第一生 - 2 火ぐらいは起こせるようになりたいね

 そろそろ夕方になり始めるころだろうか。サバイバルを始めて大方四時間ほど。寝床作成にとりかかる。


 拾ってきた太めの木を立てて、上に来ていたシャツを掛ければ。



 ……完成!



「日よけ程度にはなるかな。まあ、日はほとんど届いてないけれど」


 天高く木が聳え立つせいでほとんど日の光がここまで来ないのだ。その割に周囲はぼんやりと、葉に反射するように明るい。そのため時間も割とわかりやすい。


 ちなみにだが、まだ虫を食べる気はない。カブトムシとか、カミキリムシみたいなのは幼虫を食べることができるらしいが、

まだ無理だ。

……わかってくれ。ギリギリになったら覚悟を決めるから。


 さっきから飛んでいる虫はやはり蚊のようで、血を時折吸いに来る。ハエはあまり見当たらないが食えないし興味もない。


 さて、おそらく今日最後の作業となる「火起こし」だ。火のおこし方は、まあわからないのだが。気合で擦ること以外分からない。乾いた木だったらだいたい火はつくよね。

 見つけてきた腕くらいある木と、こする用の細い、こすりやすそうな棘の無い棒を持ってきて、あと適当な枯葉を用意して。

 もし人がしばらく見つからなければ、山火事にしてしまうのもいいかもしれない。人も見つかるし、動物も自分の手で殺すことなく食べられる。火にも困らなくなる。いいや、少し恐ろしい考えかな。これはしばらく考えてからにしよう。


 石で太い木にくぼみをつけて、そこをひたすらに擦る。これでもかと言うくらい擦りまくる。



 一分後……



 燃えカスはあるが火はついていない。というか、これだけで木が燃えるのだろうか。葉っぱに移すようなやり方だった気がする。真ん中に葉っぱを置いて再チャレンジ。


 今回は行けそうな気がする。煙がたっている。すぐに木に近づいて火を絶やさないようにふーっと風を送り続ける。すると、時折オレンジに光っては消え、光っては消えを繰り返している。ただ、火はつかない。



「……なんでだ?」



 この攻防を繰り返しているうちに、もう辺りは暗くなっていた。光る生き物が水に反射して見える。蛍だろうか。光り方も蛍と同じだ。

 確か蛍の幼虫も食べれるんだっけ。なんにしても火をつけないことには食べようとも思えないだろうが。


 今日はもう火は諦めるしかない。火が付きやすそうなものも探せないほど暗いし、体力が底を付きそうで眠い。



 とんでもない一日だった……



 轢かれて、死んで。異世界に来て。不味い食べ物ばかり食べて。そういえばまだ満足に食べれていない。まあ、明日でいいか。これもいつか笑えるような、いい一日だったと言える日が来る。そう願って、寝ることにした。

 明日が希望で満ちた日であらんことを。

 送ってくれた、第二生をくれた神様に感謝を……




 はい、これで第一生は終わりです。


 え?短くないかって?


 そんなことはないと思うけど。何回かこんな感じで死んだことがありますし……

 じゃあ、復習としてどの点がいけなかったか、今回の死因となったかを考えていこう。



 一つ目は簡単。「神様に世界の詳細をきかなかったこと」だ。教えてくれない神様もいるようだし、そもそも召喚では現地民のみでどうしようもない場合が多い。

 でも召喚はそこそこ強い人が召喚されがちだし、翻訳魔法とか、そういった機械がある場所も多いから、詳細はきくことができるし、だいたい応用で乗り切れる。


 この世界は言わば過去にタイムスリップしているような転移だったから、それを加味する必要があった。それを聞いて、嫌なのであれば「他の魔法とかがある世界にしてください!」って抗議しないといけない。

 神様に何の目論見もなく転移させられるときには交渉できるように備えましょうってことだね。



 さて二つ目。これはなかなか難しいかもしれない。わかるかな?

 答えは、「無暗にサバイバルはしないこと」だ。

 サバイバルは、用意がなければ難易度が何倍にも上がる。死亡率も当然上がる。

 ただ、サバイバルとかキャンプの知識を身に付けておけばいいという問題でもないが、この場合だと、せっかく小川を見つけたなら上流か下流に向かっていけば、村や町の一つでも見つかったかもしれない。一日程度なら空腹も絶えることができるし、水さえあれば人間ある程度は生きられるからね。

 愚かな私のことを弁明するようであれだが、次の日にはそうしようと思っていた。うん。

 ただ運が悪かっただけ。

 大目に見てほしい。


 そして三つ目。「火のおこし方を知らなかった」というのも大きい。さっきサバイバル知識はいらないだのとほざいたが、これはもはや最低限必要な知識だ。火がないと死ぬとまで言ってもいい。

 人間に最低限必要な営みを与えるのは火なんだよ!


 ちなみに、今回の死因は「寝ている間に夜行性動物に食べられていた」から、火さえつけることができれば生き延びたかもしれない。少なくとも警戒はされただろう。


 もしものためのマニュアルだからな。火の起こし方は挙げておこう。



【きりもみ火起こし】

 まず、石を割って、木を削れるようにしておく。もともと尖っている石や、岩に擦るのもいいかもしれない。ナイフがあるなら必要ない。

 この際、自分の手を切らないように注意。ひょんな怪我で死ぬかもしれない。


 次に乾燥した木材として、土台の太めの木、火を移すための木を薄くしたもの、擦るための細くて頑丈で、まっすぐな棒を用意。また、種火を入れる枯れ草を敷いておく。

 そしたら土台に穴をあけて、ひたすら擦る。この時なるべく力を入れて擦ること。力を入れるほどつきやすくなる。煙が出てきたらその擦っていた粉を枯草において、風で消えないように囲いながら、そっと息を吹きかけ続ける。


 これで完成。このまま火を絶やさないようにしておけば安全に過ごせるな。




 ただ、火を常につけるのは獣には効果があるが、かえって敵をおびき寄せることにもなりかねないので注意が必要だ。盗賊なんかがやってくることもある。細心の注意はどんな場面でも有効のため、心にとどめておくと良い。


 さて、今回は残念ながら雑魚死をしてしまうモブにすらなり得ない死に方をしてしまった。「俺たちの旅はこれからだ!」にすらならないとは情けない。

 逆に最初にこの死に方ができて良かったともいえる。

 次は頑張ろうと思えた。



 情けなすぎて……



 だからなのか、こんな私にもまた僥倖が訪れた。



 目が覚めるとそこは、一度見たことがあるような光景。有無を言わさぬ存在感が絶大である一方、無のような空間。

 またあるかもしれないとは思っていたが、こんなに早く訪れるとは思っていなかった。


「ああ、死んでしまうとは情けない」

 神様にしては王様のような第一声だ。

 また死んだのかと悲しく思う。

 これを人生というのなら「人生で二回死んだ」という称号がもらえるだろう。


「ん、うん。あなたは死んでしまいました。次の生を授けましょう」

 ありがたい話だ。このチャンスは次に生かせる。ただ、二回も生き返ることは可能なのだろうか。いや、待て。そもそも次の生を授けるとしか言われていない。記憶は無くなるのではないか。

「安心しなさい、人の子よ。あなたは人の言う転移をした後、二十四時間以内に死亡している。規約によればこのように不幸な人物にはもう一度転移、もしくは転生させることが許可されている」

 おお、マジか。と言うより心は当然読まれている。

 さあ、次は……さすがに転生がいいな。うん。サバイバルはもうこりごりだ。

「そうか人の子。転生か。ならば人間として、もう一度生まれ変わることを許可しよう」

有り難い。次がないことを祈りたい。あ、言い忘れた……

「あの、その世界に魔法はありますかね?」


「うむ、魔法か。あるにはあるが。もとよりお前の最初の世界にも存在しているが」

 そうだったのか。確かに、世の中には不思議が満ちていた。

「まあ、お前の知り得る範疇ではなかったがな」


…………何も言わないのが正解だろう。


「まあよかろう。魔法のある世界だ。次は早死にするな」




 こうして私の第二生は、赤子として魔法のある世界「アルデバラン」に産み落とされた。名前はアルト・エルン。性別は男だ。

 次は絶対に失敗しない。




 二回でも多いほうなのだが、私はこの後もっと多く生を謳歌することになる。

注意事項は増える一方だが、おさらいしておこうか。

①神様に異世界の詳細を聞く

②無暗にサバイバルはしない

③火は起こせるようにする

 今回は最低限これを覚えておいてほしい。

 私がこんなことを書く理由だったな。

 それは、未来の君たちを思ってと、私を憂いてだ。また私はさらなる異世界へと行く。そして同じように前途多難な君たちは呆気なく死んでいく。そんな残念な未来はあってはならない。君たちがこれを知ることが未来を拓くかぎになればと思う。神に祈っても足りないことなどいくらでもあるのだからな。



アルト・エルンより――私とあなたに敬意と愛をこめて

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