第37話 ギルド長の依頼(12)
「レン!?」
「あ、あれ?ニッカ、それにロイさんにドリスさんも。どうしてここに?」
「それは私たちのセリフでもあるんですけど…レン今、ギルド長の特別依頼って言いましたか?」
先生の問いにレンの代わりにネスが答える。
「ああ、そうだよ。彼が今回君たちに同行する冒険者だ。レンとりあえずここ座って」
ネスが座っているソファーの自分の横のスペースをポンポン叩く。
「ネス、どういうことですか?」
先生が尋ねる。
「今回の遺跡調査で君たちに同行するうちのギルドの子。前にベネット北の森で一緒に行動したらしいし丁度いいかなって」
ネスが隣に座ったレンの肩に手を置く。
「丁度いいってなんだよ…それに、レンはランドたちと同じパーティーじゃなかったか?昨日だって一緒にいたし」
たしかに。
ドリスの言った通り、レンと会ったときは、いつもランドとエリーゼが一緒にいる。
「ほんと三人には申し訳ないんだけど、ギルド側の事情でさ…うちのギルド、ベテランの冒険者が少ないんだよね」
「昔からの問題ですね。ある程度、経験を積むともっと大きな街に行ってしまうっていう」
「そうそう、ランドみたいに事情を分かってくれてフェブラルを活動拠点にしてくれる人もいるんだけど、それでも中・高ランクの冒険者は依頼量に比べて人が足りてないのが現状なの…」
ネスが説明を続ける。
「レンは期待の新人だし、早めに一人の依頼で経験積ませようかなって」
「…私とロイもいるし、万が一でも大丈夫だろうと?」
ドリスがネスに向けている目を細める。
ネスはごまかすように舌を出した。
「ホントにそっちの都合だな…」
「ごめんごめん、頼れる人が少なくて」
呆れたように両手を広げるドリスとため息をつく先生。
二人は相談するかのように目を合わせ頷き合うと、ネスに向き直る。
「私たちはそれで構いませんよ。後で言いたいことはありますが」
「良かった!じゃ、遺跡の説明に入るね」
後半の言葉をわざとらしく無視したネスがわきに用意していたテーブルに地図を開いた。
「まず、ここがフェブラルね」
ネスが地図上を指さし、下へスーッとスライドさせる。
「ここから南に行ったここらへんに今回目的の遺跡がある。レンは一回行ったことあるんだっけ?」
地図上に記された四角い印の上で指を止めると、その場をトントンと軽い音を立てて叩く。
「入口までですけどね」
レンが頷く。
「じゃあ、最悪道に迷ったなんてことはなさそうね。場所以外に聞きたいことはある?」
先生とドリスはしばらく考えてから首を振る。
「あらそう。一応言っておくけど、危険はないとはいえ遺跡の調査だから気を付けてね」
「わかってますよ。では、もう出発しちゃいましょうか」
「そうだな、だいたい話も聞けたし」
そんな軽い感じでいいんだ…
「レン、気負っちゃだめだからね。それにロイとドリスはそういう経験は豊富だから最悪頼っちゃっていいからね」
へー
二人とも旅とか冒険とかしたことあるんだ、と二人に目を向けるとなんか難しそうな顔でネスを見ている。
レンは依頼内容の対象が僕たちということもあって、ある程度緊張は解けているようだ。
ネスの助言に頷くと、僕たちに向き直る。
「今回、遺跡調査に同行します。
丁寧なあいさつと聞き馴染みのない言葉に呆然していると、隣の先生とドリスが同じく丁寧に頭を下げるのを見て慌てて二人に合わせる。
「こちらこそ、よろしくお願いします」「よろしくな」
顔をあげた二人がレンに声をかけると早速部屋を出ていく。
僕はレンに駆け寄ると「よろしくお願いします」とさっきの先生やレンを真似て声をかける。
「うん、ニッカもよろしく」
僕たちも先生たちを追って部屋を出ようとすると
「ニッカ、その帽子はいつもかぶってるの?」
ネスに呼び止められた。
「はい、先生に買ってもらって。変ですか?」
なんとなく帽子に手をかける。
するとネスはフフッと笑って———
「いや、似てるな~と思ってさ」と遠くを見て呟いた。
なんのことだろうなと眺めていると我に返ったネスが
「ほら、置いてかれちゃうよ~行った行った~」と手を振った。
前もこんなことあったなと思いながら、言われるがままレンと一緒に先生たちを追った。
「また、ロイたちはやり直すのかな…」
一人、部屋に残ったネスはそう呟く。
——————————————————————
「遅いぞー」
ギルドを出ると、入る前にぐずっていた場所でドリスが腕を組んで立っていた。
ドリスは放っておいて先生の元へ寄る。
「レン、徒歩で十分な距離ですよね?」
先生がネスに貰ったのだろうか手に持った小さい地図を見ながら尋ねる。
「はい、1、2時間で着くと思います」
「おーい、早くいくぞ。聞きたいこともいっぱいあるからな」
無視されて意地になったのかさっきの場所から一歩も動いていないドリスが手をあげて待っていた。
その子供っぽい仕草に顔がほころぶ。
「行きましょうか」
優しそうな笑みを浮かべた先生が言う。
一行は新たな出会いの待つ『ルーライト遺跡』へと出発したのだった。
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