辺は未だ治安がいいのだが、大通りの近隣は、昼間の賑わいとは打って変わって、犯罪も少なくない。早く帰らなければ、両親にも心配をかけてしまう。




 今年に入って僕は身体の鍛錬も始めた。ただ、筋トレや走り込みを除いて実践的に行っているのは剣士ごっこだけ。言ってしまえばお子様チャンバラ。

 近所の子どもと木の棒を振り回して遊んでいるだけだ。


 でも、なぜか惨敗続きなんだよな。


 基本的に隣の家のがきんちょ二人組パリスとギールが相手なのだが、

「くやしかったらやりかえしてみろ!」

「そうだぞ、ちびすけ」

 何だ、この今まで感じたことの無い敗北感は。


 ……しかもなめられている気がする。


 モブっぽい言い方で煽られるのが無性に腹立たしい。

 

 ガキどもが……。

 


 まあ、そんな熱心になることでもないのだが、この身体が上手いこと言うことを聞かない。もらったスキルが身体強化のようなものではないのも確かだろう。

 この身体が未熟だという関係もあるのだろうな。アルデバランの学説では、やはり六歳という節目が人生において大きな分岐点となるようだから、その年にもしかすれば変化が起こるかもしれない。


 ただ、精神系の変化はもうやめてほしい。この身体になってから妙に落ち着かない。一人称然り、自分の前世と今世の混同こそないものの、言動はこの場所に適応しようと寄ってきている気がする。

 モンスターこそいないし、戦争だって知る限りしていない。そんな平和な国だとしても、どうしてこんなに強大な能力を適正として、生存方法として進化したのか、なぜ大陸は一つしかないのか、納得しがたいような、アルデバランの一種の残虐性のようなものが僕を蝕んでいる気がする。

 まあ、今そんなことを考えても仕方がない。何かあるにしたって、そこに備えることができるのが今の自分だ。必要ならばスキルがなくてもテレキネシスの一つや二つくらい使えるようになってやろう。

 今世では絶対うまくやるのだから。


 ……?


 いやいや、ちょっと待てよ。

 なぜ僕はこんなに活発に活動をしているんだ。

もっと自堕落いい来たっていいじゃないか。

 そうだ、うっかり目標なんて決めたから忘れていたが、もっと楽しんで楽に生きようじゃないか。そう思うとなんだか童心を取り戻したみたいにワクワクしてきた。明日からはもっといろんなことをしてみよう。逆に何もしないこともしてみようかな。


 そろそろ子どもの相手も疲れたしね。


 次の日は約束通り魔法の本は読みに行ったが収穫はゼロだった。ミエルさんが少し難しかったと言って簡単な本ばかり進めてくれている。有難迷惑なのだが、素直に感謝しておこう。


 お子様の相手も疲れたし、チャンバラごっこは、当分は遠慮する。

 


 子どもの時間は大切だから、有意義に過ごしていかないとね。





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