第38話 ギルド長の依頼(13)
フェブラルを出た一行は順調に遺跡に向けて歩みを進めていた。
「ねえレン、さっき言っていた
ギルドで聞いてから気になっていたことについて訪ねてみる。
「冒険者ランク、簡単に言うと冒険者の階級のことだね。
そう言って、レンが胸ポケットから鉄製のカードを取り出す。
ベネット北の森の入口で僕たちが初めてレンたちと会ったとき、パーティーリーダーのランドが状況説明と共に先生とドリスに見せたものだ。
あの時は何が何だかさっぱり分からなかったが、レンの説明を受けてからよくよく見てみると星らしきマークが刻まれている。
「これが星か~」
カードを受け取って見てみる。
左上に星のマーク、隣に名前、そこから下には所属先や登録日なんかが記載されていた。
刻まれた文字は精巧の一言で、やり直しがきかないであろう鉄製のカードによく書き込めたなと感心してしまうほどだった。
その文字の美しさに惹かれて星の上を指でなぞってみたのだが…想像していた刻まれた文字の凹凸の感覚がない。
不思議に思って何回もなぞっていると
「そのカード、星とか文字は魔道具で記されてるから触っても感覚ないぞ」
横からドリスが覗き込んでくる。
「「へー」」
僕とレンの声が重なる。
今一度カードの文字をよく見てみると、ほんの少しだがキラキラと光っている、…気がする。ほんの少しだけ。
「ニッカはともかくレンお前は知ってなきゃダメだろ。最初に説明受けなかったのか?」
「いや~その~」などとゴニョニョ言って誤魔化すレン。
「ネスは新人の教育はちゃんとやってんのかよ…」
レンの反応を見てため息をつくドリス。
「ところで、今は冒険者ランクは七段階にまで増えたんですね。ネスがギルド立ち上げたときは五段階とかでしたよね」
先生がドリスに尋ねる。
「あー、確か…そうだな。まあこの国も色々あるんだろう」
「先生たち詳しいんですね」
ギルドもないベネットという街に住んでいて、それだけの知識がある先生とドリスを意外に思っていると
「まあな、ネスに付き合わされて色々勉強したからな」
「あれは、大変でしたね。国ごとに名前も組織の形も決まりも違うから…」
「国ごとにですか…?」
レンがそれも初耳ですとばかりに目を丸くする。
「そうそう、代表的なもので言ったら…ハンターとか言ったかな?特徴は組織に属さず個人で活動している。とかな」
流石、情報屋。
「「へー」」
再び声が重なる。
「レンお前、いつか他の国に行くつもりなら知っといた方がいいぞ、色々」
「わかりました」
素直に頷くレン。
冒険者やギルドまたその歴史などについて話していると——————
「あ、見えました。あれですあれ」
レンが前方の石製の建造物を指さした。
「おー、まさに遺跡だな」
「ですね~」
先生とドリスが変わらないテンションで反応する。
ニッカはオレンジ探しのときにも味わった緊張感に、震えるこぶしを握り締めて三人の後ろを追ったのだった。
入口の前まで近づくと、街道からは入口しかうかがえなかったその全体像が正体を現す。
木々の隙間にひっそりとたたずむその建造物は現代の建物とは異なるつくりをしていた。
ベネットではもちろんフェブラルでも、似たつくりを見たことがない。
また、石製の壁に下から絡みついた木の根が、この建造物ははるか昔に建てられ、長い間手入れされていないことを物語っていた。
遠くから見たときは、ベネットにある先生の店くらいと感じたが近づいてみるとフェブラルの冒険者ギルドくらいありそうだ。
「思ったより大きいですね」
遺跡を見上げていた先生が思わずそう呟いた。
「念のため隊列は組みましょうか」
レンが言う。
以前ベネット北の森に入る前にも、ランドたちとこんなやり取りをした。
やり取りをしたと言っても僕は後ろで見ていただけだが…
「先頭は僕が、その後ろにドリスさん、ニッカ、ロイさんでいいですか?」
「うん、いいんじゃないか?」
「ええ、私もレンに従いますよ」
僕はよくわからないが、先生とドリスがいいと言うのならと賛同する。
「では、行きましょうか」
とレンが先頭で遺跡に入ろうとすると——
「まった」
とドリスが斜めがけのポーチから何やら細長いものを取り出す。
「なんですかそれ」
一見何の変哲もない木の枝を指して僕が尋ねてみる。
「まあ、見とけ」
と前にも見たような得意げな視線を向けながら、その枝を一振り。
すると————
ドリスが手に持った木の枝の先端の上が何やら光輝きだし、小さなオレンジ色の光の玉が生まれた。
枝自体が光っているというよりは、枝の先の空間が光っていると言った方が正しい。
枝で光を持っている?ような感じだ。
初めての光景(たぶんレンも)に二人とも絶句していると、ドリスが得意げな顔のまま「いくぞ」と一言。
さっき決めた隊列を無視して遺跡にズカズカ入っていく。
ドリスさん、得意げになりすぎて隊列忘れてんだろうな…
呆れた顔をしていた先生は慌てて後を追い、我に返ったレンと僕もそれに続いた。
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