第36話 ギルド長の依頼(11)



——————翌日ギルド前




「うう、またネスに合うのか…」


「そんなにぐずってたって仕方ないですよ。ニッカの後ろにでもいたら多少マシになるんじゃないですか?」


僕の後ろなんですね…


一昨日の食事後、ギルドに来た時と同じ光景が目の前にあった。


「ドリスさん少しの間我慢するだけですから。ほら、立ってください」

子供みたいに地面をいじくるドリスに声をかける。


「じゃあニッカお前の後ろに隠れるから、何かあったら私を守ってくれ」

しぶしぶドリスが立ち上がる。


「情けないですね、まったく…ほら行きますよ」

呆れ顔の先生が先にギルドへ入っていく。

僕はなぜか年上のドリスの手を引きながら先生の後を追った。





 前回来た時は夕方ということもあってかギルド内にいた冒険者は2、3パーティーほどだったが、今日はその比ではない。


 昼前のこの時間は午前中の依頼の報告をしていたり、午後に受ける依頼をボードの前であれこれ意見交換していたり、縦長テーブルに腰かけて昼食をとっていたりとギルド内に冒険者が溢れかえっていた。



 ベネットでは滅多に見ることのない背中や腰に多種多様な武器を構え、鉄製や革製の防具を身にまとった冒険者たちの恰好は、ランドパーティーを見ていたといえ珍しいもので見入ってしまう。


 また、冒険者と聞くとランドみたいなガッチリとした男性を想像してしまうのだが、意外とエリーゼのような女性だったり僕やレンと変わらないくらいの子もいるようだ。


受付に向かう途中、キョロキョロとギルド内を見回していると

「あんまりジロジロ見るなよ~」と僕の後ろに隠れるようについてきているドリスが耳元で呟く。


「冒険者っていろんな人がいるんですね」


「そうですね、これもネスの功績の一つです」


「功績?」


「そうです、話すと長いので今度にしますが。さて着きましたよ」


 

 受付カウンター前に着くと、丁度前にいた冒険者が要件を済ませて僕たちの番になる。


「すみません、ギルド長からの依頼です」


先生がわきに抱えていた鞄から何やら紙を一枚取り出して受付嬢に手渡す。


 紙を受け取った受付嬢は内容を確認するや否や「ご案内いたします」と丁寧に告げた。


先生は少し悩んだ後「お願いします」と頭を下げる。



一昨日と同じように階段を上がり、廊下を進んだ一番奥の部屋へ案内される。

受付嬢がドアをノックすると何か言う前に中から「はーい、どうぞー」と声が返ってきた。


「ここまでで大丈夫です、ありがとうございました」

先生が伝えると受付嬢はお辞儀だけして足早にロビーへ戻っていった。





 ドアを開け部屋に入ると赤髪でスレンダーなからだつきのギルド長は作業用の机で書類関係の整理をしていた。


「あら~いらっしゃい!ちょっと座っててね。これで最後だから」

そう言うとネスは手元の紙に何か書き込み始める。


サラサラとペンを動かし、それが終わると机の端に積まれた書類の上に雑に置いた。


「ネスそういう書類は大事にした方が…」


「…言われなくても分かってるって」

ネスは先生の言葉を適当に流しながら向かいのソファーに腰かける。




「昨日はみんな楽しんだ?年に一回の特別な日なんだよ」


「ええ、フェブラルの街を堪能できましたよ」


「よかったよかった。いい街でしょ」

ネスがニコニコしながら頷く。


「あ、でもドリスは甘い食べ物大丈夫だった?」


ドリスが「意外とどうにかなったぞ」と返事をする。


今日はいきなりドリスに飛びついて抱きしめるなんてことはしないようだ。


ドリスの返事を聞いたネスがほっとした表情を見せる。


それでもやっぱりドリスさんのこと大好きなんだな~


ネスの表情を見て思う。




ボーっとことの成り行きを見ているとドリスが本題を切り出した。


「それで、この間の説明の続きだが遺跡調査に一緒に来る冒険者ってのはどこにいるんだ?」

ドリスが僕たちしかいない部屋を見回す。



「冒険者?そ・れ・は~」

ネスの意味深な間に「まさかお前じゃないよな!?」目を見開くドリス。


「私!だったらよかったんだけどね…残念…。彼はもうそろそろ来るかな?」


それを聞いたドリスがあからさまに安堵した表情を見せる。

と、ほぼ同じタイミングでドアからノックの音が聞こえてきた。


ネスがソファーに座ったまま「はーい、どうぞー」と声をかけるとドアが開く。


「し、失礼します。ギ、ギルド長の特別依頼で参りました」


 個人的に護衛という言葉のイメージから、てっきりランドのような前衛よりの冒険者を想像していたのだが、聞こえてきた声は僕と同じくらい若く、少し震えている。


あと、なんか聞いたことあるような…



 振える声の方に目をやるとそこには、ここ最近よく一緒にいた冒険者パーティーのメンバーの一人のレンがガチガチに緊張した状態で立っていた。

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