異世界に行った際の説明書!あなたに贈る異世界マニュアル

坂本一

第一生 神様に詳細はちゃんと教えてもらいましょうね

 まず初めに。

 これを読んでいただけたことに感謝を。そして、有事の際にはこの本を机の右側にでも起きながら現状の把握に努めると良い。

 有事の際って?

 それはもちろん、あなたが生まれ変わった際にでも。





 私がこんなものを書いているのには理由がある。あれは懐かしきかな、最初に異世界へ行った時のこと。ありきたりなものだが、事故にあって、ひき肉になり、それを見かねた神様が異世界へと転移させてくれたのだ。日本にはたくさんの神様がいるから、日本人は観光客くらいにはたくさんいるそうだ。世界や時代は様々だから会うことは滅多にないけど。

 だがしかし、問題はここからだった。先ほども言った通り私がしたのは異世界への「転移」だった。



 ここでは違いを説明しなければならないだろうね。

異世界へ行くには、

・他者、主に人間やその近縁種から呼び出される「召喚」

・身体や記憶、精神がそのままで行く「転移」

・異世界もしくは現世で新たに産まれる「転生」

・年齢や能力が大幅に変化して生まれ変わる「リメイク」

・元いた人物になり替わる「憑依」

など様々にある。



 ちなみに神隠しは転移の一種であるとされていて、異世界でも多々あるのだが、神隠し型はすぐに元の世界へ返されてしまうらしい。「歩いていたら急に異世界にいた」などの場合は運が悪かったと思うか、旅行でもしている気持ちでいると良い。一日経たずに元居た場所に戻る。他にもいろいろあるようで、呼び方もあくまでその世界に沿うような形となる。これは私が見つけたあくまで類型なのだ。


 それで私は神様に転移してもらったわけだ。よくあるスキルプレゼントもあった。この神様は完全ランダム。望む能力を与えることは稀だそう。まあ、神様にも好みはあるだろうが僕のことはそんなに好みじゃないみたい。


「さあ、異世界に出発!」

 そう息巻いて早速異世界へと行かせていただいた。ちなみにこの時の状態は死ぬ少し前の状態と全く同じ。通学途中だったはずだが、服装も頭も痛みもなかった。かばんは無いが、まあ問題ないだろう。ポケットの中身のペンはあった。よくわからん仕組みだ。


 さあ、異世界やってまいりましたよ、と思いそこにあったのは森。木々と草と言い表せぬほど広大ない鬱蒼と茂った森。自然の広大さにあっけを取られるが、本当に参ってしまった。



 ……どうすればいいのか分からない!



「いやいやいや、普通に考えて町とかに転移させてくれないか?そもそもなんで森なんだよ」

 これは当然のこと。急に町中にズドーンと人が現れる。街中パニック。私はお縄につくことになるだろう。


 周りをきょろきょろしても何もいない。もう、道なき道を歩くしかない。


「お、おっと、あんなところに水が」

 今日一日はどうにか生存できそうだ。良かった。などと一息つきながら安堵する。そうだ、とりあえず町か人を見つけるまでは生き延びなければならない。そう、ここはもうサバイバルの場なのだ。

「とりあえず水辺にキャンプを張って、しばらくはここが拠点だ」

 ある程度生き残れると過信していた。サバイバルなんて動画サイトをちょこっとかじった程度の私なんかができるわけもない。


 拠点が確保できれば、次の作業。とりあえず異世界と言えばこれ。

「能力確認だ!」

 異世界転移最初の醍醐味。人生最初で最後のリセマラみたいなものだからな。やり直しはきかないけど。


 で、どうやって能力確認するんだ?

「す、ステータス」



 …………



 恥ずかしくて誰も聞いてないけど顔を覆いたくなった。多分顔は真っ赤だ。変な汗が止まらない。さあ気を取り直して。

「ステータスオープン」



 …………



 いかん、恥ずか死してしまいそうだ。

「うーん……」

 どうやって自分の能力を確認するんだ。これでは神様がくれたスキルも何かわからない。


 そもそもこの頃はわかっていなかったが、この転移した世界には魔法のようなものは存在していないのだ。比較的に遅れた世界。原始的民俗が暮らし生活をして、科学も魔法も発達していない、劣化版現代。普通に考えて、現代でできなかった「自分の能力を知る」なんてことできるはずもなかった。

 後に知るが、この時のスキルは剣術のスキルである。ちなみにはずれもはずれのスキル。チャンバラは子供でもできる。単に剣を振るのと、斬るのでは違うのだ。

 さらに言えば言語も通じなかったもよう。オワコンにもほどがある。


 仕方がないので現状の確認を続ける。気候は比較的温暖。多湿というほどではないが乾燥はしていない。少し虫が多い。水辺だから当然かもしれない。魚は泳いでいないし動物も見当たらない。時おり地面のほうで気を踏む音が鳴るのは恐らく草食系の動物かな。モンスター出ないと嬉しい。いつもは水を飲みに来ているようだが、こちらに警戒して姿は見せない。

「なんだか全生物に嫌われたみたいで悲しいよ」

 独り言もむなしく散って行く。

 ただし、蚊には相変わらず好かれているみたいだ。夏はどこの世界でも私を蝕むようである。


 とりあえず、周りをかるく散策して、テントでも建てようかな。水は見つかったが食べ物がなければものの数日で死ぬ。できれば火もおこしたい。


 川辺に良さげな空き地を発見。ここを拠点としよう。必要なのは、そうだな、雨が降った時のために木を立てて、その上にビニール……はないな、服でものせておけば小ましにはなるかな。


 周囲を見渡しては、見渡す限りあるだけの種類植物を集めた。キノコはなんだか危なそうな目が回りそうな柄をしていたので採るのはやめた。他にも千切ったところから変な臭いがする植物もやめておこう。花は摘まなかった。食べれるってあんまり聞かないからね。それで結局食べれそうなのは。わらびみたいな形をしたぐるぐるの葉、ニラみたいなやつ、猫じゃらし、ブルーベリーのような紫の木の実、そして紅葉色の落ち葉。木って食べれるのかな。わからないからやめておこう。


 全部食べれると聞いたから採ったが、正直心配だ。項垂れながら拠点に戻って、毒があるか舐めてみよう。


 拠点につけば持ち帰ったものを投げ置いては、水を掬いがぶがぶと飲み干した。あれ、水って煮沸せずに飲んでいいのか。見た目は綺麗そうだからいけるか。魚がいないのは少し心配なところだが、気にしたら負けだ。


 さて、食べ物の確認。猫じゃらしはもじゃもじゃとしている部分はこそいで茎だけ食べてみる。

 …………食えなくはない……が、それにしてもまずい。苦い。自然の味がする、が食える。これはもしもの時の非常食かな。火であぶりでもすれば……ぎりぎりかな。もう食べたくない味だった。噛み応えも無くて腹にもたまらない。


 お次はブルーベリーみたいなやつ。よくよく考えて見れば現世では実際にブルーベリーを見たことがない。どこぞのコマーシャルよりも粒が小さい気がする。まあ、くよくよしていても仕方がない。一思いに割って、少しだけ舐める。味は……

「おああっ」

 なんて苦くて酸っぱいんだ。えぐみのような食べれない拒否反応よりも、顔をすくめるほどの酸味が特徴的だ。食べれなくはない、しかし、ぜんぜんうまくない。これ、毒じゃないよね?

 なんだか心配になって水で口を注いだ。薄めれば案外始祖ジュースみたいな味かもしれない。だがぜいたく品はまだ早いような気がするし、食べれたものじゃないのでなしだ。


 ニラみたいなやつは正直食べようか迷っている。水仙がよく似ていて食中毒を起こすと聞いたことがあるからだ。


「よし、やめとこう」


 自分の小心者にはあきれるが、これも生きるため。


 最後は紅葉みたいなやつ。色も艶も形もほぼ紅葉。天ぷらでは食べれるので、これが紅葉であれば食べられる。では、いただいて。しゃくしゃくという音が響く。いつまでたっても口に残る。まあ、食べられる。一番美味いまである!


「しばらくは紅葉狩りだな」



 こうして今日一日は生きられる目処がたった。

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